56

 ギシッとソファーのスプリングが鳴る。


「うぉえ??」


 ソファーに無理矢理座らされた形になり危険を感じて慌てて立ち上がろうとした。


 そんなキャロルを両腕で挟むようにルシウスがソファーの背もたれに手を置く。


 逃がす気はないらしい。


 ネズミ捕りにかかったネズミの気分である。


「ねえキャロル。」


 頭の真上で声がする。


 最後の抵抗として顔を上げず床に落ちている羊皮紙を見て現実逃避をする事にした。


 ルシウスはキャロルの髪を一房手に取る。


 まさか髪を切られるんだろうか。


 そんなにこの黒髪に恨みでもあるのか。


「髪…濡れてるね。」


「…シャワー浴びたので。」


 羊皮紙に目をやったまま返事をする。


 何故かまた空気が重くなった気がした。


 これ以上重くなりようがないと思っていたのに。


「へえ…どうして?」


「…えっと…汗をかいたので。」


 ぶっちゃければ今すぐもう一度シャワーを浴びたい位だ。


 背中の汗が止まらない。


「…へえ…レオンと汗かくような事してたんだ…?」


「はあ…まあ…。」


「…何してたの?」


「それはあの…」


『えあこんでぃしょなー』を作っていたと言っても、そもそもその『えあこんでぃしょなー』の説明からせねばならないだろう。


 いやリヤカーを引いていた時点で汗だくだったのだから塔を出た所から説明すべきなのか。


 どの程度の説明を求められているのか分からない。


「答えられないの?」


「いや…その…。」


 そもそもこの威圧感を前にまともに説明しろという方が間違っているんじゃないだろうか。


 説明させたいならまず対話をする為の環境も大切なんだとキャロルは言いたい。


 でも言えない。


 自ら死ぬ勇気はまだない。


 ルシウスの視界に干されたレオンのパンツが目に入り眉間の皺が一層濃くなった事を、下を向いているキャロルはまだ知らなかった。


「…巫山戯た真似を。」


「は?」


「キャロル、俺はね自分の物に手を出されるのが死ぬ程嫌いなんだ。」


 何か言葉遣いどころか一人称まで変わってないだろうか。


 地雷源が分からない。


 多分知らない間にノンストップで地雷を踏みまくったのだろう。


「…はあ…それはまあ皆様そうですよね。」


 地雷を踏まない様答えるが声が震えるのも仕方ないだろう。


「…だから手加減しないから。」


 その瞬間首を鋭い痛みが襲った。

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