第15話 ねこ一匹 > ニンゲン100万人
『とにかくキミの場合は……ん? ああ、わかったよ』
話の途中で、電話口の向こう側がにわかに慌ただしくなってきてた。
山田さんは誰かと会話してるのだろう。
少々遠い音声からうかがえた。
『……ごめんね、急患が出たってことで呼ばれちゃったよ。お邪魔するね』
そうか、残念だ。
もう少し情報が欲しかったが、ここで食い下がっても山田さんの都合が覆るワケではないから仕方がない。
「わかりました。また連絡します」
『ああ、そうだね。
……でも、これだけは言っておかなくちゃね。
先にも言ったかもしれないけど、電話やネットではもう連絡がつかない地域も多いんだ。電力が停止しちゃってるか、通信の中継施設がダウンしてるんだろうね。だーれも面倒見てないと思うし。近々、ネットや電話は全部ダメになると考えたほうがいい。無線機とか連絡手段の確保とか、早急に行動することをお勧めするよ』
「うわあ……」
そうだよな、原子力発電とか水力発電なら少しはもつかもしれないけど、日本の電力の大半が火力発電でまかなわれてると聞いたことがある。
名古屋市はどうなんだろうか。原発はこのあたりに無いしダムもないから、通常電力の維持は期待はできないだろうな。下手したら、今日にでも落ちても不思議じゃないぞ。
『本当に行かないとダメだから。では』
今度こそ電話は切られてしまった。
実感は湧かないとは言え、状況がだいたい把握できただけでもよしとするか。
僕は引き続きインターネットで情報を集めることにした。
インターネットが生きてるうちにやっておきたかったし、これと言って緊急に行うべきことが思いつかなかったからだ。
感染者でもいいから他者の存在をこの目で確認したいってのもあるけど、得体の知れない病気(?)の人にわざわざ接近するのも抵抗があるからね。
第一発見したとしても病院も警察も機能していない今、余計な懸念がリアルになるだけで、僕にできることは何もない。
無線機の確保とか言っても何処で手に入るかも分からないし、どこかの施設や店頭にあるからと言って勝手にもってくるわけにもいかないだろう。
例え何とかなったとしても、操作方法も知らないし。
某有名掲示板をのぞいてみる。
問題の夜以降に更新があれば、それが無事だった人の情報だと考えたからだ。
確かに数件スレッドが立ってはいたのだが、しかしながら有用な情報は見当たらなかった。
いちばん伸びてるのが【ひきこもりの俺氏、両親倒れて無事死亡】ってスレだった。
「どうすりゃええんや……飯が出てこないんだけど」から始まったそれは、参加者は少人数とは言え見事に誹謗中傷に晒されていた。
両親の心配より自分の飯の心配とか、ひきこもりという人種は清々しいほどのクズであると言えよう。
参加者の罵りのレスの合間に「ウチの猫が倒れて目を覚まさないの(;´Д⊂)」というコメントを見つけ、思わず目頭が熱くなるのを感じた。
人が倒れた話をふーん大変だな程度で流してた僕であるが、それが猫となると悲しみを共感できてしまうあたり、僕も傍から見れば結構クズかもしれないな。
いつか何かの切っ掛けで、”茶々丸一匹の命を捧げれば人間100万人の命が助かるとしたら?”と妄想した際、”普通に人間死ねば?”と選択した僕である。
……うん、やっぱりイイ感じでクズかもな。
反省はしないが。
何はともあれ、この超非常事態にわざわざ匿名掲示板を使おうというもの好きはそうはいないらしい。
てか、荒らしてたヤツらは余裕なんだろうか。羨まし限りだ。
……まあ、僕も去り際に「そのままあの世にひきこもってろks」と書き逃げしてきたのだが。
「無駄な時間と情報資源の浪費をしてしまった」
僕は次の情報を求め、キーボードを叩いた。
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