33杯 鎮魂

 稲妻が落ちたような光に目を細めながら、蟇目は走る。

「やったのか?」

 魁はどうなった? やはりそれが気になった。

 儀式が終わったのなら、急いでも無意味なのだろう。多数の変異種を相手にした為、結構な傷も負った。

 蟇目は速度を落とし、変異を解いて歩き始める。

 観測施設の方から感じられた、淀んだ空気は無くなっているように思う。

 礎となった魁の姿を拝んでやるか、と少し寂しい気持ちで歩き続けた。



 しかしそこにあったのは観測施設を飲み込むほどの大きな樹。

 化石化したかのように白いが葉がついている。

 見た目からは確かに場を清めるような雰囲気がある。まさに『御神木』という感じだ。


 一瞬でこんな物が出来上がるなんて、これが魁の精神の成せる業か。

 と感心して近づいていくと、根元に人影が見えた。


 あれはサクラとかいう巨乳と、魁!?

 二人の下へと歩き、魁の顔を覗き込む。

 魂を持っていかれて体は残ったのか? という感じで見回していると魁は「うう」と呻いて目を開ける。

「お? 生きてたか」


 蟇目は屈み込み、魁が呻くのも気にせず体をあちこち触る。

「ちょ、ちょっと何やってんのよ」

「大丈夫だ。あばら以外は折れてねぇ」

 十分重傷でしょ、と焦るサクラに、

「救急車は呼んだのか?」

 と聞くとしばらく呆けた後「あっ」と叫んで携帯を取り出す。

 俺が直接持って行く、と魁を抱え上げる。


 そして蟇目のバイクの後ろで、サクラの胸に抱かれて病院へ運ばれた。

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