外伝 予告 頂きへと昇る者 


 日本は〈人〉が支配する世界。人間は〈人〉という上位種に管理され、地域によっては、奴隷よりもひどい扱いを受けていることもある。

 〈人〉と共に人間が生きられる場所は、本当にごくわずかであり、理不尽な差別区別と共に日々を生きている。

 そんなの、どこでも当たり前のこと。

 しかし、その当たり前である理不尽に怒り、戦うことを決意した少年がいた。



 ****************************


 故郷を破壊され誘拐、数年間〈発電所〉に監禁されていた少年、天江昇はたった1人脱走したのち、反逆を決意する。


「俺らはお前らの邪魔をしなかった。ただここで夢を追っていただけだ。なのに、お前らは俺達の未来だけじゃなく、幸せだった今を奪ったんだ」


「それがどうした。お前たち人間は〈人〉である我々に支配されるのが最上の喜びだろう? おかしなことを言っていないで、さ、戻って来い。10034876」


「その呼び方も気に入らねえ。お前らは俺達をなんだと思っている」


 クソ女と呼ばれた、歩家次期当主、歩季里あゆみきりは難しい質問だったのか、首をひねった挙句、答えた。


「……やはり、家畜かな……いや、殺しても怒られないから、虫? まあ、その両方の性質をもった、私たちに便利なイキモノか。……なんで怒っている?」


 怒りが止まらない昇は、自らの怒りを言葉に言い表せなかった。


「ははは、面白い奴だな。立候補して正解だった。人間というのは、下等生物のくせに、私たちと同じように感情をむき出しにしてふるまうんだな」


「てめえ……!」


「なんでそんなに怒る? この寺子屋だったっけか。そんなところに通って無駄な努力をするより、私たちにテイルを吸われることはシアワセだろう? 歩家はお前達不良候補を正しく導いた。むしろ感謝してほしいな。正しい使い方をして『あげて』いるんだから」


「ぶっ殺す!」


 〈人〉に人間の心は分からない。元々相容れはしないのだ。


 昇はそれを今の会話で再確認した。人差し指にかつて先生からもらったテイルを使うための装置、俗称〈デバイス〉が付随する手袋をはめる。


「やる気ってこと」


 そして季里もまた指輪を手にはめる。これも〈デバイス〉の一種だ。基本的に身に着けて動きの邪魔にならないような形をとっていることが多いのだ。


 テイルは想像を現実にする。


 昇は、己の拳にエネルギーを止め、拳による攻撃の破壊力を跳ね上げるグローブを。


 季里は歩家に伝わる魔剣を。


 頭に想像したそれぞれの武器が現実になるところを想像する。


 そしてそれは現実世界に反映された、昇の手にはグローブがはめられ、季里の手には刃が長めの直剣が握られていた。


「行くぞクソ女ァああああああ!」


 昇の戦闘用グローブからは、彼の怒りを表すような炎が噴き出し、それが武器であることを明々に示している。


 昇は何の迷いもなく、自分の居場所を軽々しく奪った目の前の敵に向かって行く。


 あの日、死んだ先生のために。あの日、恐怖と絶望を突きつけられた友たちのために。


 ****************************



 彼は死ぬ。このままでは。


 しかし、奇跡と言うべきか、運命と言うべきか、彼は出会う。


 太刀川明奈。


 復讐のため、倭の各地を巡り〈影〉と戦い続ける彼女は、天江昇と共に戦う戦友となり、かつて自分を生かしてもらったときと同じように、彼を生かすために己のすべてを賭けて、逆境に挑み、彼を生かすために戦う。


 『外伝2 友達と言える存在』へ



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る