友達になって
「ん?あっ、叶波たちからだ。入口、見つけたってさ」
と御神楽は俺にそう言ってきた。
俺は自分の端末を見る。
「場所は…視聴覚室か」
「叶波たちは先に行ってるってさ。たくましいね、女子たち」
桜宮はまあなんとなくわかるが、清本も先に行くとは意外だった。
ああ、でもなんとなくだが精神面は強そうなところもあったから納得はいった。
桜宮と一緒にいるのなら大丈夫だろう。
…転送先でバラバラになっていなければの話だが。
「さあ、ぼくたちも向かうとしますか~!」
「ああ。御神楽、お前俺からはなれんじゃねえぞ?」
「ええ、何それ?愛の告白?」
「だからそんなんじゃねえっつってんだろ!?」
「冗談じゃん、頭硬いなぁ…」
「こっちはお前の精神面とか、体調面とか心配して言ってんだよ」
もう、俺の目の前でだれかが苦しんでいるのを、消えていくのを見たくなかったから。
俺は中学時代、最初に雪菜を失った。
その次は雪菜の双子の兄で幼馴染の羽賀悠我が行方不明に。
そして順を追うように幼馴染である神木刹那も行方が分からなくなった。
そのことがあってか、俺は一時不登校になった。
悪いことが一気にきて、精神的に参ってしまったからだ。
正直言うと、俺はあまり精神面的に強くない。
あの時は周りの仲間が勇気づけてくれたおかげでなんとか今の状態を保っている。
だから、また俺の前で誰かがいなくなってしまったら今度こそ俺は立ち直れない、そんな気がするのだ。
こんな姿、雪菜に見られたら呆れられてしまうかもな。
そして、このことを今の御神楽に言うとなんか茶化されそうな気がしたので俺はこの気持ちを黙っていることにした。
ああ、ついでにだが俺は不登校だったのが原因で単位が足りず今は留年している身だ。
年齢的には高校三年生だが、一留で今は高校二年生だ。
これはさすがにおふくろには悪いと思っている。
だから、ちゃんと進級できるように勉強を頑張らなくてはならない。
「おかしいね、最初ぼくらあんなに険悪だったのにさ」
「うん?…ああ、そうだったな」
「炎真ったらいきなりぼくの胸ぐらつかんできてさ、『このアバターは雪菜のだったはずだ!』って。それが今こうやって話し合えてる」
「…あれはほんと俺が悪かった」
「もう気にしないでいいよ。あの時はぼくも言い方が悪かった」
「お前、案外いいやつなのな」
「今更?ぼくは最初からいいやつだよ。…そんでまた今更かもしれないけど、炎真、ぼくの友達になってくれる?」
「ああ、俺の方からもよろしく頼む。…よろしくな、慧架」
「うん、よろしくね」
俺と御神楽…慧架は握手をする。
俺たちは視聴覚室につく。
聞き耳を立ててみると、中で何かが動いているような音が聞こえる。
戸を少し開けで部屋の中を見てみると、そこにはフィルム状の触手のようなものが無造作に動いていた。
「わぁ…、グロテスクぅ」
慧架はというと相変わらず気の抜けたことを言う。
「やっぱあの中に飛び込める女子たち、たくましすぎるでしょ」
「ああ、それは俺も思う」
「でも情報を手に入れるにはあの中に飛び込まなきゃだし…」
「覚悟決めていくしかねえよ。行くぞ、慧架」
「ちょっ…待ってよ、炎真ぁ」
俺はそのフィルム状のものに手を伸ばす。
それは俺たちを包み込み、そして入口へと引きずり込んだ。
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