第1部 1章

憂鬱と期待

 今日はゴールデンウィーク明け。

 高校生になり、新しい友達ができてすぐの連休が終わった。

 そのせいか、気分が少し落ち込んでいる。

 これがいわゆる五月病というやつなのだろうか。

 それでも私は学校は好きだからこの五月病でさえ乗り切ってやろう、そんな気持ちでいる。

 それにあと2か月もすれば夏休みっていう最高に嬉しいものがやってくる。

 夏休みに友達とどんな思い出を作ろうか、2か月も前なのにわくわくしている自分がいる。

 そんな気持ちで私、清本叶波すみもとかなはは登校中なわけだ。


「か~なは!おはよっ!」


 そんな元気な声と同時に背中にどんっと衝撃が。

 私は思わずそれに「ぐぇっ!」と変な声を出してしまった。


「あっ、強くやりすぎた。ゴメン」


 と、私の幼馴染である筑井奈々子ちいななこが謝る。

 ちなみに私は彼女のことをちーなと呼んでいる。


「大丈夫、平気…。おはよ、ちーな」


 そして私はちーなと歩きながらお話をする。


「はぁ~…。ゴールデンウィーク、ついに終わってしまった…」

「ねぇ…。ちーなは連休中何してたの?」

「私はねぇ…『ONLINE』のランキングマッチを見てたの!」


 『ユグドラシルONLINE』とは私が小学5年生の時からあるゲームのこと。

 自分でアバターを装備させ、それらを戦わせる。

 ゲームの大会で勝って結果が出たら賞金が現実でももらえるというのが強みのゲームだ。

 私はちーなにごり押しにごり押しを重ね、最近自分のIDを作った。


「ちーな、本当に好きだね」

「だって誰が一位になるか気になるじゃない!?」

「いつも一位は『稲荷・雅』だしなぁ。連戦連勝じゃん」

「わからないじゃない!もしかしたら形勢逆転っていう展開があるかもしれないじゃない!」


 とちーなは鼻息を荒くしながら言う。

 それに私は圧倒される。


「と、とりあえず落ち着こうか?ね?」


 ちーなははっと我に返る。

 そしてすぅーっと深呼吸をする。

 どうやらようやく落ち着いたようだ。


「…そうよ、叶波が言う通り優勝は『稲荷・雅』。悔しいことに私の推しである『エルフ・ロゼッタ』様は『焔竜』に負けて3位…」


 さっきの興奮した姿とは裏腹に今度はどんよりと落ち込むちーな。

 感情の動きがすさまじい。


「で、でもあんな大勢いるプレイヤーの中で3番目に強いんだよ?すごいことじゃん!」


 私がそう言うとちーなはまたぱっと表情が明るくなる。


「そ、そうよね!そうよそうよ!アハハハハ!」


 さっきとの差がほんとすさまじいな、ちーなは…。

 まあ、この立ち直りの速さが彼女のいいところなんだけどね。

 さきほどちーなが言っていた『エルフ・ロゼッタ』様。

 あんまりにちーながロゼッタ様、ロゼッタ様っていうから私もそういう風に呼ぶのが写ってしまったんだけど…それは置いておいて。

 そのアバターのプレイヤーは女性で、『焔竜』というアバターといつもランキングマッチの2,3位を争っている。

 ユグドラシルONLINEにはアバターの設定で妖精と悪魔、妖怪の3つの種族が選べる。

 それで妖精最強と言われているのが『エルフ・ロゼッタ』様なわけである。

 私も彼女の戦いの様をちーなにおすすめされて見たことがある。

 確かにお勧めしたいという気持ちになるくらい、彼女の戦いぶりは優美なものだた。

 きっとこのアバターのプレイヤーさんは育ちがいいんだろうなとかっていう勝手な妄想をしてしまう。

それでランキングマッチは種族の最強たちが集まるまたとないお祭りみたいなものになる。

 すごいことに、このランキングマッチの結果がニュースになる。

 たしか開催時期が年末年始、ゴールデンウィーク、お盆という連休がたくさんあるときに開催される。

 それで全プレイヤーはこれに向けて猛特訓するというわけだ。

 私やちーなは基本見る専門なのであまり関係はないんだけど…。

 なにかに夢中になれることってすごいなって私は思う。

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