精神異常②




「今回の任務は、異常者疑いのある一家の身辺調査になる」

「異常者疑い?」

「どうやら数年前、我々防衛隊が討伐した異常者の存在が、遺族に知られてしまったようでな」

「……はあ?今更?警察はなにやってんですか」


捜索願いが出されていた所で、行方不明者が異常者だった場合、二次被害を避けるため、その存在は秘匿されることが多い。二次被害とは、異常性の伝染。つまり、異常者の発現だ。

隊員たちのその疑問は当然だった。


「その一家は以前から、異常者に対する恐怖心を持っていて、ずっと疑っていたようだな」

「それはそれで異常ですね」

「異常性はまだ見られないが…突然狂暴化するかもしれん。今のところは彼等の保護と監視が主だが、各自で判断し、最悪撃っても構わない」


特に少数対応の時は躊躇うな。と付け足すと、隊員達は頷いた。そこに協調性のない男が二人。


「そういや異常者って、元々普通の奴なんだっけ」

「健常者から異常者になるプロセスはぜひ研究したいところなんだけれどね」


ノイズと、ウィルスだ。慣れてきてはいるようだが、これで仲が良くないというのだから可笑しい話だ。しかも、ノイズの精神状態も安定しているように見える。解せない。


「ウィルス、それは許可しないからな。一家の人間は現在健常者。保護対象だ」

「お堅いなぁ。異常者になる要素を持った健常者など、貴重な存在だと言うのに」


彼等を研究できれば、異常者の数を根本的に減らせるかもしれない。なんて言っているが、根拠のない事だ。異常者の素質があるとの疑いは、それこそ異常者の数を増やすことに繋がる。社会による精神攻撃はご法度である。


「まぁ、ダメ元で聞いてみただけだよ。私はこれを渡せればそれでいい」


 そういって差し出された物に、ブラッドは疑い深い視線を向ける。信用できるわけがない。


「なんだ?」

「異常者用の鎮静剤だよ。その一家全員の頭が可笑しくなる前に、異常細胞の活性化を防いでしまえば、発症は防げるんじゃないかと思ってね」


 理屈ではそれが可能であると、注射式の薬を見せつけながらウィルスは続ける。


「一度活性化した細胞は鎮静剤を打ってもすぐに回復してしまうが…。そうなる前に投与した場合の実験結果はないんだけれどね。本来なら異常者の発症は予測できないから」

「……活性化する前の細胞になら、効くかもしれないな」

「話が通じて嬉しいよ」

「今回だけだ」


 異常者がそうなる前の前兆は、実は珍しいもので誰も見たことが無い。行方不明になった人間が異常者として確認される事が多いのだ。


 誰も、自分が可笑しいかも知れないとは口には出さない。周りから見ても少しの『ずれ』は個性として認識され、それが『異常である』と断言することは出来ない。明らかにそういう考えを持っていたとしても、それを自覚し、その思考を表に出さなければ誰かに見つけてもらう事もない。


 表に出ないだけで、異常はそこかしこに蔓延っているのかもしれない。それを全て防止しようなんて果てしない事である。なんならここにいる防衛隊の全員を疑う羽目になるほどだ。それはおおよそ現実的ではないだろう。


それに、ウィルスも随分と丸くなった。ノイズに出会ってから。ならば今は、確認できる範囲で動けばいい。


どうせ、ノイズ以外は全員。いつか死ぬのだから。


「じゃあ一班二班。それからノイズは俺とその家に行くぞ。警察からの引継ぎがある。他は待機。他の異常者が出たらすぐ連絡してくれ」

「了解しました」

「一家の混乱が収まるまではその家自体を封鎖する。落ち着き次第、家族の一人一人を監視する事になる」

「それ、一家は知ってるんですか?自分達が異常者になる可能性があるって」

「異常者っていう括り自体、一般にはあまり広められていない。が、調べれば出てくる言葉ではあるな。あまり刺激はしないように」


 目的地に向かいながら、観察対象の人物たちを確認する。一家の名前はバーボン家。祖母が一人、家主である旦那と、その嫁、子供は男女が一人ずつ。それから使用人のメイドが二人。異常者だったのは祖母の息子で、旦那の兄弟。


「特にばあさんは要注意。異常者について嗅ぎまわってた張本人だ」


 その事実だけで、隊員の気が引き締まる。執念深い老人はクセが強い。厄介な相手に決まっている。

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