55

「てかキャロルちゃんと髪拭けよな。

 風邪ひくぞ。

 夏風邪は馬鹿がひくって言うんだからな。」


「まだ夏じゃないんで大丈夫です。」


 言い返すがレオンにタオルでガシガシと髪を拭かれる。


 少々痛い。


 コンコンコンとノックの音が聞こえたが多分レオンのメイドが昼食を運んで来たのだろう。


 タオルで全く見えないが。






 レオンの手がピタッと止まる。


 何だ?と思いタオルを避けると目の前にルシウスが立っていた。


「…ねえ二人共」



 いや魔王が立っていた。



「一体何をしてるんだい?」



 ゴクリとレオンが喉を鳴らす音が聞こえた。


 お怒りだ。


 確実にお怒りだ。


 トレードマークとも言える笑顔さえ消え去っている。


 確実に今まで見た事がない位怒り狂っている。


「どっどうした殿下…。」


「…レオン、下にリヤカーが出しっぱなしになってたよ。」


「あっあぁ、後で片付け」


 言い終わる前にギロリとルシウスが睨み付ける。


 ひぃぃっと情けない悲鳴をレオンが上げた。


「…後で?」


「いっ今すぐ!

 今すぐ片付けてくる!!」


 レオンが慌てて部屋を飛び出して行く。


「ちょっレオン私も」


 こんな怒り狂ってる魔王と2人なんて冗談じゃない。


 キャロルも立ち上がり扉に向かう。




 ダンッ!!!!



「…へ?」


 扉は魔王の足によって目の前で物凄い音を立てて閉められてしまった。


 蝶番は大丈夫だろうか。



「…ねえキャロル」


 耳のすぐ側で重低音が聞こえる。


 いる。


 確実に真後ろにいる。


 先程シャワーで流したはずの汗が背中を伝うのが分かった。


「色々聞きたい事があるんだけど。」


 振り向いてはいけない。


 ホラー映画の鉄則だ。


 振り向いたら確実に殺られる。


 肩に手を置かれヒッと小さい悲鳴が口から漏れる。


「…こっち向いてキャロル。」


 向けるわけがない。


 向いたら死ぬと分かっていて向く奴がどこにいるというのか。


「…顔を合わせたくない?」


 また声が低くなった。


 手を置かれた肩がどんどん冷たくなっている様に感じる。


 内心は思いっきりイエスだがここで頷くのはヤバいと脳内で警報が鳴り響いている。


「…沈黙は肯定と捉えるよ。」


 その言葉と同時に肩に置かれた手にグッと力が入った。


 次の瞬間グイッと肩を引かれソファーに投げられる。

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