第46話 this is your amulet「お礼のお守り」
夜。皆が寝静まった頃。明奈は1人日記を書いていた。
久しぶりの研修を終えて疲れていないわけではなかったが、それよりも久しぶりに研修、そしてその後の食事という宿にいたときと同じ生活ができて、今はそんな1日の余韻が残っていていい気持ちだった。
日記。4月11日
聡君と一緒という慣れない環境ではあったが、今のうれしさに比べればその程度些事だ。
先輩達にまた教えを頂けることが何より嬉しい。生易しくはないけれど先輩たちの愛情をとても感じられる瞬間こそ、訓練の時間だ。
剣術の訓練では、不思議と以前に比べて簡単に感じられた。
いや、それは簡単に感じるのではなく、向かってくる球に恐怖を感じなくなった。
閃様に遊ばれていたとはいえ、剣を弾いた経験が余計な恐怖を削いでくれたようだ。2つ目の訓練もクリアして、いよいよ、実戦の訓練に入った。実践の訓練は、木刀と球を武器として使い奨先輩との試合。私の方は何をしてもかまわないというルールだ。それこそ爆弾を使っても、罠を張っても。
所謂ハンデ戦だと奨先輩は言っていた。ただし私が1回でも攻撃に当たったらやり直し。攻撃に当たらずに3分間生き残れというのが訓練のルールだ。
……強いなぁ。10セットくらいやってみたが、全く歯が立たない。
奨先輩は〈爆動〉を使わないでも、ものすごい速さでこっちに近づいて来る。それを警戒していれば、球が上から飛んできた先輩と球の2方面からの攻撃にどうすればいいか分からないで1セット目は終了。
2セット目は奨先輩が木刀を投げることを予想できず対応が遅れ終了。
3セット目は、発見があった。明人先輩のようにその場で動きを制限するものを想像すれば……と思ったけれど、それはそれで難しかった。結局先輩のように戦うためにはまだまだ訓練が必要ということだろう。
その後も何とかやったが、結局最高記録は30秒。とてもではないが3分なんてできる気はしない。
奨先輩は、私がやろうとしていたこともしっかりと見抜いていて、私にアドバイスをくれた。
「明人のその場でものを生み出しながら戦うというのは、想像と戦闘で思考の両立が必要だから至難の業だ。でもまあ、そこらへんは鍛えればどうにでもなる。だが、まずは生み出すものを1つに絞ってみろ」
「絞る?」
「自分が最も想像しやすい障害物を1つ決めて、それをうまく配置する。種類は徐々に増やしていけばいい。あいつが鉄の棒とか地面にはやしてただろ? あれも結局はあいつが想像しやすいからその棒で防御をしてるんだ」
なるほど。あの鉄の棒にも意味があったのか、と私はまた勉強になった。
そう言えば聡も今日は一緒に訓練をやった。彼と、源家を出てもこうして一緒に訓練を受けているとは、もはや妙な縁があるような気がしてならない。聡は大変な主様に拾われて日々苦労してそうだ。
そんな聡だが、私と一緒に訓練を受けた結果、筋肉痛でダウンしそのまま睡眠を取っている。
なんでこんな訓練耐えられるのー、と弱音を吐いていたが、その気持ちはよく分かる。最初の訓練をクリアできずにいる聡を見て、私も前はあんな感じだった。
しかし、ボロボロの聡には悪いけれど、私は自分の成長を感じられてよかった。
明人先輩との訓練も再開して――。
「明奈。起きてたのか」
「ひゃ!」
寝たはずの奨に話しかけられ、驚きで体をビクんとさせる明奈。
「先輩、お休みになられたのでは……?」
さすがに本音ばかりを書いている日記を見せるのは恥ずかしくとっさに自分の後ろに隠してしまう。奨はそれに気が付いていたが、さすがに日記に言及するのは野暮だと思い、そのまま何も言わなかった。
そして明奈の隣に座り、彼女の目の前にデバイスを差し出した。それは奨が腕輪を使わない戦闘時に使う、短剣の柄とそっくりだった。
「これは……?」
「まあ、その、なんだ。いろいろと心配をかけてしまったから、明奈と明人に何かお礼ができないかと思ってね」
「そんな、それはむしろ、私ですから。お気になさらないでください……」
「閃との戦い、反省すべきところはいろいろあった。結局俺が腕輪を使うことになってしまったのは俺のせいだ。それに聞いたぞ、明奈が俺の看病を積極的にやってくれたって。そのお礼をしないと、と思ってな」
「お礼なんて、私は先輩に教えを頂いている者ですから、できることで先輩の力になりたいのは当然です」
「まあ、とりあえずこれを受け取っておいてくれ。明人に頼んで特殊な加工をしてるんだ」
キーボードを出して、そのデバイスの中身を見る。
デバイスの中には、記憶再現データと呼ばれるものが保存されている。それぞれが何かを見ると、短剣、〈砕刃〉、〈無惨華月〉と名づけられたもの。さらに『簡単お料理本』『胃袋をつかむ本格クッキング』と名付けられているものもある。
「これは……?」
「俺が普段想像して使っている武器と技と、ついでに俺のお気に入りの料理本だ。明人に頼んで俺のイメージを保存してデバイスに入れた。その保存データがあれば、君はテイルを注入するだけで、それらを実体化できる」
「そんなことが可能なのですか……!」
「人の想像は脆い。脳内を閲覧してデータ化してデバイスに保存。それを他人にも使えるようにするなんて、シャボン玉を素手で運ぶようなものだ。劣化コピーだとは言ってたけど、これでも達人技だ」
〈無惨華月〉のデータの中身を見ると、斬撃を飛ばす〈撃月〉に似た内容になっている。明奈がまさかと思うが、これは閃との戦いの時に使った、奨の遠距離攻撃。
「それは莉愛先生の奥義でね。先生の腕輪が強く記憶してたのか、莉愛先生の想像が俺の脳に流れ込んで焼き付いているんだよ。それも取り出してくれた。だいぶ頑張ってくれてな」
「そうなんですね……嬉しいです。私のために」
「その反応は嬉しいな。ちなみに劣化コピーである以上俺が想像したときと同じレベルでの再現はできない。本はともかくとして、武器や技は、やはり自分で想像できた方が概念として強いから、それを手本に想像は怠らないようにな」
明奈は託されたデバイスを家宝を扱うかの如く大切に掬い上げる。
「ありがとう、ございます!」
「こちらこそ。それが君を守ってくれれば本望だ」
その日の日記はこう締めくくられている。
『このデバイスは一生大切にする!』
早朝4時。奨は明奈と話してから2時間仮眠をとってすでに起きていた。そして和幸もまた、まだ夜が明けていないこの時間に起きてきた。
「奨。お前早いな」
「和幸。外に」
「ああ。寝起きでもお前が起きててくれて助かるん。病人と招待客に戦えとは言いたくないけどな」
「俺のことは気にすんな」
すでに奨も和幸も武器デバイスを起動している。
「しかし、どこでバレたんだろうな」
奨は画面を空中に映し出し、店の前の監視装置のライブ映像を凝視している。
「御門……八十葉……天城、ヤバい連中が店の前に勢ぞろいかぁ」
「和幸、お前は先に出口の様子を見てきてくれ。俺は奴らが侵入してきた時に相手する」
「行けそうだったら脱出ってことだな」
「思ったより早いが、仕方がないだろう。ここが正念場だ」
奨と和幸は立ち上がった。
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