異世界カラオケ十八番

明通 蛍雪

第1話

 スピーカーから大音量で流れる音楽に合わせ歌う。女性の綺麗な声は鼓膜を心地よく震わせる。

「何で九十点に行かないの!?」

 自分の番を終えた彼女は歌声とは似つかわしくない声で苛立ちを露わにする。

「残念だったな。次は俺様の番だ」

「くっ」

 悔しそうに拳を握りしめているのは、僕の友達の天使。そして天使に変わるようにマイクを手に取ったのが悪魔。

 悪魔の洋楽はとても上手い。

「今回の一位は俺様の物だ!」

 自信満々な様子の悪魔に天使はヤジを飛ばす。

「次、屋敷の番」

「ありがとう」

 隣から渡されたリモコンを受け取り曲を探す。隣に座っているのは宇宙人の少女。この中で最も見た目年齢が若い。

「悪魔の次は私」

「うぉー! 何故俺様の歌が八十九点なのだ!」

「プププ。九十点いってないじゃない」

「ふん、次は必ず超えてみせる」

 睨み合う悪魔と天使。それを無視する宇宙人は軽やかな音楽に合わせ歌う。見た目通りの甘い声で、どこかで聞いたことのあるような歌を歌う。

「ウェルカムトゥ……」

「屋敷は何を歌うのだ?」

「僕は適当に?」

「そうか、まあ俺様には勝てないだろうがな!」

「私が一番に決まってるじゃない。調子に乗らないでよね」

「屋敷、リモコンを貸せ!」

「あ、次は私よ!」

 またまた睨み合う二人はリモコンを取り合う。

「リモコン二つあるから」

 二人を宥め宇宙人の曲に合いの手をいれる。友達四人でカラオケに来ているのに、結局いつもこうなってしまう。悪魔も天使ももう少し仲良くしてほしい。

「イェーイ!」

「パチパチパチパチ!」

 テンションマックスで歌い終えた宇宙人とハイタッチ。そのままマイクを受け取り交代する。

 悪魔と天使はカラオケに来るといつも競い合う。最近はそれも見慣れてきたけど、やっぱりさっきの僕と宇宙人みたいに楽しんでほしい。

「歌いまーす。奏」

 僕の一番好きな歌。これで悪魔と天使を振り向かせる!

「……嘘だろ」

「九十七点……?」

 今までカラオケで歌うことを封印してきた僕の十八番。それを披露すると二人は固まって画面を見つめる。

「屋敷上手い!」

「ありがとう」

 再び宇宙人とハイタッチを交わし天使にバトンタッチ。

「負けてられないわね」

「ああ、今日は帰らねえぜ!」

「え?」

 何やらやる気になった二人。

「天使、この曲だ!」

「悪魔にしてはいいチョイスね」

「屋敷を倒すぞ!」

 二人が選んだのは男女パートに分かれた曲だ。天使の歌声と悪魔の美声。ここに最強のタッグが誕生した。

「だぁっ! そこ音ズレてんだよ!」

「あんたこそ歌詞ぼかさないでよ!」

 一度は共闘の道を選んだ二人だったが、結局こうなってしまった。

「今日は朝までカラオケだ!」

「やるわよ!」

「おー!」

 阿保なことを言い出す二人と何故か乗り気な宇宙人。

 結局朝まで歌いっぱなしで声が出なくなるまで歌いました。

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異世界カラオケ十八番 明通 蛍雪 @azukimochi

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