20杯 思いやり

 広い畳敷きの部屋で、着物姿の女性は花を生けている。

 その前で、魁は黙って正座していた。


「魁。あなたは自分を花に喩えると何だと思いますか?」

 花を生ける女性、桃子は唐突に口を開く。

「花……ですか? よく分かりません」

「なんでもいいです。答えてみなさい」

「はあ……、チューリップでしょうか」

「それはなぜ?」

「それしか知りません」

 ふふ、と笑う桃子に魁は尋ねる。

「母上は、何だと思うのですか?」

 そうですね、と言い後ろから鉢を取り出す。

 鉢に植えてあるのは……、

「サボテン?」

 これは花と言えるのか? という心情を読み取ったのか、

「サボテンも花をつけるのですよ」

「そうなんですか? 知りませんでした」


「魁。あなたは自分の名の由来を知っていますか?」

「はい、父上から一字を頂いたものだと」

「それも間違いではありませんが……」

 と桃子は続ける。


 魁、とはあつものを汲む柄杓ひしゃく

 柄が長くて頭が丸く大きい事から頭の大きい物、または頭そのものを指すようになる。

 かしら。首領。一団の仲間を率いていく者。大きくて、堂々としている様。

 また柄杓の形から、北斗七星の第一星を指す事もある。

 植物の根の塊状のもの。丸く太い球根。事物の元、根本を指す。

 ちなみにあつものとは羊羹ようかんの羹です、と補足する。


「知りませんでした。確かに、そう言われるとサボテンのような気がします」

「サボテンは、ただ丸いだけではありません」

 と言ってサボテンの針を剣山のように使い、花で飾っていく。

 サボテンは見る見るうちに鮮やかな花で彩られた。

「こうして多くの花を支え、また支えられる事が出来るのです」

 そしてサボテンは完全に外から見えなくなる。

「あなたは一見外から見えませんが、中心で皆を支えているのですよ。同時に支えられてもいる。あなたは超人ではありません。時には人に頼りなさい」

「はい。……私は、どうすればよいのでしょうか」

「また大雑把な質問ね。どうすればよいのかが分からないのなら、何もしなければよいでしょう」

「いや、……それは」

「自分が何をしたいのかは、もう決まっているのでしょう?」


 魁は変異種について知りたいが、その手段を持っておらず、何から始めたらいいのか分からない、という事を伝えた。

 蟇目の事は伏せておく。

 協力してくれると言ってくれたものの、どこまで信用していいかは分からない。それに、彼は変異種の中でも酔狂な部類に入るだろう。


 そうねぇ、と桃子は葉を数枚拾い上げる。

かぶら古流には結構な人脈があります。もっとも魁一郎が築いたものですから、わたくしに出来る事は些細なものですが……」

 葉をトランプのババ抜きのように重ねて持ち、

「一枚引いて御覧なさい」

 魁は「は?」という顔をするも素直に真ん中の葉を引く。

「それがあなたの運命のようですね……」

 魁は一瞬きょとんとしたが、引いた葉を裏返したりしてしげしげと眺める。

 やはり分からない、と答えを求めるように桃子を見る。

「生き物の事は、生物に詳しい人に聞いてみるのが一番。魁一郎の友人に、生物学の権威が一人いました」

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