精神異常④
「なんなの、あなたたちは!出て行って!私を異常者扱いしないで頂戴!不愉快だわ!!」
「落ち着いてください。決してそのようなつもりはございません。ただ、あなた方は現在明らかに混乱しています。その状態では本当に異常性が発現してしまいます」
「落ち着いていられるもんですか!そういって閉じ込めて、隔離するつもりでしょう」
「二次被害を防ぐため、ご協力いただければと……」
「人を病原菌扱いして……!ああ、やはりこの家計は呪われているんだわ……。あの人のせいでなにもかも…」
バーボン家は、大きな家だった。その玄関ロビーで騒いでいるのはこの家の奥方だ。他の者達は奥の部屋で大人しくしているようだ。
「やはり…とは?」
彼女の相手をしていたアイルーが、気にかかる言葉を拾い上げると、キッと鋭い視線を寄越してきた。
「こちらの話よ!早く出て行ってよ!」
「そういう訳には参りません」
思ったよりも酷い状況だった。
今の所騒いでいるのは奥方一人だが、この様子だと異常者についての知識がそこそこ備わっているように見える。その上でここまでヒステリックに叫ばれると、尚更この家を無法地帯にするわけにはいかない。
「厄介ですね。落ち着いてもらわないと二次被害どころの騒ぎじゃなくなりますよ」
「……一般が一家の話を鵜呑みにするとは限らないが…」
「それに煽られて異常性が発現するかもな」
スカーとブラッドの話に、一人の男が割り込む。その正体を確認すると、スカーは姿勢を正して敬礼した。
「お疲れ様です。イレイズ捜査官」
「久しぶりだな、エレイン兄弟」
「お前の担当だったんだな」
「ああ。そうだ、クレイ討伐おめでとう。祝いに飲みに誘いたかったんだが、忙しそうにしてたんでなぁ」
イレイズ捜査官と呼ばれた男は、はっはっは、と快活そうに笑った。ブラッドの同期で、異常防衛隊員に負けない屈強な体つきをしている。
「ああ、近々行こう。エラーの事も話しておきたいしな」
「はは、まだ気が早いんじゃないか?さっき見かけて声をかけたら微妙な顔をされちまった」
「イレイズ捜査官の元なら安心していいのに…」
「嬉しいことを」
言いながら、イレイズは苦笑した。ブラッドも申し訳なさげに肩をすくめる。エラーの引き抜き先をイレイズの所にと話を持っていったのはブラッド自身だった。本人の意向を無視する形になるが、致し方ない。気が早いとは言うが、数年見続けてこれが限界だと判断した。それを見極めるのも上官としての務めだと思う。
「ところで、あれが例の?」
話を逸らすように、イレイズはとある方に目線を向けた。
「ああ、特異常者、不老不死ノイズ・ルーチェス」
「……普通の青年に見えるが。そうか、なる程。ウィルスの奴がへばる訳だ」
納得したように頷くイレイズに、スカーが小首を傾げた。
「どう意味ですか?」
「頭可笑しい奴らの相手してると分かんなくなるんだろうが……。良く覚えておけよ、スカー。『普通に見える奴が一番ヤバい』。俺から見ると相当異質だぞあいつ。気をつけな」
イレイズはそう言ってブラッドを横目で見た。まるで、今の言葉はスカーだけに言ったのではないとでも言うように。
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