外伝1-7 司家本領攻城戦(後)

 司家本家のある領地に、多くの戦士が待ち受けている。そう思っていた鋼にとっては意外な光景だった。

 鈴が相対した〈アルピュイア〉は桜花の発明した自動攻撃機械兵。

 〈アルピュイア〉はすでに司家の新たな家を象徴する軍事データであり、司家の〈人〉はほぼ全員がデバイスの中に、彼女の想像をコピーし、保有している。

 この〈アルピュイア〉は鈴との戦闘の時に見せたように自動戦闘をこなすこともできるが、本来は自動型移動砲台として開発されたものだ。二足歩行による高い機動力と細かな動き、そしてその体から放たれる高速かつ高威力のレーザー攻撃を行う。

 それほどの移動砲台が数多くそろったとき、それに相対する敵はそれだけで脅威を感じることは間違いない。

 先発隊から遅れて5分。鋼もまた、司家の領地に入ったとき、〈アルピュイア〉が数多く待ち受けるその光景を目の当たりにする。

「隊長」

「大か。先発隊はどうした?」

「撤退を徹底したため、犠牲者はほとんど」

「……そうか。ならお前たちはここで待機だ。街に住民が残っているのならそいつらの保護を優先」

「それが……。住民はほとんど避難していないようで……その司家の命令で逃げることは生産性の低下の恐れから逃げることは許さないと……」

「何……!」

「さらに、〈人〉が人間を盾にして手を出せないという報告も出ています」

 部下は気の毒だっただろう。

 その一瞬で鋼が完全に怒り、そこから漏れだす怒気と殺意にさらされたのだから。

「……お前らは住民の保護をできるだけ行え」

「たい……ちょ……?」

「司家の本家と城は俺一人で潰す」

「しかし、一人では危険では……?」

「もしもの時があれば、お前らに判断を任せる。1時間以内に次の指示がなければ、本家にこう伝えろ。鋼は死んだとな」

 鋼は本家の軍事拠点である城へと歩き出す。

 その手にある槍に徐々にエネルギーが集中していくのを見て、部下の彼は、城が跡形も残らないのではないかという確信めいた予感を持っていた。




 城は源鋼の攻撃によって大きな被害を受けたものの、まだ城としては機能する形になっている。先ほどの攻撃のあと、至急城を守る障壁結界を作り出し攻撃に備えた。

 司家の城に招集された戦士たちの目的は、この城に居るという本家の人間を守ることだ。

 その中にリーダーである、司家の傘下、冠位の中では智位の望月家当主は、ここに集まった戦士たちを指揮し、城への侵入を防ぐようすべての傭兵や部下に指示を出す。

 相手は本家の精鋭戦士の集団。源鋼率いる本家第三攻撃軍。

 迎撃に1000体以上の自律移動砲台を展開し、砲撃の圧倒的な数で相手の戦士の数を減らし戦いを優位に進めようとする。

「望月様、住民の一部が暴動を!」

「なぜだ、家の中にいれば、向こうの連中も危害は加えないだろう」

「それが、望月様の命令を無視した一部の〈人〉が住民を盾にしてなんを逃れようとしたと」

「な……! すぐにそいつを連れてこい!」

 望月家当主の怒声により、すぐに望月家幹部は当主命令を遂行する。

「まったく……」

 司家の部下をやっていると、大変なことも多い。成果をあげている人の管理社会を反対するわけではないが、司家は人間の扱いにややモラルが欠けているところがある。

 特に戦争になると平気で人間を盾にしようとする。そんなことを続ければ八十葉家だけでなく、その他の〈人〉の敵意を受ける可能性だってあるのだ。

 人間とは大切な労働力でありテイルを生み出す生産力だ。それを〈人〉同士の戦争で失っては戦争する意味がない。

 自分達の勢力を大きくするための戦争は、あくまで自分たちの領地の力を伸ばすための戦争だ。故に、人間差別主義以外の家と戦うとき以外は、戦闘員以外のすべての人間は第一に命を保証しなければならない。そして双方は非戦闘員にできる限り手を出さないのは暗黙のルールとなっている。

 司家はそれを平気で無視している。人間をあくまで家畜としてしか見ていないのだろう。役に立つうちは大切にしても。もしも自分達に危機が迫れば平気で切り捨てることができるのだ。

「参ったな……」

 今回の戦争だってそうだ。

 司家のあるこの領地での戦いの意味を、たとえ伝えられていなくてもその目的をしっかりと理解している。

「当主!」

 部下が慌てた様子で走ってくる。

 どうした、と問う前に、簡潔にその焦りの理由が望月の当主に伝えられた。

「アルピュイア、城の前のの800体が全滅! 城門が撃破され、城門の守りに居た者との通信途絶!」

「何……敵は!」

「それが、ただ1人。旧源家戦闘隊長、源鋼です!」

「馬鹿な……たった1人で」

 望月家の当主はすぐに迎撃へと向かう。ここを守れなければ、責任を取るのはこの男だから、この状況を看過することはできない。




 一言で言えば、鋼は〈アルピュイア〉にとても相性が良かった。

 鋼には源家の頃から使っている対射撃武器の自動障壁の改良版、〈曲風〉を使用している。自分に迫る遠距離攻撃を、自分の直前で軌道を無理やり捻じ曲げ、別の方向へと飛ばしていくことで自分への攻撃を無効化する。

 それにより射撃が鋼には全く通用しない、もちろんそれは〈アルピュイア〉だけでなく、他の敵が使う遠距離攻撃にも有効だ。それにより接近された敵は、鋼と近距離で戦うしかない。

 そして鋼は近距離であれば、無類の強さを誇る。

「があ!」

「うあが」

 断末魔は数多く、それはたった1人、鋼の蹂躙によって次々と発生している。

 軽やかに敵を切断し、貫き、雑兵を片付けていく鋼を見て、絶望的な戦力さを目の当たりにした多くの傭兵は、武器を捨て白旗を上げる。

「ち……」

 それを見て苛々を隠し切れない鋼。

 しかし、それは戦いもしないで投降する腑抜けを見たからではない。

(こいつら……! この城を守る気がない。何か、何かがおかしい!)

 その真相をいち早く知るためにも、一気に城の中へと突入していく。再び現れた自動騎兵を綺麗に片づけて城の中へと続く最後の門を壊そうと槍を構える。

「ボスはいるか」

 最後の門の前に立ちはだかっている男を見る。

「残念なことですな。鋼殿。こうして八十葉家の下で志を同じにしているはずの傘下同士が戦わなければいけないのだから」

「ああ。そうだな。光様はさぞ残念がっていることだろうよ」

「……さすがのお手並み。鋼殿。たった1人で、司家を滅ぼすには十分だと?」

「お前ら如きに後れを取っている場合じゃない身でな。悪いが中に入った瞬間、城ごと消し去る」

「無駄です」

「俺を止められるとでも?」

「いいや、そう言うわけではない」

 望月家当主は、薄々感づいていた、この戦いの真実を、よりにもよって相対して戦いを始める直前に、宣言する。

「ここには、司家当主も本家を攻撃する部隊の1つもない」

「なんだと?」

「光様が帰ってから、当主はすでにこの街を別ルートで出られました。向かった先は本家近くの隠れ家。その意味、聡明な貴方であれば分からないはずはない」

「ここは囮か!」

「ええ、源鋼。八十葉家最大戦力の1つであるあなたをここに炙り出すため。もっとも、愚かな当主があらかじめ司家当主を狙ってあなたをここに向かわせていたおかげでここまで早くことを運べました」

 鋼のこれまで抱えていた嫌な予感は的中する。舌打ちをして、すぐに引き返そうとするが、思いとどまった。

「……俺を帰すつもりはないか?」

「ええ。源殿を倒せるとは思っていないが、私は司家の傘下、望月家の当主。これまでの研鑽をもってあなたに食らいつきましょう。それが司様の命令なのでね」

 槍を構え、その男を睨む鋼。しかし、その一方で焦りを感じていたのは間違いない。一応部下に通信を試してみたが、通信はつながらない。この城に何らかの細工をされているのは間違いようだ。

(最悪、1時間たてば、本家に連絡がいく)

 光には自分に何かがあれば、謀られた、と考えろというように申し出ている。

 しかし、まさにその状況になってしまった。

(敵の狙いは本家のある本領。まずいな……今本家には)

 鋼が一番恐れているのは、もしも、ともはや言うまでもないが軍事衝突になった場合のこと。

 現在、八十葉家にはある理由で通常の4割程度しか防衛軍がいない。そんな状況で襲撃を受ければ、明らかに不利であることは言うまでもない。

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