第2章 さばいばるデイズ

第51話 介護問題

2 週間近くが経過した。

カレンダー的には年末なので例年ならば連休前で浮かれている時期なのだが、現状はそんな気分になれそうにない。


鏡を覗けば、目の下にはくっきりとクマが浮かぶ。

心なしか、スリムになったような気がする。

ここに来て、念願のダイエット成功ということなのだろうか。

あまり嬉しくないけどさ。

評価してくれる第三者がいないのだからな。


……いや、第三者ならいるか。

評価してくれると言っても容姿ではなく、きっと食料としてなのだが。

そいつらのせいで、僕の生活は、昼夜逆転してしまっている。


やはり、ゾンビたちは夜間に活発になるようだ。

一晩に数人の来客があるので、緊張とか騒音とかで眠れなくなってしまっていたのだ。

この2週間で、20人近いゾンビを対処する羽目になったよ。


お陰様で、ゾンビへの対処は手慣れたものになってきた。

最初の頃はさすがに良心というものが残っていたので、なるべく傷付けずに拘束し、Bカップ娘のいる304号室に隔離していたりしたのだが、これには大きな問題が残ることになる。

……そう、面倒を見なければならないということだ。


この世界のゾンビは元々の意味の様に歩く死人なんかではなく、何らかの原因でこうなってしまった病人の様なものなのだろう。

要するに、生きているのだ。故に、食事も必要だし、排便もする。

304号室は、アッと言う間に地獄絵図と化した。


考えてもみてくれ。

ただでさえアカの他人たちなのに、隙あらば僕を襲おうとするキチガイ集団なのだ。

食事を与えるのもそうなのだが、シモの世話なんてやってられるか。

精神的にキていた僕は、来客10人を超えるあたりから塩対応となっていったのは仕方のないことだったと思う。


基本戦法は例の牙突猫式の応用。

玄関ドアの跳ね上げ式の覗き窓から木刀を突き出してゾンビを転倒させ、その後はわざと立ち上がらせて階段に蹴落とす、を1階まで続けるのだ。

そうなると大体どこかしらはイカれてるのであろう、タダでさえ緩慢な動きが更にぎこちなくなっているので、縛り上げるなりしてそのまま朝まで放置。

翌朝、リアカーに載せて1ブロックほど離れた場所に捨ててくるのが日課になった。もちろん、拘束は解かずにだ。


ちなみに、304号室に隔離しておいたゾンビもBカップ娘以外全員、結局1階まで蹴落とし、捨ててきている。


いずれ死んでしまうに違いない。

非人道的なのかもしれない。

しかしながら、僕はゾンビ達に責任が持てなのだ。

よく言うよね。『責任を負えないペットは初めから飼ってはいけません』って。

僕はソレに従ったまでだ。

間違ってないよね。

間違ってないって、誰か言ってほしい。


話は少々ズレるけどさ。

ゾンビの生命力は大したもので、1週間前に捨てたゾンビ、用があって通りかかったところ、まだ生きてた。

飲まず食わずにも関わらずだ。

僕を認識した途端、真っ赤な目をこちらに向け、芋虫のようにモゾモゾと動いていた。


……おぞましい。

こんなモノが人間であってたまるか!


思えば、これが僕が進んで犯した初めての殺人であった。

突然湧いた怒りにも似た感情に突き動かされるまま、その時持っていたゴルフのアイアンクラブをゾンビの頭にフルスイングしたのだ。

その結果得た教訓は「ゴルフクラブは意外とゾンビ退治には向かない」だった。

確かに息の根を止めることはできたのだが、一発で曲がってしまったのだ。

一発で壊れる武器なんて、いざと言うとき役には立つまい。

今後はもっと丈夫なものを持ち歩こう。うん。


え? 罪悪感?


頭がおかしくなってるのかな?

むしろ、清々しい程の爽快感……やり切った感すら感じてる気がする。


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