3章没版【パーティーを追い出された元勇者志望のDランク冒険者、声を無くしたSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される

シトラス=ライス

①三章ボツ版 パーティーを追い出された元勇者志望のDランク冒険者、声を無くしたSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される


 ご要望をいただきましたので、表題作の3章ボツ版を掲載します。

ボツにした一番の理由は「こんな大人だめでしょ!」という点です。ただしボツにしたのはあくまであたし個人の見解です。こうした展開を否定するものでは無いことを、あらかじめご了承ください。よろしくお願いいたします。



***



 まず3章前半の基本的な展開は一緒です。主人公:ロイドは、ヒロイン:リンカとの収入格差を埋めるために、Cランクの昇段試験へ向けて努力を始め、様々な人からの支援を受けます。最初に大幅に変更したのは「46話:すいれちがい」です。タイトルも執筆完了時点では「焦り」でした。


【以下、本文です】


●46話:焦り


 

 試験まであと一週間。

 走り込みも、息切れをしなくなった。

瞑想にもすっかり慣れた。

 オーキスが本の翻訳を手伝ってくれたおかげで、知識的なことは全て頭の中に入っている。


 全ては順調と言えた。何の問題も無かった。


「……またか……」


 ロイドはため息交じりに、意図せず言い慣れてしまった言葉を吐き出し立ち上がる。

 彼の足元には、首を垂れるように萎れている花が、僅かな風を受けて揺れている。


 本題である回復魔法の行使が、全く上達していなかった。


 焦りは募る一方だった。

もはや今のロイドがやるべきことは、回復魔法を上手く行使すること以外にない。

 しかし最近は日差しが強く、気温が急激に温まり始めたためか、森では花が元気よく咲き誇っていた。

課題になりそうな”萎れた花”を探すことが、困難になり始めていた。


 今は可能な限り、回数を重ねて、問題点を炙り出し、確実に一つずつ潰さねばならない。

試行回数を重ねなければならない。

 そのために敢えて元気よく生育している花を傷つけようと考えたことさえあった。

課題が見つからないのなら、作ってしまおうと――それはロイドだけの都合であって、花には関係のないこと。


 寸前のところで、思い止まり、走り込みをしつつ”自然と萎れてしまった花”を探し求める日々。


 いたずらに時間ばかりが過ぎて行き、試験がジリジリと近づいて来ている。

 彼は募る焦りを払拭するように、少し速度を上げて走り始めた。


「ぐっ……!?」


 途端、つま先が小石に引っかかって、あらぬ方向へねじれた。

足首へ激しい痛みが走り、彼はその場に蹲る。

すると背中に響いた、小さな足音。


 鍛錬中のロイドへ朝食を届けようとしていたリンカは、バスケットを投げ捨て、ロイドへ駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫だ。心配するな……」


 肩を抱き、青い瞳で心配そうな視線を寄せるリンカへ応える。

立ち上がろうとするが、足首に激痛が走り、再び尻もちを突いてしまった。


 そんな彼の脇でリンカはポシェットから羊皮紙の切れ端を取り出す。

炭の筆記用具で素早く詠唱を書き込み、切れ端をロイドの足首へ当てる。

羊皮紙は緑の輝きを伴って燃え、足首の患部へ溶けて消える。

足首が一瞬で温まり、痛みが無かったかのように消え去ってゆく。


 どうやら回復魔法を施されたようだった。


 リンカは伺うような視線を寄せて来る。


「……ありがとう」


 ロイドは礼を言って、すっかり治った足で立ち上がった。


 痛みはない筈なのに、胸の内には、暗い影のような感覚が落ちている。


声を失っていてもさすがはSSランク魔法使いのリンカ=ラビアン。

 今のロイドでは到底扱え無さそうな回復魔法を、羊皮紙の切れ端で、しかも威力は三分の一に低下する文字魔法で、あっさりと行使していた。


 花の回復さえ満足にできない、全力を尽くしても上手く行かない回復魔法を、さも呼吸をするかのように。


(早くなんとかせねば……)


 ロイドはリンカを払うように立ち上がり、すっかり元通りに治った足で地面を蹴って走り出すのだった。




●●●



 もしかすると回復魔法が上手く行かないのは、基礎がまだまだ完璧ではないから、なのではないかと思った。

完璧と自分が思いこんでいるだけなのではないかと考えた。

また基本に帰るべきだと判断した。


 ロイドは自室として使わせて貰っている部屋へ引きこもる。

いつもは整然としている彼の部屋は、多数の”回復魔法”に関する資料で乱雑になっていた。


 勉強不足。きっと今の自分は何かが足りていない。

センスも才能も無いのは分っている。そうした先天的な事柄を努力でカバーするしかない。


 勉強不足。もっと知識を、もっと参考を、もっと今の自分に求められている何かを。


 何度も開いてくたびれ始めた本のページを開く。

 内容は頭に入っている筈。流し読みできる。そこにある重要点が何なのかは判別できる。

ならば何が足りないのか――分からない。


 違う参考に移ってみるか? 今から他の参考を手に入れるべきか?


 いずれにせよもう時間が無い。もっと勉強を、もっと知識を、もっと参考を。


 時間が無い。いや、それは言い訳だ。寝ずに勉強をすればまだ間に合うはずだ。

 努力のやり方が間違っていたのか? だったら正しい努力とはなんなのか。

闇雲にやっているつもりはない。しかし結果がでないということは、やはり何かが間違っているのか。


 そういえば新しい”回復魔法”に関する情報があった。

起死回生のヒントになるかもしれない。

今の彼にはソレが必要なのかもしれない。


 ロイドは椅子から立ち上がる。肘が資料の山に当たって、がらがらと崩れた。

部屋が更に乱れた。しかし構ってはいられない。


 彼は床に散らばっている資料や書籍をひっかきまわして、必要な情報を探す。

しかしどこに何があるのか分からず、目当てのものが見つからない。


 時間が無い。しかしこういう時に限って、必要なものが見つからない。


「ああ!!」


 たまった鬱積が口から弾けるように飛び出す。

すると、目の前からカタリと陶器が揺れる音が聞こえてくる。


 気が付くと、目の前には盆へティーカップを乗せたリンカが佇んでいた。

いつもは宝石のように透き通っている瞳に、少しの陰りがあるようにみえる。


「なんだ、どうかしたか? 何かようか?」


 予期せず突き出た棘のある声に、リンカは肩を震わせる。

彼女はおずおずとつま先を蹴りだす。


「!?」


 つま先が散らばった本に引っ掛かり、姿勢を崩した。

寸前のところで彼女は立ち止まる。代わりに盆からティーカップが零れ落ちた。


 カップは床へ吸い寄せられるように落ち、バラバラに砕け散る。

褐色がかった茶が書籍や資料へ飛び散り、白い湯気を上げている。



「気にするな。俺が片付けるから」


 ロイドは静かに言葉を絞り出す。

それでもリンカは破片へ手を伸ばす。


「片付けは良いから! 頼むから今は一人にしてくれ! 邪魔をしないでくれっ!」


 思わず弾けるように出た鋭い一声。

リンカはビクンと、肩を震わせた。彼女は瞳を曇らせて、小さく頭を下げた。

盆を胸に抱えて、気持ち足早な様子で、部屋を飛び出してゆく。


 その状況になって、ロイドは初めて”言い過ぎた”と思い直した。


 冷静さを欠いていた。リンカに悪気は無かった。


 ロイドは慌てて部屋を飛び出す。


 家のどこにもリンカの気配はない。ただまとわりつくような、ねばつく静寂が流れているのみ。


「全く……俺は何をしているんだか……」


 自嘲がこぼれ出た。

もはや焦りよりも、無気力が体中を支配している。


 ここ最近はリンカのおかげですっかり忘れていた万年Dランクであるという劣等感。

 決して子供の頃に夢見た”勇者”にはなれていない自分。


 それなりの絶望と、無に近い希望。


 まるでリンカと出会う前の自分に戻ってしまったかのようだった。


「疲れた……」


 思わず本音が零れ出る。

 最悪な気持ちの彼は、とぼとぼと歩き出し、小屋を出て行くのだった。


【本文、以上】


 のようにロイドさん、自分のイライラをぶつけちゃってます。そりゃまぁ、上手くゆかない時って、イライラはしちゃいますけど、それをぶつけて関係をこじらせるってずいぶんお子様な大人なように思います。しかも一回り以上も歳が離れているいたいけな女の子へです。苛立ちはあっても、せめて、ぶつけるのだけは止めましょうよ。というわけで、掲載版では、ここのロイドさんには感情をぐっと堪えて貰いました。

 この点、一時でもこんな展開にしてしまったことを反省しております。


 では続けます。

 

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