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「さすがアラクネの神経毒だね。」


 燃え盛るヴォーグを見ながらルシウスが呟く。


 アラクネの神経毒は運動神経に作用する。


 毒に侵されると運動神経が正常に働かなくなり脳からの信号をめちゃくちゃに伝えるようになってしまうのだ。


 先程のヴォーグの様に前足を動かそうとしているのに尻尾が動いたり口を閉じようとしたら目を閉じてしまったりと言った具合である。


 キャロルは燃え尽きたヴォーグの死骸から魔石を取り出す。


 腕輪が緑から青に変わった。


 テスト完了らしい。


「お見事。」


 ルシウスがニッコリ笑いながらぱちぱちと拍手をしてくる。


「…どうも。」


「じゃあ今度は私の番だね?」


 ルシウスはキャロルの水晶玉を覗き400m程先にヴォーグがいるのを確認すると立ち上がり呟いた。


「アイス・アロー。」


 ルシウスの手から氷結晶が飛び出し一直線に森の奥に飛んで行く。


 10秒位経つと氷結晶の飛んで行った方向からギャイン!と言う獣の鳴き声が聞こえた。


 ルシウスの腕輪が青に変わる。


 テスト完了らしい。


 30秒もかからずテストを終わらせやがった。


 何がお見事だ。


 やっぱりこいつ嫌いだ。


 キャロルがやさぐれているとルシウスが困った様に微笑む。


「…見事なお手前ですね。」


「キャロの魔道具で詳細な場所が分かったからたまたま上手くいっただけだよ?」


 場所が分かったからと言って姿も確認せず瞬殺なんてやっておきながら何がたまたまだ。


 嫌味にしか聞こえない。


 キャロルが不貞腐れているとルシウスがキャロルの頭を撫でる。


「…それ前も言いましたが止めて下さい。」


「私は撫でたいからダメ。」


 前は止めたのに2ヵ月経って慣れたのか止めようとしない。


 舐められている。


 確実にこの2ヶ月でこいつはキャロルの事を舐め腐ってきてやがる。


 これは良くない事だ。


 キャロルにも一応筆頭魔術師候補としてのプライドがあるのだ。


 舐められるわけにはいかない。


 しかし悲しいかな相手は王太子。


 燃やしたり傷付けたら殺られるのは自分の方だろう。


 キャロルは少し考えて頭を撫でてくるルシウスの手を掴んだ。


「アイス・ハード」


 ルシウスの腕が氷に覆われた。


 ルシウスは一瞬驚いた顔をしつつもすぐ火魔術で氷を溶かしながら苦笑する。


「やってくれるね?」


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