第60話 She have to choose her fate 「運命を決める選択。紅か、葉か、藍か」

 襲撃者は再び何かをする前に無力化をしようと〈爆動〉で一気に距離を詰めようとする。その直前。


「ん?」


 足が動かないのが分かった。足を器用に閉じていたのが仇となり、両足に縄がつけられてしまった。その縄はまさに明奈たち3人を縛り上げていた縄だった・


(その場で作り出したのか! なんて想像力だ)


 華恋の想像力の高さが活かされた。そして、襲撃者が気づくと同時に聡のデバイスが輝く。〈ランパート〉、和幸が御門と戦うときに使ったものだ。反逆軍の防御用障壁は彼にも受け継がれていた。


 3人と襲撃者の間に透明度0の壁が出現する。


 10メートル幅の城壁の横端、右から華恋が、左が聡が飛び出す。そして、ともに威力を重視した弾丸を可能な限りの数浴びせ始める。


 襲撃者はそれを防ぎながらなお余裕を魅せ、2人だけでなくいつ城壁の後ろから明奈が現れるかを注視していた。


 腕輪持ちは全員ではないが、目に何らかの呪いを持つ者が多く、この襲撃者は、腕輪を使い始めてから、視界がサーモグラフィーのように見えるようになった。


(まだあの女の子は城壁の後ろだ……)


 何をする気なのか未だ襲撃者は悟ることはできなかったが、現在足が縛られ射撃で集中力もそがれ縄をどうにかするだけの想像ができない襲撃者はその場で防御に集中し、反撃の機会をうかがうことに。


 一方、明奈は城壁の後ろで短剣を構える。


 消費するテイル粒子は自身の最大値の半分にも及ぶ。今の明奈ではたった一発で限界。自分が知る中で最も威力が高いだろう一撃にすべてを賭けると決めた。


 城壁ごと相手を斬り裂くは、奨が閃を圧倒した放出斬撃波のデータ〈無惨華月〉。明奈は剣を地と水平に振りぬいた。


 直後、城壁が2つに割れた。頑丈そうなそれが綺麗に両断されたのを見て、直後自分の目の前に来た瞬間、轟音を伴って空間を裂き抜く斬撃が現れ、驚愕する。


「な……!」


 急きょシールドを張るが、それこそ悪手。その斬撃は源閃を力押しで圧倒したほどのパワーを持つ斬撃。


 シールドは容易く両断され、襲撃者は人の死にざまとは思えない凄惨な最期を遂げる。


「や、やった……」


 罪悪感よりもまず明奈に来たのは安堵だった。明奈に華恋と聡が嬉しそうに寄ってくる。


「やったね明奈!」


「3人でこの場を切り抜けたの。私たち3人、案外いいコンビネーションだったんじゃない?」


 嬉しそうな2人を見て、明奈はようやく自身の勝利を実感するに至った。


「そう?」


「もちろん。まだ拙いって光様や、貴方たちの師匠には怒られるかもだけど、もしかしたら将来、私たち3人が一緒に戦ったらそれなりにいい感じになるかも!」


「そうだね。華恋と明奈と僕か」


 達成感で満ち溢れる2人を見て明奈も嬉しかったことは間違いない。そしてチームはともかくとして、華恋や聡と一緒に戦う未来も、悪くはないと直感する。


 しかし現状は、際限なく喜んでいる場合でも、将来を見据える時間もない。喜びは3秒だけに押しとどめた。


「華恋、聡、今は逃げなきゃ」


 明奈の忠告に、そういえばそうだ、と素直に従った2人はすぐに出口を見る。


 本家側はフラムが向かったため鉢合わせになるかもしれないので良くない。となると残りは、ここから本家の森にでるか、元来た道を引き返すか。しかし、唯一来た道を見ていた明奈は、テイルで作られた自動機械が来た道に設置されているのを知っている。もはや選ぶまでもない。


「森の出口側。あっち。急ごう」


 残念なことに、猶予はあまりなかった。本家側の道から人が来る音が聞こえ、そして上空にヘリに見える航空機が停止したのだ。






 研究所の道を走り抜ける。明人と和幸が意気を荒らげながら、決してスピードを落とすことなく、明奈と思われる反応に向かって行く。


 小さいながらも銃声と何かが崩れる音が聞こえ、この先で戦闘が発生していることが分かる。


「明人、前方!」


 目の前に巨大なゴーレムが現れる。


「なんだありゃ」


「時間がない! けし飛ばす。〈電池〉を貸してほしい」


「別にいいが、目の前のどうにかできるのか」


「できる。殺す」


 明人は『殺す』という言葉をストレートに使っているところ、和幸は明人の余裕のなさと本気を感じる。和幸は明人の真剣な言葉を信じ、電池の残りを託す。


 電池に残っていた500のテイルをすべて銃へと回し、明人は一発分の弾丸を装填した。そして静かに銃口を巨兵へと向ける。敵を狙う明人の目には、もはや慈悲など存在しなかった。


 引き金を引く。銃口から激しい発光。


 直後。目の前には塵1つとして残っていなかった。


「お前……これ」


「消した。俺はこうやって、〈人〉が消え去ってくれればいいと思ったことがある。それが現実になった。それだけだ」


 もしもこれを人に使えば、そこまで考えたとき和幸は戦慄し、言葉を失った。固唾をのむ和幸に、明人は言う。


「この弾丸の存在を知っているのはお前と奨だけだ。他言厳禁だぞ。これは禁弾。世に出れば。人間が綺麗に消えていく地獄の未来が具現化する」


 和幸は明人の抱える〈人〉への恨みが恐ろしかった。人間も〈人〉も、その頭で人類ならざる悪なる所業のイメージを得るのだと実感した瞬間だった。


「俺が処断されるべき時は来るだろう。だが、それは今じゃない。明奈を追おう、和幸」


 確かに恐ろしさを感じる一方、先ほどの一件で化け物と明人を評価し嫌うほど、和幸は一時の感情では動かない男だ。


 和幸は明人のことを、奨と同じ程度には信用している。今の一件を始めて知ったとしても、それでも反逆軍の醜い同僚よりは遥かに信頼できる筋の通った男だと、思ってもいる。


 走り出した明人を、和幸は文句なく追いかけていった。


 この先は、明奈の反応がある、本家への道だ。






 アリーナで明奈は頭を抱える。このまま3人で逃げてもいいが、それでは1つ問題があった。


 それは3人で逃げたらすぐに行き先がバレるということ。その場合、援軍を呼ばれて捕まるリスクが跳ね上がる。襲撃者たちは人員もスキルも明奈たちより遥か上、捕まることは避けられないだろう。


 しかし、頭が冴えていたのか、明奈には1つの思い付きがあった。しかし、それは2人には言えないような、後ろ向きな思い付きだった。


 ここで戦闘があったのは、目の前にある死体から明らかだ。なので戦闘発生を隠ぺいせず、ここから2名上の森に向けて近くの出口から逃げ、残り1名が迫ってくるだろうフラムへ、2人は死んだから敵に捨てられたと欺くべきだと。


 そんな作戦を思いついた明奈だったが、それを2人に言えるはずもない。


 しかし、優秀な人間はやはり明奈と同じ結論に至ってしまったようだ。


「このまま逃げても捕まる。私が残って時間を稼ぐわ」


「いや。その役目は僕が」


 明奈と似たことを他の2人も考えているのか、自分から犠牲を申し出たのだ。


「貴方は明奈を連れて逃げなさい」


「それはこっちの台詞だ。女の子を守るのは男意気だって和幸さんに教えられたからね」


「そんなふざけたこと言ってる場合じゃない。私は八十葉家の人間だからこれが仕事なの。でもあなたは違う」


 2人とも、1か月前の卒業のときと違い、大切な志をそれぞれの師匠に教わった事実の一角がこの言葉に表れている。


「明奈!」


 2人が明奈の方を見る。明奈は自分を犠牲にするつもりだったが、

「聡と逃げて」

「華恋と逃げろ!」

 2人とも強い信念で、明奈に迫る。2人の覚悟を無下にしてまで、自分が残っていいのか、一瞬迷ってしまう。


 自分1人が犠牲になるか。聡と逃げるか。華恋と逃げるか。


 このまま迷っていたら3人ともフラムに見つかる。


 明奈が出した結論は――。

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