診断結果

 自由研究の予定も決まった。

 そのほか、夏休みの予定も決まった。

 プールに行くのも楽しみだし、なにより夏になるとエリおばさんのお店で夏季限定のスイーツが発売される。

 その名も『ピーチマウンテンアイスパフェ』!

 下からスポンジケーキ、桃アイス、生クリームに加え、桃を丸ごと一個贅沢に使ったスペシャルなパフェだ。

 さっぱりジューシーな桃のおかげで夏バテなんて吹っ飛んでしまう、そんな素晴らしいスイーツだ。

 そしてなんと、リーズナブルな価格なのである。

 エリおばさん、いったいどこからそんな安く仕入れられるのか…こちらもこちらで謎の多い人物である。

 でもなによりも楽しみにしているのは夏休みの重大イベント…『ユグドラシルONELINE ランキングマッチ Summer Festa』だ。

 お盆に毎年行われる今の時代の最大のイベント。

 誰が最強のプレイヤーかが決まるのだ。

 今度の優勝は万年最強の妖怪『稲荷・雅』か、悪魔最強の『焔竜』か、はたまた妖精最強で紅一点の『エルフ・ロゼッタ』か。

 今までだったら優紗…『エルフ・ロゼッタ』をファンだからという理由で応援していたけど、今はみんなに勝ってほしいその気持ちでいっぱいだ。

 みんな負けてほしくないし、みんな勝ってほしいって…ちょっとわがままだなと自分自身思う。

 出会った期間は短いし、私は役に立つことはなかったけれど、あんな命をかけた戦いを一緒にくぐってきたから…他人事じゃないと私は思っている。

 あれこれ考えていると、優紗からメールが届いたことに気付く。

 内容は御神楽さんの診断結果だった。

 私は急いで優紗に電話をしても大丈夫か、確認を取った。

 すぐに優紗からは病院近くの個室があるカフェでのんびりしてるそうなので電話をしても大丈夫という返信が来たので、私はさっそくかける。


「も、もしもし!?診断結果、どうだったの!?」


 私が話すと優紗ではない、別の誰かの声が聞こえてきた。


「あっ、やっほ~叶波。さっきぶりだね」


 と呑気な声が聞こえる。

 この声は御神楽さんだ。


「御神楽さん!?だだだだだ、大丈夫ですか!?」

「いや逆にキミの方が大丈夫?ひとまず落ち着こうよ」

「…御神楽さん?どなたのせいで叶波がこんなに慌てているとお思いで?」


 と電話の向こうで優紗が御神楽さんを注意する声が聞こえた。


「わたくしの端末をかえしてくださる?それとあなた自分の端末持っていらっしゃるでしょ?」

「おっとゴメン」

「もしもし叶波?こちら桜宮です。只今、御神楽さんと代わりましたわ」

「電話の感じだと御神楽さん元気そうだったけど…診断結果どうだった?」

「はい、何の問題もないそうです。まあ…、お医者様には目一杯叱られていましたわ。なんでもっと早く相談に来なかったのか、と」


 それを聞いてなんとなくその様子を想像できた私がいる。


「目立った損傷は確認されなかっただけです。失われた記憶が一気に戻ってきたので、どこかしらダメージがある可能性はあるそうなので、しばらくは病院通いですね」


 私に説明しているが、同時に御神楽さんにもう一度言い聞かせているようにも聞こえた。

 遠くから「わかってますぅ~」という御神楽さんの声が聞こえた。


「穂村さんには連絡したの?」

「はい、同時刻に御神楽さんが送ったはずですわ」

「あっ、炎真も電話しても大丈夫かって来た。どうせならグループチャットで電話繋げた方がいいんじゃない?」


 という御神楽さんの声が聞こえる。


「今の御神楽さんの言葉聞こえました?グループチャットでかけなおしましょう」

「うん、わかった」


 私は一度優紗の電話を切り、グループチャットを起動した。

 …そういえば、ブルート…じゃなくて千染さんはどうしたのだろう?

 全然声が聞こえなかったけど、大丈夫かな?

 そんなことを思っているとグループチャットの方から電話がかかってくる。

 私はそれに出る。


「やっほ~聞こえる~?」

「またわたくしの端末を勝手に…」

「だってぼくら今一緒にいるんだから近くの場所で端末使っても緒と重なっちゃって違和感しかないじゃん?」

「それは…そうですね…」

「桜宮、苦労してんのな…。慧架、調子の方はどうだ?」

「今のところは元気だよ」

「厳密には目立った外傷は見当たらないだけです。しばらくは病院通いです!」

「お、おお…そうか、気をつけろよな。そういえばブルートの方はどうしたんだ?」

「あっ、千染?ぼくが診察室から出た後、申し訳ないけど用事があるって言ってどっか行っちゃったんだよね」

「逃げたんじゃねえだろうな…」

「もともと敵陣にいた人ですからね、情報を横流しにしている可能性は大きいですわ」

「さきに強化プログラムの方に行ったとか…?」


 と私はいう。

 千染さんは今『吸血鬼・ブルート』というアバターを失ったばかりだ。

 だから、さきに修行に行ったことは大いに考えられる。


「今のうちに優紗や炎真より強くなろうって魂胆なんだろうね」


 と御神楽さんが言うと穂村さんの方からバンっと机と叩いたような音が聞こえてきた。


「先越された!俺も今から行ってくる!じゃあ切るわ、思ったより元気そうでよかった!」

「心配してくれてありがとね、炎真。次はランキングマッチで会おう」

「おう!慧架、桜宮、お前ら二人には負けねえからな!あと、清本!」

「は、はい!?」

「お前も十分素質あるからよ、興味あれば参加してみろよな!」


 そう言って穂村さんの電話は切れた。


「えぇ…」

「優紗、叶波、二人はどうする?今から参加するの、その修行ってやつ。今日はしっかり休むようにって言われてるけど」

新人ちそめさんがしていらっしゃるんですもの、当然わたくしも行きますわ」

「…だね。私も参加してきます」

「わたくしは御神楽さんと一緒に一度家に向かいます。ついたらすぐに駆け付けますわ」

「えっ、ぼく優紗の家に行っても大丈夫なの?」

「わたくし、驚きましたもの。カップラーメンばかりの生活をしていたなんて…そんな健康に悪い生活ばかりしていたらいけませんわ!なのでしばらくわたくしの家で生活していただきます!そしてあとで千染さんにお伝えください、あなたも一緒にわたくしの家に来るようにと!彼の連絡先を知っているの御神楽さんしかいませんので」

「ああ、うん。わかった」


と御神楽さんは渋々頷く。


「それでは叶波、後程会いましょう」

「うん、またあとで」


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