第93話 札幌コミュニティ定例会④

「ま、その辺りは僕らで議論しても仕方がないね。臨時政府にまかせるしかないかな」


山田は、ヒートアップしている議論に割って入った。


皆は顔を見合わせ、まあそれもそうだよな、と言う感じで前のめりだった体を起こし、椅子の背もたれにあずけた。

どの道この国は……いや、世界全体が破滅しかかっているのだ。また、そんな世界に対し個人ができることなんて何もないことを、皆は痛感している。この場合、凡人は頭の良い誰かが示した大きな流れに乗って流されて行くしかないというものだから。


ちなみに臨時政府の所在だるが、今は九州の田舎のコミュニティに本拠が存在している。東京などの中心部と言える大都市は壊滅状態であるから、というのが表向きの理由ではあるし、実際それも大きな理由ではある。


しかし、頭の良い一部の者は薄々気付いているし、斎藤だけは本当の理由を知っている。優先度SSS……高速増殖炉もんじゅと常陽が本土のほぼ中心に存在しているからだ。


高速増殖炉とは次世代の原子力発電設備として期待されていたものであり、実用化の為の実験施設として建造されたものであった。ここではその仕組みや仕様を語ることはしないが、仕様上、非常に不安定な実験炉である上に、一度暴走を起こせばとんでもない範囲に極めて毒性の高い放射性物質を巻き散らすことが予想されているという、非常に厄介な存在であった。

これらについては臨時政府発足直後に既に最優先で対処を開始しているのだが、”あの日”以前でも散々手こずった実験炉なのだ。相当に分が悪いと考えられており、臨時政府は万が一の事故発生を想定して本土の端……九州まで避難を兼ねて居を構えているというのが実情である。


実は政府機関をはじめ自衛隊や技術者等を北海道や九州等に集めていたりするのも、その関係も大きかったりする。まったく、自業自得とは言え、”あの日”以前の人類はやっかいなモノを作ってくれたものである。



「何にせよ、今後はおそらくこのコミュニティも日本にとって更に大きな役割を担うことになるだろうぜ。皆、気合を入れてくれや」


と、斎藤が言った。


(はあ……。そんなコミュニティの総合代表とは、僕も出世したもんだね)


山田は宙を見上げながら、自虐気味に口元を歪めた後、ため息をついた。


(ガーニャさ。いっそのこと、ここから逃げ出して二人で暮らすかい?)


そして、膝の上で眠っている飼い猫のロシアンブルーのガーニャの頭を撫でる。

ガーニャは頭をもたげて山田の目をジーッっと見つめたあと、「ニャー」と返事を返してくれた。


「ははは。そうはいかないよねえ」


「何がだ?」と斎藤。


「……いや。こっちの話ですよ」


山田はそう適当に誤魔化すと、その無責任過ぎて実現は難しいだろうが、振り切るには魅力的過ぎるプランに、再び思いを馳せる。

そして、朧気ながらにしか顔すら覚えていないが、名古屋でおそらく今でも一人と一匹で暮らしているであろう、いつか飲み屋で一晩言葉を交わしただけの青年のことを考えていた。



5月24日。

時刻は11:48。

晴れ時々曇り。


見わたせば所々に猫たちが日向ぼっこをしている光景が確認できる。

初夏と言うにはまだ肌寒い札幌ではあったが、ゆっくりとだが確実に夏に向かって時間は流れていた。




【作者より】

 ここで第三章は終わりになります。如何でしたでしょうか。

 最近のトレンドではないジャンルなのか(作者がショボいのか)、

なかなか苦戦しています(笑

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