第2話 人見知りな悪魔
「あー」
切断されポロリと落ちた訪問者の指がこちら側に転がり玄関を血で汚すのを横目に、ナイフを更に奥へと突き立てる。そして、覗き窓の隙間が許す限り捻り込む。
状況的に相手の絶叫が響くシーンを想像できるだろう。
しかしながら、ドア越しに聞こえてきたのは「うううっ」とい小さな唸り声のようなものだけであった。
十分な手ごたえを確認した後、ナイフを引き抜く。
ドア越しにドサリ、と音がした。おそらく、扉の向こうの訪問者が倒れた音であろう。
僕は「ああ汚ねえなあ」と呟きながらナイフを見る。
血や脂の着き方からして10cm以上は刺さったと確認できた。
ゲームで言えばクリティカルヒットってところかな。
「……しかしまあ、我ながら慣れてしまったもんだなあ」
未だに汚物とかに対する嫌悪感はあるものの、しでかしてしまった行動…殺人、少なくとも殺意は無かったと否定するには難しいこの行為についての罪悪感とか嫌悪感みたいなものは既にない。
今までにもう数えきれない程繰り返してきたからだ。今更、その辺りについては何とも思わない。
夜中3時に玄関のドアを叩くという相手の行為。
それは、いくら騒音に対する抗議とは言え少々行き過ぎな気もしないではないが、その行為に対する”報い”が”命”とはいくらなんでもやり過ぎなんじゃないかと思うかもしれない。
しかし、僕は知っている。
こいつは、この程度では終わらない。
ドン……ドン……ドン
再びドアを叩く音が復活する。
「うーん、うるさいわ!」
先程よりは叩く力も弱く、叩く間隔も鈍ってきてはいる。
しかしながら、普通の人間ならばショックで即死か運が良くて(悪くて)数分の命の致命傷であるはずであり、とてもじゃないが抗議を続けるメンタル状態ではないはずであろう状況。
にも拘わらず、来訪者は抗議をやめなかった。
執念深いヤツめ。うっとおしい!
「そんなに僕を喰いたいんか、ゾンビ野郎!!」
僕は再び除き窓の蓋を跳ね上げる。
彼は除き窓がエサと直接触れれる空間だと認識したのかどうかはしらないが、こちらを覗き込む形になっていた。
僕の目と来訪者の目が今度はバッチリと合う。
血走りすぎて、白目部分が真っ赤になった目と。
「おりゃ!!」
彼の赤い目めがけ、サバイバルナイフを突き立てる。
そして先程と同じ要領で力を込めて捻る。
ビクンッとナイフ越しに伝わる痙攣。
ナイフを引き抜くと、ドサリと彼が崩れ落ちる音がし、そして今度こそ沈黙した。
「ふう、結果オーライ」
この訪問者……僕がゾンビ野郎と呼んだ奴のことだが。
結論から言うと、簡単に言えば映画や小説に出てくるような典型的なアレである。人を襲って喰らって仲間を増やすっていうアレだ。ゾンビってヤツである。
・・・いや、ゾンビという定義が「生ける屍」と言うのならばそのカテゴリーに含まれるのかは解らないんだけど、見てくれや習性からはそう表現するのがぴったりなのである。
要するに、僕的には既に人間ではないと思ってるので、邪魔なら潰してしまっても問題なしってワケだ。少なくとも、そう思うことで精神衛生上対処できていると思う。
彼らは典型的にも頭部というか脳に損傷を受けると沈黙するので、最も手っ取り早く片付けたければ、今夜の来訪者の様に脳にダメージを与えればよいってことみたいだ。
あと彼らについて判っていることとして、奴らがエサ(人間を含む動物)を感知する手段として、”音”がそのひとつであることは間違いなさそうだ。
おそらく今回の場合はたまたま近くにいたのか、元から僕か茶々丸の出す生活音を聞きつけて接近していた奴が、冒頭の騒動で確信を得て突撃してきたのであろう。
このあたりのゾンビどもはあらかた処分したのもあり、経験上他のゾンビがすぐにでも集まってくるとは思ってはいないが、念の為と安眠の為にこの新たな音源はなるべく早く処分しておきたかったので、ドア越しに安全に目から脳を直接破壊できたのはラッキーだったと思う。
「終わったぞ、茶々丸」
ソファーの陰からこちらを伺う光る眼を見つけ声をかけると、「にゃあ」と甘えた声をあげながら小さな悪魔は僕の足に擦り寄り、そしてゴロンとお腹を見せた。
「まったく、こうなると天使なのにな」
僕はこの憎み切れない悪魔をお腹を撫で、そしてやれやれとベッドに腰を下ろした。
……おい、撫でろっていうからお腹撫でたのに、なにネコキックしてんだよ。
痛いから止めてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます