いったん解散

「さっそくだけど、明日から強化プログラム開始するわよ」


 とホロウさんは私達に言う。


「御神楽慧架、あなたはちゃんと病院に行くことを忘れずにね」


 ホロウさんの言うことに御神楽さんは心底嫌そうな顔をする。


「え~病院かぁ~…。嫌だなぁ…」

「御神楽さん、子供のような言いわけはいけませんわよ?実際、何度も倒れられていらっしゃるのですから…もしものことがあったら」

「ホロウの不思議な力でパパっと診察できないの?」

「私は医療に特化してないから…」

「あっ、いや冗談だから。真に受けなくていいよ」

「慧架様、ご安心ください。私めもついていきますので」


 と千染さんはにこっと御神楽さんに言う。

 今まで見たこともないくらいさわやかな笑顔だ。

 御神楽さんと私達じゃ、これでもかというほど態度が違う。


「いや安心できねえだろ」


 と穂村さん。

 これにはさすがに私も同意する。

 最初のイメージもあるし、元敵側だったっていうこともあるし…。

 そんな彼を連れてきたのは私なんだけど…。


「でしたらわたくしの専属のお医者様に診てもらいましょう。それならわたくしも御神楽さんの様子を窺えることですし」

「その案、賛成。よろしく頼むよ、優紗」

「はい、よろしく頼まれました」


 と優紗がいうと千染さんは少し不満そうな顔をする。

 きっと自分に頼ってほしかったんだろうな…。

 こればかりは信頼関係が必須なんだな…というのが見てわかった。


「さすがにかわいそうか。千染、変なことしないんだったらキミもついてきていいよ」


 と御神楽さんが言うと、千染さんの顔がぱぁっと明るくなる。


「はい!」


 めちゃくちゃいい返事をする千染さん。

 その様子はまるで褒められて尻尾が千切れんばかりに横に振っている子犬のように見えた。

 御神楽さんは「ははっ…」と空笑いをする。

 そんな中、ホロウさんが咳ばらいをし彼女に注目するように促す。


「とりあえず、今回も本当にお疲れ様。今日はいったんここで解散にしましょう。…明日からビシバシ行くからね。ああ、ちなみに夜から修業を始めるわ」

「夜?ぶっ通しじゃなかったのか?」


 と穂村さんはホロウさんに聞いた。


「あなたたち高校生だし、学校の宿題や友達との約束もあることでしょう?」


 とホロウさんはチラッと私の方を見た。

 見られて私はギクッとなる。

 そんな私を見てホロウさんはクスっと笑った。


「ぶっ通しっていうのは冗談よ、そんな効率の悪いことはしない。集中力も切れちゃうし。単発でも十分効果を発揮できる仕様にしてあるのよ」

「だったら最初からそう言えばいいだろうに…」

「サボる子も出るかもって思ったのよ」


 とホロウさんの言葉に優紗はこういった。


「わたくしはサボタージュなんてしませんわ」


 続いて穂村さんも。


「俺も自分で言っておいてこんななりしてるが…授業サボったりしないぞ?」


 と言った。

 それに対して御神楽さんは「へぇ…意外…」と小さくつぶやいた。


「あっ、あれか、脳筋…じゃなくて、授業は真面目に受けるけどテストの点数悪いタイプ?良くも悪くも体育会系でしょ?」


 と御神楽さんが言うと穂村さんは「うぐっ…!」と呻く。

 どうやら図星らしい。


「う、うるせぇな!そういうお前はどうなんだよ!」

「うーん?ぼくは好きな教科と嫌いな教科の差が激しいタイプかなぁ…。嫌いな教科はとことん入ってこないんだよねぇ…。芸術系の教科が好きだな、ぼくは」

「それは自慢することではありませんわ…」

「優紗は文武両道そうだよね」

「当然です。桜宮財閥の娘ですもの、そのくらい難なくこなせなければなりませんわ」

「わぁ…すごい…。私なんて全部平均的だもんなぁ…なにか突飛した特技とかあればいいんだけど…」

「そういうのはね、焦らないでゆっくり探せばいいんだよ。焦ると案外見落としがちだからさ」


 と御神楽さん。

 そう言われて私はちょっとホッとした。

 無理して焦ることないんだ。


「慧架ってさ、妙に清本に優しいよな」


 と穂村さんが言った。


「えっ?ぼくはみんなに優しいけど?…あっ、もしかして炎真ヤキモチ?」


 御神楽さんはニヤニヤしながら穂村さんに言った。

 すると穂村さんは顔を真っ赤にして「違う!」と否定した。


「まあ、叶波のことは妹みたいな感じで接しているかな?」


 と御神楽さんは私の頭をなでながらそう言った。

 それに私はなんだか嬉しいような恥ずかしいような…なんとも形容しがたい気持ちになった。


「わたくしも叶波と同い年ですけれど…。わたくしのことはどうお思いで?」


 と優紗は御神楽さんに聞いた。

 御神楽さんは顔を少し引きつらしてこう聞いた。


「言っても怒らないって約束するなら言うけど…」

「わたくしが怒りそうなほど失礼な内容なのですか?それは内容によりけりですわね」


 御神楽さんは一度深呼吸をした。


「確かに優紗は年下だけど妹というか…姉御ってかんじがするな」


 と御神楽さんが言うと優紗はきょとんとする。


「それはわたくしが老けて見えるということですか…?」

「いやそういうわけじゃないよ?見た目は年相応だし、可愛い顔してるし。なんというか…オーラが姉御って感じがする」

「怒ってよいのかよくわからない内容ですわね…」

「怒らないでくれるとぼく的には嬉しいな。ほらぼく病み上がりだし…」


 御神楽さんはチラッと優紗をみてそう言った。

 それを見て優紗は諦めて「わかりましたわ」と答えた。


「私はみんなが強化プログラムをサボらなければそれでいいわ。この後は各々で解散していって」


 とホロウさんは言う。


「それでは御神楽さん、行きましょうか」


 優紗は御神楽さんの腕をつかみそう言った。

 御神楽さんは「あー」といいながら引きずられていった。


「慧架様!エルフ・ロゼッタ!慧架様をなんて扱いしているんだ!」


 千染さんは引っ張られていく御神楽さんを追いかけて行った。

 そんな様子を見て私と穂村さんは空笑いをした。


「なんか一気ににぎやかになったな…」

「ですね…」

「俺もこの辺で帰るわ。またな、お互い修行頑張ろうぜ」

「お疲れ様です。頑張りましょう」


 ホロウさんにも別れの挨拶をした後、私は自分の家に帰った。

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