水と油の恋物語
八咫鑑
第1話:油の煩悩
はぁ、と油は小さなため息をついた。
油が見つめる先には、水があった。
H2O、なんと素敵な響きだろう。
ゼロキロカロリー、なんと素敵な響きだろう!
油は水に焦がれていた。恋である。
水は優雅だ。はるか山奥で水源となって誕生し、川となり海へ流れ、蒸発し雨となりときに雪となって大地にまた降りてくる。
液体から気体、固体へと自由自在に、地球上の様々な場所を旅しながら、水は永遠に循環していくのだ。
これよりも美しく、完結しきった存在があるだろうか?
油は、そんな完璧な存在である水に大層惚れていた。一度として水のことを忘れたことはなかった。恐れ多くも卑しくも、混ざり合いたいとまで思っていた。しかし、それが叶うことはない。
水と油は混ざり合わないのだ。
油は、水の表面張力に勝ることができなかった。
水の表面張力は強力だ。油の表面張力如きではビクともせず、寸分も入り込むことができなかった。
それに留まらず、比重の関係上、2人が出会うと必ず油は上に押し上げられてしまう。
油にはこれが不満でたまらなかった。
そんな気は毛ほどもないのに、まるで自分がマウントを取っている様で嫌だった。
油は申し訳なさと恥ずかしさで、いつも大量の油輪を作ってしまうのだった。
こういうわけで、油は水にいつも引け目を感じていた。
水がいつも何を考えているかなど、つゆほども知らずに。
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