第14話 感染者?

そう。

もし例の外の無人状態の理由が山田さんの言う通りだとしたら、そこら中に昏睡状態で倒れている人々がいるのではないか。

しかも、救助活動とかされている気配も形跡もない。

そうとなれば、既に4日間も昏睡状態の人達を放置していることになる。

流石にマズイのではないだろうか?


『……非常に残酷だけどね、感染者は基本放置するしかないって話にまとまってるんだ』


「えっ? それって死ねって言ってるようなものじゃないですか?」


『そりゃね、できることなら全員保護したい。でも、無事な者に対し感染者のほうが圧倒的多数なんだ。ひとりで100人とか1,000人とか面倒どころか保護することも不可能だよ。物理的に無理なんだ』


山田さんは少々ムッとした口調で言う。

僕は外の無人状態を再び思い出した。

確かに、普段そこに溢れていた人々を僕ひとりで何とかしろと言われても、絶対に不可能なのは予想に難しくない。


「……確かにそうかも。すみませんでした」


山田さんはフーっと息を吐き、言葉を続ける。


『いや、こちらこそすまないね。君はついさっき現実を知ったばかりだ。君の思いは人として至極真っ当だよ。でもね、現実を身をもって知れば知る程、おのれの無力を思い知るよ』


しばしの沈黙。


気まずい雰囲気から逃れるため、僕はもうひとつ気になっていた疑問をここで聞いてみることにした。


「ところで、感染者とか言ってましたけど、これってパンデミックか何かですか?」


『……んあ? ああ、それね。感染者って表現は、誰からともなくそう言い始めてそれが広まっちゃったから便宜的にそう言ってるけど、現状のこれが病原菌によるものなのか、それとも別の原因なのか、全く見当がついてないんだよ。』


「何ですかそれ……」


原因不明ってやつですか。

ゾッとする。

それって、別の見方をすれば予防方法も不明って話じゃないか。


『とりあえずは安心してほしい。無事な人々の中で、新たに発症したって報告は聞いてないから。少なくとも普通にそのあたりをウロついたり、感染者との接触程度では感染しないことは経験的に分かってるから』


「ちょっとだけ安心しました」


『無事だった人はね、家族とか、自分の身内の感染者の面倒で手一杯さ。不幸中の幸いだけど、放置してる感染者達のコンデションは思ったより悪化してない。代謝が低下して疑似的な冬眠状態にあるからと推測してる。でもあと何日もつかは分からないけど。

 しかし、今から頭が痛いのは、彼らが亡くなった場合、伝染病予防として遺体を焼くなり埋めるなりしないといけない。幸い今は初冬だから気温的には猶予があるけど、それでも気が遠くなるよ』


……なにそれ。

自分が遺体を運んで火に投げ入れている図を想像して身震いする。

例えば現代日本人が「死体の処理、近い将来くるから参加ヨロ♪」とか言われて、はいそーですかと平然と言える者がいるのであろうか。


つい1時間程前まではあった何気ない日常が、完全に砕け散る音が聞こえた気がした。

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