第47話 battle to escape 「脱出戦」
店の前には御門有也、八十葉光、天城正人の3人。そしてその部下達およそ100人以上がショップの前にいる。
「眠い……」
光は気を抜くと目をとじてふらりふらり。
「おい、起きろてめえ。こっちだって夜で街巡回して2時間しか寝てないんだぞ」
天城正人は光をどついて目を覚まそうとするが、寝ぼけ眼でもふらりふらりと避けていく。現在朝の4時。〈人〉である彼らでも必要な時には睡眠をとる必要がある。そして朝早く起きるのが辛いのは人間と変わらない。
「君たち、眠いのは分かるけど間違っても殺してはいけないよ」
「わあってるよ。御門はお優しいことだ。どうやって連中をあぶり出す? この建物ごとぶっ壊せばいいか」
「死ぬんだってそれじゃ」
男2人、議論をすすめる一方で、光はあくびをして目を閉じる。
「そもそも、なんでこんな時間なのー? 眠いよ御門くーん」
「昨日朝早くがいいって言ったの君だよ? 覚えてる?」
「うう、後悔してるぅ。華恋、タオルちょうだーい」
光の後ろに控えていた女子がデバイスで湯気がのぼるタオルを用意した。春の早朝なのである程度の気温はあるが、その中で勢いよく湯気が出ているのでかなり温められたものだと一目でわかる。
「うう、癒される……」
目は覚めた光だったが、まだ本調子には程遠いようだ。御門は失笑しつつ1人その場を去ろうとしていた。
「てめー、どこ行く」
「仕事さ。すぐ終わる。この出口をしっかり押さえておくんだよ」
御門は天城に侵入させた式神を視界を共有する。天城の目には、ある少年が猛スピードで走っている後ろ姿を撮影している様子が見えるようになった。右上に生放送と書かれているのは御門のセンスだ。
「地下にこんな道作ってやがったのか。ってこいつ! あのクズ野郎じゃねえか。おい御門、こいつは俺にやらせろ」
「君だと殺しそうだから、やっぱり僕が手を打つからね」
先ほど御門が投げた紙は燃え消え、空中に印が残る。その印は光り輝き、形を変貌させていく。
アジトのさらに下に広がる地下通路。しばらく行けば梯子があり、源流邸の近くのマンホールから脱出できることになっている。奨は隠し部屋で待機し、和幸は地下道を走り、その出口を偵察しに行くことになった。
(バレてはいないはずだが、脱出口に待ち伏せされてたら、バトルしてでも突破しかない)
幸いにもマンホールの場所がばれた様子はなく梯子の真下まで何事もなく到着できた。残りは梯子を上りマンホールの先の様子を見るだけだ。何もなければ通信で奨たちを呼び出せる。
和幸は念のため、マンホールの近くにある監視カメラの映像を出し、様子を見る。
「……ドンマイ、ってレベルじゃないな」
とつぶやいてしまったのも無理はない。マンホールの上に最悪の男が立っていたのだ。
御門有也。和幸は一度なぜその男がそこにいるのか考えてしまう。先ほど隠し部屋を出た時には確かにそこに御門有也は存在した。そこから最速で脱出口まで来た。
「とんだサプライズだ。なんでバレた?」
和幸はデバイスでテイルに反応するレーダーを作り出し周りを探査する。すると自分のすぐ近くに小さな物体が浮遊していることが分かった。しかし、実際には肉眼で見えない。
和幸は〈色視〉を使用した。〈透化〉している物体にも反応し、何か在る場所は色付けされて脳に情報が送られる。
そして和幸は1つの嫌な仮説に思い当たる。御門によって、布石がすでに先日打たれていたこと。ショップ店員に擦り付けた蜂が自分達を見るや否や飛び移り、ずっと盗聴と盗撮をされていたこと。そしてこの場にたどり着いたのも、式神の反応を追ってだったこと。
いずれにしても、もはや自分たちが逃げ切るには御門を突破するしかない。
(やるしかないな。御門が相手だとしてもな。〈人〉を単独で滅ぼすのが独立魔装部隊の役目だ)
反逆軍の戦士は本来、テイルの消費量が少ない武器を多種運用し、多彩な戦術で敵を追い詰めていくのが一般的だ。しかし和幸が所属する魔装部隊はその考え方とはかけ離れている。
〈人〉と武器や能力の質でも勝負ができるように組織された部隊だ。隊員にはそれぞれ高出力の特性武器を持つ。和幸が今実体化させた弓、〈風神牙弓〉もその1つだ。
美しい黄緑色で塗装されたその弓は、弓を引く際に必要な持ち手が特別に用意されている。と言うのも、弓自体が鋭利な曲刃になっていて、近接戦闘もこなせる仕様になっている。
上にあるマンホールへと向き、和幸は弓の弦を引いた。矢は弦を引くことで自動で生成される。元々光弾を矢の形で打ち出す弓矢型の射撃武器の改造なので、最初に現れるのは矢の形になった光弾だ。
和幸が放つ弓はそれに加え、風が圧縮され渦巻きながら矢を覆う。放たれた際には破壊力を伴った竜巻が矢の推進力を高めたうえで威力を増大させ、閃の使った〈白閃〉と同等の破壊力を持った遠距離攻撃を放つことができる。
最大の利点はコストパフォーマンス。1発につき5パーセント体内テイル粒子を消費するが、コストは〈白閃〉の100分の1。この弓矢がいかに破格の性能をしているかは言うまでもない。
和幸はその矢を躊躇いなく上へと向け解き放った。狙いはマンホールの上にいる御門有也。
纏う風、その矢が示す威力は、射出した和幸の耳に自動でかけられた聴覚防御すら通り抜け伝わってくる轟音と、狭い道を無理やり破壊によって広げていく光景が物語っている。
矢は間違いなくマンホールの中央を巻き込んで上空へと向かって行った。
血や肉片、衣服等は飛んだ様子はなかったのを見て和幸は跳躍。
そして地面に着地する前に、空中で周りを見る。地上に躱した後と思われる御門を見て追撃。〈十迅〉と自分で呼ぶその技は一気に10発分の矢を放つ大技。
放たれた1秒後、そのすべてが直線ではなく曲線を描きながら相手を追尾する。
御門は逃げなかった。
「祈、わが祈り、掃 災い掃え、現界、祈掃呪」
また模様の描かれた紙を懐から取り出し、呪文を唱え投げる。その紙は燃え尽きて空中に印を残す。
これは御門家が得意とする呪術の基本的な発動過程だ。呪符と呼ばれる紙を用い、紙に描かれた刻印が、使用者の想像した奇跡を生み出す。
迫る10の矢を前に印が反応し、迫りくる高威力の破壊弾を瞬く間に自壊させ、その場で爆散させていく。
「ち……」
舌打ちをしてから地面に着地する和幸。その和幸を満足そうに見下す御門有也。
「地下を這いずる害獣の鼠くん、素直にお縄につきなさい」
「面白い冗談だ。素直にギブアップすると思うか?」
「ははは、全くその通りだ、実力行使といこう」
御門は再び数枚の呪符を取り出す。対する和幸も弓を構え応戦態勢に入った。
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