狐の涙

「ぼくがここにいる間…なにがあったの?」


 御来さん…いや、今は御神楽さんと言った方が正しいか…。

 御神楽さんが私達にそう聞いてくる。


「なんといえばいいんだろう…ゲーム?をさせられてました」

「…ゲーム?ぼくがこんな目に遭ってるなかで?」


 と御神楽さんは驚きつつ、少し意地悪な感じで言ってくる。

 ちょっとどうすればいいのか分からないでいると優紗が。


「叶波を責めないでくださいまし。本当のことですわ。わたくしたちはブルートによってゲームをさせられていたんですの。わたくしたちが負けてしまえば御神楽さんはあのブルートのおもちゃになってしまうというので、わたくしたちは必死に戦っていたのですよ?お遊びではありませんわ」


 と私の言葉が足りなかったところを優紗がフォローしてくれた。


「そ、そっか…だから時間がかかったわけだね…。意地悪な言い方して悪かったよ」

「お分かりならよろしい」


 御神楽さんは私たちに自分の言い方が悪かったことを謝る。


「あの、私の言い方もざっくりしすぎていた…言葉が足りなかったので…そこは申し訳ないです。優紗、フォローありがとう。助かったよ」

「構いませんのよ、叶波」


 優紗は私にふふっと微笑みかける。

 そんな優紗を御神楽さんはじとっとした目で見る。


「あらなんですの?御神楽さん」

「優紗ってさぁ…叶波には甘いよね?」

「そうでしょうか?気のせいではありませんこと?」

「即答かぁ~」

「まあ、しいて言うなら…御神楽さんは一言多いのです。それが悪いところですわ。もう少し叶波のように素直におなりなさい」

「うっへぇ…お母さんみたいなこと言ってるぅ~。…まあ、母さんとの記憶ないから実際はどんなのかはわかんないけど」


 と御神楽さんはぶーぶー言った後、ぼそっと暗い顔をしていう。

 優紗は頭の上に『?』を浮かべていた。

 私は少しだけだが、御神楽さんの過去を見てしまったから何とも言えない気持ちになった。


「あー、うん。勝手に暗い顔しちゃってた。ぼくさ、ブルートのおかげ…って言ったらなんか腹立つけど…。いろいろと思い出してきたんだよ。やっぱり思い出すの嫌だなっていうほどの嫌な思い出が多かった」

「そう…ですの…」


 御神楽さんの言い方は軽いが、そんな言葉では足りないほどあの人の過去は悲しいことが多かった。

 少ししか見ていないから大きい顔して言えないけれど…。

 

「でも…それでも楽しい思い出はあったんじゃないですか?」


 思わず私は御神楽さんにそう訪ねる。

 それを聞かれて御神楽さんは少し驚いた顔をする。


「う…ん、そうだね、あったと思う。……あれ?おかしいな、なんで涙が出てくるんだよ…」

「…御神楽さん?どう…されたんですの?」


 優紗は何が何だかわからず、突然泣き始めた御神楽さんを心配する。


「わたくし、少々きつく言い過ぎましたか?!」

「ううん、そうじゃないんだ。まあ、確かにそうかもだけど…原因はそれじゃない」

「それではどういたしましたの?」

「ぼく自身、わかんないんだ。なんで涙があふれてくるのかが。嫌なことは思い出せたのに…忘れちゃいけないことを忘れている…。何を忘れているのがわからない…。思い出してよ…なんでおもいだせないんだよ…」


 御神楽さんはボロボロと涙を流し始める。

 顔をくしゃくしゃにして、声を出して泣いていた。

 その光景は私があの部屋で最初に見た幼い頃の御神楽さんの姿、そのものだった。

 御神楽さんはあまり知らないけれど普段、とても気を張っている人なのだと思う。

 孤独に負けないように、必死に強がっていたのだと思う。

 それが大切な何かを…たぶんだけど、『恵果さん』のことを思い出せないでいるのが悔しくて…そして寂しいんだと思う。

 なにも知らない私が、御神楽さんの…御来さんの思い出したい『恵果さん』のことを知っている。

 これは教えた方が御神楽さんのためになるのだろうか…?

 それとも、自分自身で思い出させた方が…教えない方がいいのであろうか…?

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