第52話

     *


 メタルゴーレムのレムはアルフ・フォードが前に進むのを見て安堵した。

 これでカインが助かる可能性ができた。

 それにあの子達ならなんとかできる力があるはずだ。

 そう思いながら部屋から出て行くフレアとしずくの背中を見つめる。

 あの二人は普通じゃないことは勘の良いモンスターなら分かることだ。

 それでも隠しているならあえて言う必要もない。

 今必要なのは圧倒的な力に対抗できる力だ。

 痛み、動かない体に歯がみしながらレムは長く細い息を吐いた。

 本来ならレムがやるべきことだ。カインだけでなくレムもまた最強のモンスターになることを目標としている。

 生まれ持った素質もあるだろうが、それを跳ね返すことをレムはカインから教わった。

 それには努力を重ね続けること。

 努力することは誰にでもできる。やればいいだけだ。

 しかしやり続けるのには覚悟がいる。レムもそしてパートナーのカインもその覚悟を持っていた。

 今はまだ足りないかもしれない。それでもいつか必ず追いついてみせる。

 レムはボロボロの体でそう誓った。

 そこへアルフを呼びにきた団長のデリンジャーがやって来る。

「アルフ。お前達にも最前線に立ってもら……ん? どこだ? ここにいるんじゃないのか?」

 デリンジャーは唯一部屋に残ったレムに尋ねる。

 レムは黙って机の上に畳まれたアルフの制服を指差した。

 デリンジャーは制服を手に取りレムに聞く。

「……これは?」

「………………彼は行きました」

 レムはただそれだけ告げた。

 それで十分だと思ったからだ。

 デリンジャーはアルフの制服を持ち上げ、呆れたように溜息をついた。

 そして拳を握り、怒り出す。

「…………そうか。…………あの馬鹿、今度は服ごと忘れたか! 袖の次は服だと? あの忘れん坊め! どこだ! 早く着させてやる!」

 レムはがくっと肩を落とし、部屋から出ていくデリンジャーの背中から視線を外した。

 雨は上がっていた。

 窓の外に広がる広大な空と高くそびえるダライアス山脈が美しい。

 あそこが血で染まっているなんて嘘のようだった。

 レムは陽の光を浴びながらぼそりと呟いた。

「………………頑張れ」

 レムが呟くと山頂から巨大な咆哮が聞こえた。

 楽しげにも聞こえるそれを聞いてレムは小さく苦笑した。

 同時にこれから始める圧倒的な力と力のぶつかり合いに興味を持った。

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