第3話 拝啓、みなし過ぎ

拝啓、転職失敗人間様


 私の名前は中嶋 大悟。26歳です。元々工場内勤務をしていました。工場内勤務時代は、ほぼ定時上りで、繁忙期になると、たまーに残業がある程度。正直言って、周りの友達と比べても稼ぎは良くありませんでした。

「時間はあるけどお金がない」

といった4年間でした。やっぱり若いうちは残業してでも稼がないとと思い、美容系製品の会社に転職しました。

 仕事内容としては、消耗品の交換や納品の他に、トラブル時の対応と客先に出向いて行う作業がメインの今までと違った仕事です。今までの仕事と大きく違うこの会社を選んだ理由は、やはり残業しお金を稼ぎたかったからです。

 面接時の説明では、基本的に直行直帰で30時間のみなし残業制とのこと。30時間残業しなくても30時間の残業代は支給されるし、30時間超えたらその分は別途支給とのこと。基本給は安くなりましたが、みなし残業代を入れると少しばかり年収は上がりました。今までほぼ残業のなかった私にとっては夢の様な話でした。

 西日本営業所に配属され、はじめの3カ月は先輩社員と同行でした。その先輩の担当エリアは大阪、奈良、和歌山。9時ぐらいに出発し、午前中に納品関係を回り、午後には予定された消耗品交換や緊急のトラブル対応をこなし、遅くとも20時頃には帰社し翌日の準備をするといった感じ。大体1日2時間の残業で、おおよそひと月40時間の残業かと思われましたが、

「最後の現場が終わった時点で勤務終了」

との説明。大阪支店から1時間かかる現場で19時に仕事が終わり、20時に帰社した場合は、勤務は19時までで残業は1時間とのこと。おおよそ、ひと月20時間ほどの残業時間になり、みなし残業の30時間以内の為、追加での残業代の支給はありませんでした。

 同行期間も終わり、私の担当エリアが、兵庫、四国4県に決まりました。四国はお客様は少ないですが、幅広いエリアにお客様が点在しているエリアでした。

 遠方の納品の場合は6時ぐらいには自宅より直行し予定の納品を回り、午後からの遠方の対応の場合は18時に現場は終わるが、翌日の準備の為、事務所に戻ったりしたのち、帰宅は24時を回ることも。しかし、

「最後の現場が終わった時点で勤務終了」

なので、そういった日も18時に勤務終了。また、朝早く出発した場合も

「9時以前に現場に入った場合は、そこから仕事開始。9時以降に現場に入った場合は9時から仕事開始。」

との説明。

 結局、6時に出発し24時に帰宅したこの日も、勤務時間としては9時から18時の残業0時間となってしましました。

 結局みなし残業の30時間を超える事はなく半年が経ったある日、西日本営業所の売り上げが、達成できない恐れがあるとのことで緊急ミーティングが開催されました。開催日は休日の土・日にホテルの会議室を借り、宿泊し2日間みっちり緊急ミーティングが開催されました。

 この緊急ミーティングの勤怠に関しては、

「これは仕事では無いし、みなし残業30時間も付いているからその中で処理して下さい。」

とのこと。結局、勤怠上は休日との扱いになり、この月の残業もみなし残業の30時間を超える事はありませんでした。

 その1年後、休日のお客様からの問い合わせ受付を開始するとの話が上がってきました。要は、休日であっても、私の携帯電話にお客様からの電話がかかって来るようになり、その対応に追われる休日になりました。休日にゆっくり寝ている時にでも、電話、遊びに出かけている先でも、電話、電話、電話。。。。

 その勤怠に関しては

「休日対応手当月2,000円支給。対応時間に関してはみなし残業内で、処理して下さい」

とのこと。

 入社して3年が経ちました。この3年間、みなし残業30時間を超えた事はありません。休日の緊急依頼の消耗品出荷、監査の為の事務所の片づけ、事務所の大掃除、勉強会等々、全てみなし残業内で。。。

「時間も無いし、お金もない」

そんな3年間でした。

 最終出社日に上司より

「次の仕事でも頑張って下さい」

「みなし過ぎ無いように頑張ります。」

 法的な解釈はいろいろあるとは思いますが、みなし残業の文字に踊らされ、時間と金のない転職失敗人間が出来上がってしまいました。

 今は、残業代は全額支給の会社で汗水たらして残業代稼いでます。


敬具

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