第12幕 Lupinus

 眠りは疑似的な自殺だと思う。身体も意識も手放し、外界を無視する。逃げて、無になる。

 しかし、今日は少し様子が違っていた。

 夢を見たのだ。

 夢の中の僕は、小学校の教室で、国語辞典を読んでいた。

 どういうわけか記憶からすっぽり抜け落ちていたが、僕は昔、国語辞典を読むのが好きだった。課題として強制されたわけでも、他に読み物がなかったわけでもない。信じられないかもしれないが、本当に、ただ読み物として辞書が好きだった。

 しかし、それは大抵の場合許されないことだった。特に、幼稚園生や小学生の時は。

 何故だか、子供の時というのは専ら外で遊ぶことが推奨されていて、外に出ない子供は病気か、変り者という扱いを受けた。

 幾度も言われたことがある。『子供なのに室内にばかりいる』だとか、『男の子なのに外で遊びたがらない』だとか。それを聞くたびに罪悪感を募らせたものだ。

 周りの大人があまりにも困っている様子だったので、とりあえずは外に出てみる。心の内では国語辞典に載っていた『自由』の定義を反芻しながら。そして過ごしやすそうな日陰を探して、地面の雑草を眺めながら時間を潰した。

 しかし、そのうちに他の子どもが大人の手先として僕のところへやってきて、やりたくもない球技に混ざらなければいけなくなるのが、お決まりの展開だった。

 そういう意味で、学校の休み時間は綴にとって地獄だった。

 そもそも運動が得意ではなかったし、何より集団競技が苦手だった。一人の競技で失敗するのなら、ただ自分が惨めになるだけで済むが、それがチームとなると話は違う。

 極論、運動が得意でない人間に人権は無いのではないかとさえ思った。

 自分が何かを失敗したときの、視線。溜息。嘲笑。落胆。軽蔑。罵倒。そういう嫌な思い出が積み重なった結果、運動そのものからできるだけ遠ざかるように努めた。

 そういう理由もあって、一人教室に残って、こっそり国語辞典を読んでいたのだ。その夢の中で、いつも通りにページをめくっていると、そこへ三人の男子生徒がやってきた。気にくわなかったのか、それとも善意のつもりで、僕とふざけて遊びたかったのか、彼らは各々油性ペンやボールペンを持ち出して、読んでいるページに落書きを始めた。

「やめてよ…!」

 小さく叫んだが、聞こえていないのか、三人の落書きは留まることを知らない。挙句の果てにページは引き千切られて、それが紙吹雪になって自分の頭に降りかかった。三人の男子生徒が奇声を上げながら、自分の周りをぐるぐると踊り狂っていた。

 悔しくて、でもそれを言い返すだけの勇気が無くて、しくしくと泣いた。

 そこへ先生がやってきた。助けを求めようとしたら、そのボロボロになった国語辞典を先生がごみ箱に捨てて、「さあ、みんなで外で遊んできなさい」と笑った。

 言葉を失った。

 急に吐き気が込み上げて、教室で吐いた。すると、急に三十人近い生徒が地面からキノコのようににょきにょきと生えて、口々にはやし立てたり、叫んだり、クスクス笑ったりした。

 夢の中だというのに吐いた感覚が妙に生々しくて、舌が乾いて伸び切り、呼吸が上手くできなかった。群衆の陰に怯え、途方に暮れる。

「大丈夫?」

 急に冷たい感触がした。顔を上げると、黒い長髪を束ねた男の子が、目の前で上品に立っていた。大人びた、青紫色の眼差しで、夢の中の僕を見つめている。

 その少年は抱えた大きな銀のじょうろを傾け、その中の水を僕に浴びせた。どういうわけか、その水は湧き水のようにたっぷり降り注いで、床を汚していた吐瀉物を、綺麗に何処かへと押し流した。するとそこに、紫色の花が咲いた。

「少し一緒に行こうか」

 その男の子は優美に笑うと、綴の手をひいた。

 そこで目が覚めた。

「おはよう」

 ソファーの背もたれの上から、黒田が綴の顔を覗き込んでいる。

「あ…おはようございます」

 目尻を伝う涙に気が付いて、慌てて手の甲で瞼を擦る。

「泣きながら眠っていたのかい?」

「…少し、昔の夢を見たんです」

 多分、あの夢を見たのは、直前に『デミアン』読んだからだろう。

 黒田の部屋の本棚から拝借した、一冊の本、『デミアン』。ヘルマン・ヘッセの前期代表作の一つだ。

 ラテン語学校に通う主人公は、不良少年に睨まれまいとして心にもない嘘を言ったことで、不幸な事件を招いてしまう。それを、ある日現れた不思議な少年、マックス・デミアンによって救われる。しかし、彼は、主人公の家族がいる世界とは違う、どこか暗い、深淵な世界の住人だった。彼と親交を深めるうち、自分が明るい世界の住人ではなく、無意識下に彼らの魂の故郷である暗い世界へ憧れていたことを知り、二つの世界で揺れ動きながら自分の魂の居場所を探求する、という物語だ。

 うっすらと脳裏に浮かぶ、あの長髪の少年は、やはり、黒田の幼いころのように感じた。それが深淵の導き手であるマックス・デミアンと重なって、自分の夢に現れたのだと、綴は考えた。

 雨の音がする。染み入る音が心地よい。

 ソファーに置きっぱなしにしていた文庫本を手に取り、黒田に手渡す。

 まだ、現実の音が遠く聴こえる。その中で、黒田の声だけが、同じ夢の中にいるようにはっきりと聞こえた。

「夢、か。…って言ったら驚くかい」

「いえ、絶対そう言うだろうなって思ってました。というか、本当に夢の中に黒田さんがいたんですよ」

「へぇ、それは本当かい?君の見た夢について、是非詳しく聞かせてくれ。ができそうだ」

 どちらも作中に出てくる台詞だ。

 黒田につられて、綴は声を潜めてくすくすと笑った。

 もし、この会話を、『デミアン』を読んだことがない誰かが聞いたとしたら、意味が分からないだろうな、と思う。

 なんだか、共犯者同士の秘密の暗号みたいだ。

 読書後特有の、ふわふわとした倦怠感を味わいながら、ぼんやりと、見慣れた黒田の部屋を見回す。

 時間が、巻き戻ったみたいだ。

 黒田の部屋に招かれたのはこれで何度目になるだろう。あまりに頻繁に邪魔するものだから、途中で数えることなど忘れてしまった。

 最初の数回のことははっきりと覚えている。

 一度目は、あの自殺未遂をした日。

 二度目は夏の帰省前、仕事終わりに蜂蜜酒を飲み交わした日。

 そして三度目は、実家から逃げ帰った日。特にこの日については、一生涯忘れることはないだろうと思う。

 あの、半狂乱になりながら、黒田のもとへ逃げ帰った日だ。


 泣いて、泣き疲れて眠って、泣いて、また眠る。それを何度も繰り返し、結局きちんと目を覚ましたのは、その日の真夜中だった。

 泣き過ぎて、涙はやがて出なくなった。それでも尚鼻水だけは流れ出てきて止まらなかった。ずびずび言いながら、繰り返し鼻をかむ。

 リビングのソファーの上で膝を抱えたまま、腫れた瞼に、彼が作ったという傷薬と氷を当てた。

 そうしていると、次第に感情は落ち着いてきた。二度も彼の前で手放しに号泣してしまったせいか、すっかり緊張は解けてしまった。

 とはいえ、冷静になればなるほど、気まずい。

 一体どれほど情けない顔をしていただろうか。論理性もなければ生産性も無い、身勝手な主観を、彼にぶちまけてしまった。そして何より、黒田が自分の瞼に口づけた感触を思い出せば、余計に気まずい。

 会話の切り口が見つからない。かと言って、押し黙っているのは申し訳ない。

 そうやって一人堂々巡りをしていると、冷たいハーブティーと蜂蜜を用意しながら、黒田が口を開いた。

「こういうときは本を読むといい」

「本…ですか」

 顔を上げ、隣に腰掛けた黒田の目を見る。

「本を読めば、幸せになれるんですか」

 くすっ。

 少し可笑しそうに黒田が笑う。

「…”なんのためにぼくらは本を読むのか?君が言うように幸福になるためか?やれやれ、本なんか無くたってぼくらは同じように幸福でいられるだろう”」

 そこで一度ソファーから立ち上がると、演説でもするみたいに両手を広げた。

「”いいかい、必要な本とは、この上なく苦しく辛い不幸のように、自分よりも愛していた人の死のように、すべての人から引き離されて森に追放されたときのように、自殺のように、ぼくらに作用する本のことだ。本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない”」

 そして、ワルツのステップのような、優雅な足取りで本棚の前まで来る。白く長い指が、沢山の本の中から迷いなく一冊の文庫本を取り出した。

「俺の趣味だけど、これをどうかな」

 文庫本が目の前に差し出された。タイトルを目で追う。

「『車輪の下』…ですか」

「よければ読んでみてほしい。君にぴったりくると思うんだ」

 綴は、億単位の値がつく骨董品でも触るみたいに、その本を恐る恐る受け取る。柔らかい、なめらかな紙の感触が手に伝わる。幾度も読み込まれているのか、少しページがよれて、開き癖がついていた。

「…ありがとうございます」

 どうせ、他にすることもない。暇を潰す程度のつもりで、綴は本のページを開いた。

『車輪の下』を読み進めてしばらくしたとき、あることに気がついた。その瞬間、脳天から雷を落とされたように全身が戦慄わなないた。

 

 確か、学校の国語の授業で、教科書に抜粋されていた一部分だけを読んだのだ。そのとき、僕はその内容に感動して、授業中にも関わらず涙を流してさえいた。

 ところが、輪読が終わった直後、一部の生徒が大笑いしだしたのだ。「意味が分からない」だとか、「頭がおかしい」だとか、登場人物を「甘ったれた構ってちゃん」だとか─とにかく、物語も登場人物も、著者までもがぐちゃぐちゃに踏みにじられ、吊るし上げられ、石を投げられた。

 それは、友人から別な自分の友人の悪口を聞いてしまった時のように、居心地が悪かった。

 その日の気分はまったく憂鬱だった。あまりに暗い表情をしていたのか、母がその理由をしきりに気にし、私にも理解できるように説明しろと食い下がった。

 まだ自分の気持ちに整理がついていなかった。上手く言語化できないながら、学校で起きたことを説明した。

 すると、母はまるで腐った卵でも嗅がされたような表情をして、国語なんて殆ど役に立たないから他の勉強をしなさい、ほら、数学と体育の成績が良くない、と言った。

 あてが外れ、ますます沈み込んだ。

 藁にもすがる気持ちで父にそれを相談すると、その物語の内容については分からないから、とほとんど触れず、やっぱり母と同じように、お前は国語が良くできているが、他のもがんばりなさい、とだけ言った。

 そうか、僕は、学校の国語の教科書が好きだったんだっけ。物語を読むのも、作文を書くのも、好きだった。誰もそれを認めてはくれなかったけれど。それは尊いことだと、信じていた。

 どうして忘れていたのだろう。僕は、この物語が好きだったのだ。

 ページを捲る度に涙が止まらず、貪るように瑞々しい物語を味わった。

 読み終えた瞬間に、世界のすべてが変わってしまった。

 あまりの衝撃に、綴は放心した。

 黒田が預言者のように、あるいは魔法使いのようにそこに立っていた。

 今ならはっきりと断言できる。これは福音だった。黒田が、自分の眠っていた魂を呼び起こしたのだ。

 ずっと空虚だった自分の胸に、何かが確かに満たされていくのを感じた。そして、次第に、黒田への親しみと敬意が芽吹き始めたのを、綴は否定しなかった。それは、今まで黒田に対して感じていた親しみや敬意とはまったく別な種類の感情だった。

「それで、是非君の感想を聞きたいんだ」

 黒田は綴の隣に腰を下ろすと、そう尋ねた。

 綴はそっと片瞼に手をやった。なんと言うべきか少し迷って、目を閉じた。

「…まるで、自分のことを書かれているみたいでした。自分の気持ちを全て言葉にしてもらったみたいで。凄く面白かったです」

「それはよかったよ、

 綴を『車輪の下』の主人公の名前で呼びかけ、黒田が軽く綴の背を叩いた。

 ─そうか、だから僕のためにこの本を選んでくれたのか。

 本当に、この物語が自分のために書かれたのではないかと錯覚してしまう程に、心動かされる物語だった。

 内気で、どうしようもなく臆病で、ただ生きていくことが苦しくて仕方ない人が、この物語には確かにいた。親とも、先生とも、同級生とも、あらゆる人との関係が上手くいかず、努力だけで全てを補ってきた主人公の姿が、自分と重なって見えて仕方なかった。

「まったく、君は本当によく泣くね。見ていて飽きない」

「え?」

 頬を伝う、熱い感触。それが滴って、口に入ってきた。

「うわ…!そっ、その、なんていうか、本当にすみません…!」

「いいさ。そういう感情は味わえる時に存分に味わったほうがいい。それより、もう少し水分を取りなよ。脱水症を起こしてしまいそうだ」

 そう言ってハーブティーを注ぐ黒田は、綴の様子を見て心底楽しんでいるようだった。嫌がるような素振りは微塵もなかった。

 ─何故、この人は僕が泣いていると、こんなにも嬉しそうに笑うのだろう。

 注ぎ足されたハーブティーを一気に飲み干す。

 言いたいことが他にもたくさんあった。

「1つ、黒田さんの意見を伺いたいんですけど、いいですか」

「うん?」

「ハンス・ギーベンラートの最期は、自殺だったと思いますか。それとも事故だったと思いますか」

 黒田の指が、パチンッ、といい音を立てて鳴った。

「君からその問いを聞くのを待ってたんだ」

「え?」

 黒田の眸が、幼い子供みたいに輝いた。

「素晴らしいよ、アミーチェ。君はを知った。今こそ存分に議論しようじゃないか」

 黒田が立ち上がり、キッチンへと姿を消す。

 黒田は今までに見たことがないほど上機嫌だった。祝い事のつもりなのか、シャンパンを手に戻ってきた。

 ポンッ、と軽快な音を立ててコルクが抜かれる。

「それで、君はハンスの最期をどう思ったんだい?先に君の意見を聞かせてくれ」

 その命題については、随分白熱した議論になった。彼がこれほど情熱的になるのを見たことがなかった。いつもよりさらに大仰に手を動かし、舞台の上にいるように、熱を込めて話した。考察の内容は僕と彼で少し違うものだったが、それによって仲違いすることはなかった。むしろ、彼への親しみと敬意は増すばかりだった。

 そしてここに、はっきりと友情が現れるのを感じた。

 しかし、黒田を自分の友人と呼ぶことを、綴はまだ躊躇していた。

 不安だったのだ。彼ほど能力の高い、才色兼備の、異常に優れた人物と、自分のような人間とが釣り合うのか、甚だ疑問だった。彼ならば、自分でなくてもよい関係を築ける人がいくらでもいるだろう。

 綴は黒田との関わりを喜んでいたが、同時に、今までそうだったように、いつか黒田にも辟易される日が来るだろうと信じて疑わなかった。

 期待は失望だ。期待されたものに見合う結果が出なければ一瞬で失望に変わる。何百回と経験してきたことだ。『君は真面目でいいこだ』、『君ならできる』。そうやって意気揚々と自分を褒め、期待して近づいてきた人間が、次第に自分の期待通りにならないことに困惑し、残念がって離れていくのはよくあることだった。

 それでも尚、時折彼の視線が情熱的になっているのではないかという考えが頭を去らなかった。

 しかし、綴は黒田の真意を確かめる術を知らなかった。

 それに、人は関係に名前をつけると傲慢になる。そういう考えもあって、このままでいてもいいような気がしていた。


 ─それが、数週間前。

 それからというもの、時間は急速に過ぎていった。花屋での仕事終わりに黒田の部屋に立ち寄って、本を借りては読み漁った。

 そのうちに、彼の内面を理解し始めたような気がした。彼の持っている本は、どれも美しく、悲しい話ばかりだった。

 再び、黒田の部屋を見渡す。まだ雨がしとしとと降り続けている。微睡みは覚めていた。綴はソファーから腰を上げた。

 今までは気が付かなかったが、彼の部屋は案外粗雑だった。読みかけの本や飲みかけの酒のボトルなんかが、あちこちに放置されていた。

 だが、不思議と嫌な思いはしなかった。正直に言ってしまえば、安心した。完璧に見える彼にすら、そういう部分があるのだと。

 晩酌用の、いくつかの酒とつまみを選ぶために、黒田と共にキッチンに入る。いつもそうするように、セラーから各々好きな酒を取り出す。そして勝手に食べたい肴を用意する。

 当然、棚の中もあまり整理整頓されているわけではないので、綴は目当てのものを探すのに時間がかかった。対して黒田は自分の部屋だからか、何がどこにあるのかは流石に分かっているらしかった。

 キッチンの棚にはハーブを使った調味料や、果物や花のジャムやシロップ、そして単純に食用としての蜂蜜が所せましと並んでいる。セラーには数々の蜂蜜酒や果実酒を筆頭に、シャンパンやワイン、ウイスキー、日本酒、ありとあらゆるスピリッツまでもが保管してあった。

 黒田の部屋にあるものは、どれも好奇心を擽られるものばかりだった。

「これ、何ですか?」

 綴は気になるボトルを指さし、黒田に尋ねた。

山葡萄ヤマブドウのジュースだよ。味見してみるかい?」

「山葡萄って物凄く貴重なものじゃないですか…!いいんですか」

「もちろん」

 黒田が二人分のテイスティンググラスに、ジュースを注ぐ。黒に近い、濃い赤紫色だ。舐めてみると、舌にしゅわしゅわとした刺激を感じた。発泡酒に似た美味さだ。僅かに甘く、重厚な、鉄分を含んだ味がする。

「……しまった、放置しすぎたな。全然甘くない。これじゃあ自家製ランブルスコだ」

 綴が感想を述べる前に、黒田がそう言った。

「もしかして発酵したから、お酒になっちゃった、と…酒税法違反ですね」

「いやそれは違うよ、綴。俺の感覚だとこれは度数5パーセントもない。度数5パーセント以下はジュースだ。ジュースはアルコール度数が0パーセント。つまりこれは酒ではない」

「三段論法が泣きますよ」

 そうやって笑いながら他愛もない会話をした。

 目当てのものを物色し終えて、リビングへと運ぶ。そしてソファに腰掛け、酒を片手に、言葉について、詩について語り合う。

 それは信じられないほど長く続いて、日付を超え、彼の部屋に泊まり込むこともざらだった。

 今日もまた、晩酌の準備を整えて、好きな言葉の表現だとか解釈だとか、考察なんかを語り合った。先程見た夢の話も交えて、彼が自分にとってのデミアンに見えた、と言うと、黒田はふふ、と不敵に笑った。

 話は『デミアン』の考察から、言葉についての議論へと移り変わっていった。

 綴が、心に纏わる主題と論理性の両立は難しいと思う、と言うと、黒田は大きく頷いて同意した。

 あれだけ論理的に言葉を話しながら、そのくせ論理を黒田は軽蔑しているらしかった。

 ウイスキーを舐めながら、黒田の意見に耳を傾ける。

「なんというか、意外ですね」

「そうかい?…確かにロジックは大事だとも。だが心の内を描き出すとき、それは観念であってはならない。それは気持ちに名前をつけて細切れにしているだけだ。分類は切断だ。それじゃ、大事なものを全部こそぎ落としてしまう。本来感情に名前なんてないんだから。言葉を扱う…特に文章で表現する、というのはとても難しいことだよ。それは言葉ににならないものを絵や歌にするように、試みなんだ」

 こういう時、彼は言葉を慎重に選び、そして少し早口で、熱を込めて話した。

「文芸こそ最も難しい芸術だ、と俺は思う。言葉とは魔術の一種だ。学ばずに使えば身の丈に合わない結果をもたらす恐ろしいものだ。だからもし、文章で自分の心の内を的確に表現でき、美しいものを描き出せる人間がいるとしたら、それは紛れもなく偉大な芸術家だよ。詩人、いや、と言ってもいい」

 ふと、黒田が綴の瞳をじっと見つめ、真剣になる。

「そういう意味では、君にもその素質があると俺は思う。君の遺言書はなかなか素敵だったからね。今でも時々読ませてもらっているよ」

 はっとして、自分の顔に熱が昇る。

 確かに、黒田と最初に出逢った日、綴は遺言書を書いた。そこに書いた内容はなんとなく覚えている。あの赤裸々すぎる内容を思い出して、恥ずかしさのあまり毛布に包まりたくなった。

 死ぬつもりであの文章を書いたのに、よもや死に損なった上に、他人に遺言書を繰り返し読まれるだなんて誰が想像するだろう。

「あれ、まだとってあるんですか!捨ててくれても、というか捨てておいてくれませんか…!」

「丁重にお断りさせて頂こう。それに俺は君との契約でやるべきことを果たせていないからね。君たちの分野では債務不履行って言うんだっけ。契約書を取っておくことは君にとっても大事だろう?」

「そういえば、黒田さんってどうしてそんなに法律系の知識にまで詳しいんですか…」

「いざとなったときの保険さ。悪い人だからね」

 にや、と黒田の口角が吊り上がる。

 悪い人ほど法律に詳しいものだとゼミの先生が言っていたが、まさかこんなところでそれが実証されてしまうとは。黒田なら警察に捕まってもロジックと知識で言いくるめたりしそうだ。

 黒田の顔が、いつもの微笑に戻った。

「君が書いた文章をまた読みたいな」

 ぽつりと、黒田が呟いた。

「僕の文章なんて、大したものじゃないですよ。そんな何度もお見せするものでは─いてっ」

 黒田が綴の頭を軽く小突いた。

「まったく、妬けるね。君は物語や詩をもっとたくさん読むといい。そうしたら、自ずと何か書きたくなる時が来るだろう」

 再び、『デミアン』を読んでから見た夢を思い出した。

 よくよく考えてみれば、確かに僕は図書室へも頻繁に通い、本を読んでいた。自分でノートに詩や物語を書いてもいた。何故、そんな大切な思い出を忘れていたのか、不思議だった。

「…どうして、僕が文字の人間だとわかったんですか。僕ですら自分がそうだと知らなかったのに」

 綴はロックグラスを揺らしながら、静かに黒田に問いかけた。薄氷にも似た硝子に、一年前とは変わり果てた自分の姿が映っていた。

「君と出逢ってすぐに分かったよ。正確には君の遺言書を読んだ時だね」

 黒田が手元のタンブラーに新しく酒を注いでステアする。音も無くかき混ぜられて、二種類の液体が境目を失っていく。

「人間は読んだことのある文章しか書けない。君は自覚がないかもしれないが、君の描き出した言葉は殆ど詩だったよ。多少、ロジックに寄っている面はあったにしろ、物語を全く読まない人間にあの文章は書けない。君が過去に文学を好んだ人間であるはずだと踏んでいた。それが何らかの理由で─それもおおよそ見当はついていたが─押し殺されているんだと思ったんだ。だから、ずっと前から君の記憶を呼び起こそうと、俺は何度も試していたんだよ」

 綴は、黒田の本棚に目をやった。

 彼の本棚から、少しずつ物語の世界に足を踏み入れた。

『車輪の下』、『少年の日の思い出』、『春の嵐』、『檸檬』、『星の王子様』。確かに、黒田の口から、聞いたことのある台詞がたくさんあった。そのどれもが心の琴線に触れるものばかりだった。

「まさか、君が『車輪の下』を読んだことがあって、あれが好きだったというのは予想外だったけれどね」

「…そうだったんですか」

 それにしたってまるで未来予知だ。マックス・デミアンの言葉を借りるならば、これが読心術というものなのだろうが、いざ自分がその術の実験台になると、ある種の畏怖を感じてしまう。

「黒田さんは一体どこまで知っているんですか。どうして、いつも僕のことを全部わかっているようなことを言うんですか」

「ゴルトムントみたいなことを言うね。…俺は君のことについて、君の過去について、君が教えてくれた以上のことは何も知らない。想像することができるというだけさ」

 黒田が手にしたタンブラーを、綴のグラスへ軽くぶつけた。

「誇るといい。君の魂の故郷は、言葉であり、詩であり、文学であり、物語の中にある。それはとても厳しく困難だが美しい世界だ」

「今は、黒田さんが何を言おうとしているのか、ちゃんと理解できる気がします」

 再び、読み漁った本棚を眺める。自分が読んだのはその内、まだほんの一部だ。

「どれも美しいものばかりでした。こんなにも優れた本に関わることを、また、文章を書くことを、なぜ僕は止められたのでしょう」

「ずっと疑問だった?」

「はい。ずっと、不思議でした。両親が、いや、両親だけでなく、同級生とか、先生とか、今までに出会った人はみな言葉や物語を、不可解なものとして遠ざけているような印象を受けるんです。例えば、学校で五教科って呼ばれる科目群があるじゃないですか」

「国語、数学、理科、社会、英語を纏めてをそう呼ぶんだっけ。俺は学校に通ったことがないから詳しいことは知らないけれど」

「はい。その中でも国語って必要性が低いというか、どこか軽んじられている気がして…いや、僕も言葉を軽んじているかもしれないし…というか言葉について真剣に向き合い始めたのもつい最近のことなので、あまり偉そうなことは言えないんですけど…」

 言いたいことが、しどろもどろになって、なかなか形にならない。話し伝えることは難しい。

 しかし、黒田は急かす様子もなく、蜂蜜がけのチーズを齧りながら、綴の話に耳を傾けていた。

「昔、小学生のころ、確かに僕は将来の夢として文字を書く人間になりたいと思ったことがありました。よくある将来の夢について書く作文で…その当時は意味をちゃんと理解しきれなくて、『文豪になりたい』とか書いて大人にげらげら笑われたんですけど」

「嫌なもんだね」

「本当に…とにかく、今思い出してみたら実際に物語や詩を書いてもいたんです。それは今僕の手元には残っていないんですが…。でも、将来の夢を尋ねられて、小説家と答えることも、作文を得意とすることも、同級生の間では無意味でした。両親でさえ、それを褒めることはおろか、認めてくれたこともありませんでした」

 黒田は嘆かわしいね、と言って肩をすくめた。

 ここまで口に出してみて、初めて自分がどれだけ尊いものを引き剥がされたかを自覚し始めた。次第に、それは疑問、猜疑心に、憤りにも似た感情になった。

 手を握り込む。

 黒田が組んでいた足を解く。

「ビジネスとして云々、というのももちろんあるだろうが、それは君が再三言われているだろうから、わざわざ俺はそれに言及しないことにしよう。それよりももっと原始的な理由がある」

 黒田が指についた蜂蜜を舐めた。

「芸術とは魂の叫びだ。これは、”したいか””したくないか”という次元の問いではなく、もっと深い、”そうしなければならない”という使命感であり、また”そうせずにはいられない”という悲鳴や慟哭に近い。『月と六ペンス』のストリックランドの台詞なんかはこれをよく表していると思う。彼はこう言った─"おれは、描かなくてはいけない、といっているんだ。描かずにはいられないんだ。川に落ちれば、泳ぎのうまい下手は関係ない。岸に上がるか溺れるか、ふたつにひとつだ"、と。実に悲痛な台詞だ」

 黒田が引用元の本をちらりとも見ずに、すらすらとそう言ってのける。

「もう一つ、ヘッセの『春の嵐』からも引用しよう。"芸術家というものは、俗人が考えるように、単に感情の横溢おういつからときおり芸術品をほうり出す快活な紳士ではなくて、残念ながら、たいてい無用な富のために窒息しそうになるので、なにかを吐き出さなければいられない哀れむべき人間なのだ"。美しい物を創り出そうと思う人間は、大体この通りなんだ。全ての芸術はこういう、悲しい衝動から生まれる。これは孤独や人間全体に対する悲しみを感じたことがない人間には想像し難いことなんだろう。…どうしたんだい、そんなにぼうっとして」

「あ、いえ、つまらないとかじゃなくて…!その…人の朗読を聞くのもいいなと思って。聞き入ってしまったというか」

 本心だった。自分で黙読するのとは違う良さがある。黒田の表情が、声が、台詞とぴったり合っていたからかもしれない。思わず呆けてしまった。

「それは光栄だ。お礼に毎晩ベッドで読み聞かせてあげようか」

「いや、それはちょっと…」

「冗談だよ。けど君のそういうところ、嫌いじゃないよ」

 わざとらしく肩を竦め、黒田が笑う。

「…美しいものは決まって恐ろしいものだ。美しさとは恐ろしさなんだ。しかしそれが分からないとなると、問題が起きやすい。人は未知を恐れる。例えばドイツには、『本を焼く者は人間をも焼く』っていう言葉があるんだが、知っているかい」

「確かヒトラーの政治への皮肉としてよく使われる言葉ですよね。当時のドイツは焚書が多かったって聞いたことがあります」

「流石だね。…その言葉は俺も大いに支持するところなんだ。本というのは想像力を鍛えてくれる。読書とはなんじゃないかと思うんだ」

 ちら、とリビングの隅で眠っているマダムを見る。

 視線が黒田とぶつかる。再び黒田が口を開く。

「別に本を読まなくたって、想像力を養う方法は他にもたくさんある。しかしそういう、自分の想像を越えたものについて思考する機会がないまま成長していく人も多い。するとどうなるか。自分の想像を越えるものを許容できなくなるんだ。しつこいようだが、人は理解できないものに対して恐怖する。だから、そういう人間が親になったとき、子どもを制御しようとする。未知だからだ。未知な恐ろしいものを、自分の手のうちで飼い慣らせる、子どもに仕立てようと躍起になる」

「どこかで『可愛い』という感情は対象を見下すことでもある、という分析を読んだことがある気がします。黒田さんが言う定義だと、『美しさ』とはその逆を意味するように感じますね」

 ふと、気の強い、金髪の少女の姿が眼裏に浮かぶ。

「…そういえば、煌ちゃんが、可愛いと言われた時に激怒していました。それは人を見下している行為だと、言ってました」

「まさに俺が言いたいのはそういうことなんだ。例えば同じ綺麗なものでも、その視線のベクトルによって『可愛い』と『美しい』という言葉を明確に分けることができると思う。彼女はこうも言っていなかったかい。人は自分に逆らわないものに対して『可愛い』、と言うのだと。もちろん、必ずしもそういうニュアンスだとは限らない。しかし、悪意が無くとも、この言葉にはそういう側面が確かにある」

 黒田が右手を問いかけるように開いて見せた。

「ある子どもを『可愛い』と言った時、それは果たして見た目が綺麗だからという意味だけだろうか?内面が無垢だから、『綺麗』だという意味だけだろうか?可愛さ、可愛げ、愛嬌とは一体なんだろう。それは御しやすいという意味でもあるんじゃないだろうか」

 黒田が少し遠くを見つめる。

「言葉で人は殺せる。人の魂を刈り取り、生きる支柱を潰すことなんか朝飯前だ。特に相手が子供の場合には、教育という正義の衣を纏えば、どんなに惨い支配も正当化できてしまう。きっかけがなければ、自分の魂を殺されたことに気が付かないまま、肉体だけが抜け殻みたいに生きていくしかない。俺はそういうふうになってしまった人を幾度も見たことがあるよ」

 ずしりと胃の底に重りを入れたみたいだった。

「少し、ぞっとしました」

 本当に、身震いした。悪寒がする。

 同時に、黒田の分析を聞いて、少しだけ納得した。そうか。両親は、言葉が紡ぎ出す美しさを理解できないのか。分からないから、不気味だから、あんなにも必死になって僕から本を取り上げようとした。両親だけじゃない。どこか、人に軽んじられている気がしていた。

 それに気が付いた瞬間、とてつもなく悲しくなった。そういう、価値観の全く異なる人たちと、共有できるものはあるのだろうか。いつか、両親と、本気で向かい合って、今度こそ逃げずに話をしてみたいと思った。こんなにも美しい言の葉たちが、あんな風に軽んじられていいはずがなかった。

 顔を上げる。黒田と目を合わせた。

 彼も、言葉によって、傷つけられたことがあるのだろうか。誰しもそういうことはあると思う。けれど、黒田はそんな様子を見せたことがなかった。

 黒田は常に微笑を浮かべていて、人当たりもよく、大抵のことは笑って受け流す。

 しかし、同時に、彼の話の調子にはどこか冷たい、皮肉っぽいところがあるような気がしていた。今日もそうだった。黒田のことを優しいとは思う。だが、花の毒と棘を愛で、悲劇を愛しているという彼の微笑が、博愛主義からくるものだとは到底思えなかった。

 黒田に近づけば近づくほど、わからない。一体彼は、何を思って自殺幇助を行っているのだろう。分からないけれど、だからこそ知りたいと思うようになっていた。

 ふと、脳裏にひらめくものがあった。

「黒田さんは、自分で物語や詩を書いたりするんですか?」

 黒田が目を見開く。そして少し愉快そうに笑った。

「しないよ。まとまった長い文章を書くのはむしろ苦手なんだ」

「そんなに文語体で喋っているのに、ですか?」

 今度は声を上げて、黒田が笑った。

「俺の言葉は断片なんだよ。パズルのピースをたくさん持っているに過ぎない。それを繋いで、言葉は初めて文章になり、詩になり、物語になって流れていく」

 指揮者のように、黒田の指が滑らかに波打たせた。そして、きっと君はまだ間に合う、と小さく呟いた。

「え?」

「…詩でも、物語でも、なんでもいい。君の心を、魂を、涙を、慟哭を、言葉に代えるんだ。叶うことなら、それを俺にも見せてくれないか」

 しばらく、じっと見つめあっていた。目は魂の窓だと黒田は頻繁に口にした。こうしていると、度々彼の魂の形に触れるような気がする。

 彼の瞳は相変わらず不可思議だ。その深い深い青紫色が、なにか大切なことを隠しているような気がする。吸い込まれそうだ。その深淵から、電流が伝わるみたいに、ほんの少しだけ、体に痺れが走ったような気がした。

 指先が疼く。

「紙とペン、お借りしてもいいですか」

 綴は目線を自分の手に落とした。

 指先を軽く動かしてみる。

「今、少しだけ思い付いたことがあって…書いてみたくなったんです」

「もちろん」

 黒田が微笑んだ。そしてすばやく紙とペンを用意した。

 手渡されたものに触れる。ぱっと見ただけでも、彼の物に対する拘りが伺えた。

 紙は柔らかくしなやかで、指先で撫でただけでもそれが非常に上質な紙であることが分かった。

 一方、ペンの方は変わった形をしていた。構造は一般的な万年筆と似ているが、全て硝子で形作られていた。持ち手からペン先に至るまで、全てが透明だ。

 後に聞いたが、ガラスペンというものらしい。

 透明な、捩れた飴細工のような造形はとてつもなく緻密で、溜息が出る程美しい。もはや芸術品と呼んでも差し支えなかった。目的を忘れて見惚れそうになる。

 教えてもらった通りに、一緒に用意されたインク壺にペン先を浸す。

 一点の曇りもなく澄んだガラスの螺旋の上を、艶々とした黒いインクが上っていった。

「ちゃんと書けますかね…?もうずっと論文形式の文章かレポートしか書いていないんですが…」

 黒田がゆっくりと頭を振る。そして、ペンを握った綴の手を、一緒に掌で包み込んだ。ふっと息が耳元に触れる。

「ただのではなく想いをんだよ。君の名前の通りに、さ」

 俺はこっちで本を読んでいるよ。出来上がったら是非見せてくれ。

 そう言って黒田はダイニングにある椅子に座った。

 手の甲に黒田の体温が残っている。

 綴る。

 ただ文字を書くのではなく、想いを綴る。

 自分の名前の意味。そういえば、きちんと向き合ったことがなかった。一度、学校の課題か何かで、両親に名前の由来を聞いただけだ。知り合いの娘が『綴』という珍しい名前だったから、それに憧れて、真似してつけたのだと母は得意げに言っていた。

 呼びにくいと言われたことが幾度もあったこの名前。『つづり』、というその発音しづらい音のせいか、『深谷』と呼ばれることが圧倒的に多かった。別にそれを気にしてはいなかった。

 というより、人を下の名前で呼ぶのは、中々気恥ずかしいものだ。学校でもお互いに名字で呼び合うことが殆どだ。だから、気にもとめていなかった。

 思い返してみれば、綴のことを綴と呼ぶのは、肉親を除いては黒田と煌だけだった。

 不思議な気分だ。ちら、と黒田の方を見ると、本を片手にすっかりくつろいでいた。

 ペンを握る。

 思い出すのは、やはり黒田と出会った日のことだ。

 綴は快い緊張に震える手で、そっとペンを走らせた。


****************

※注─『Lupinus』

ルピナス。昇り藤。『生きる喜び』『若返り』のシンボル。花言葉は「想像力」、「いつも幸せ」等。

属名は「lupus(狼)」に由来する。荒れた地でも育つ逞しさを狼に喩えたため。ルピナスの花を食べると想像力が高まると言われている。


【参考文献】

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ著・高橋健二訳

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ著・高橋健二訳

『月と六ペンス』サマセット・モーム著・金原瑞人訳

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