最高の理解者
氏姫漆莵
第1話 甘美な夜
起きた?ぐっすりだったね。
ああ。ごめんね。でも、その拘束を解く気はないから。
だからそんなにかちゃかちゃしても無駄だよ。
僕はね、知っているんだ。
君がこんな風にして連れ去られたい願望があったことを。
そこに誰かが現れて、救ってくれる。
そんな、夢物語に想いを馳せていたことを。
私は知っているんだ。
ああ。何で"僕"と言ったり、"私"と言ったりするんだって?
僕は"僕"であり、私は"私"なんだ。
そして、
僕は"私"であり、私は"僕"なんだ。
僕が男性か女性かがそんなに重要かい?
それよりも君が今、どうしてこんな状態なのかの方が重要じゃ無いのかい?
……どうして、どうして何も喋らない。
私が、こんなに話しかけているというのに。
何で!何で何も喋らない!!
ああ。そっか。
僕が、君を縛り付けて口も塞(ふさ)いでいるんだ。
忘れていたよ。
ふふっ。ごめんね?
ああ!!良い!!
凄く良いよ!
その表情!その目!
取ってしまいたい。
取って口に入れてしまいたい。
舐めて、味わってしまいたい。
私を蔑(さげす)む目。
僕に媚(こ)びない目。
本当は怖いくせに。それを一切出さずに私を見る。
良いよ。もっと、もっと僕を見て!
くふっ。君は強い。だから良い。
でも、私は君が恐怖を感じる瞬間を見たい!
逃げ出してしまいたいくらいの恐怖を感じている瞬間を!
恐怖に顔を歪ませ、涙も涎も垂れ流してぐちゃぐちゃになる瞬間を!
僕は見たい。
君が私に屈服する瞬間を。
誇り高い君が、誇りを捨て僕に取りすがる瞬間を。
ああ。君も見たいだろう?人に屈服した時、世界がどう変わるのか。
感じたいだろう?屈服した時の気持ちを。
だから、甘美な夜を、一緒に過ごしてくれるよね?
え?駄目だよ。今更首を振っても。遅いよ。
もっと早くに言ってくれなきゃ。
え?何時だって?
いい質問だね。
これはね、もう決定事項なんだ!!
だから、計画してた時に言ってくれなきゃ。
いつから計画していたか?
それは君と出会ったとき。
そう!あの時だよ!
え?まさか覚えてない、とか言わないよね?
知らない、記憶にない、とか言わないよね?
だってあんなに運命的な出逢いだったもの!
そんな事ないよね!
今でも鮮明に思い出すよ!
夢にまで見るよ!
君だってそうだろ?
あんな事、生きていたってそうそうあることないよ!
あの日、あの場所で私達は出逢った。
あの日、あの場所で僕達は結ばれた!
私達は運命の三女神によって引き合わせられ、あの駅のホームで視線を交わしたんだ!
すれ違ったんだ!
運命を感じたんだ!
ね?こんなこと生きていたって在(あ)るか無いかってとこだろ?
えへへ。ね?だから僕と一緒に、甘美な夜を過ごそう?
君は、私の事。
理解してくれるよね?
今までのあそこにぶら下がっている”モノ”達と違って。
ねえ、僕は狂っていると思うかい?
ああ、答えないんだね。
わかっている。
知っている。
私はおかしいんだ。
でも、永遠にそのままの姿に留めておきたかったんだ!
永遠の美しさを。永遠の愛を。そのままに。
僕は悪くない!これは、私なりの愛情表現なんだよ。
君はこんな僕を受け入れてくれるよね?
受け入れてくれないって言うなら、私は君を
赦(ゆる)さない!
受け入れてくれるよね?
僕は君をあそこにある"モノ"にしたくないよ。
ね?
白馬の王子ではなく、私を、僕を、受け入れて。
永遠に私は君を満足させてみせるよ。
良いだろ?想像しただけで身悶えるだろ?
永遠に僕は君を愛するよ!
ん?何だい?泣いているの?
ああ、嬉しいんだね!!
逆上(のぼ)せるような愛が!
ねだってくれるの?私に愛して欲しいと。
結ばれるんだね!やっと!
理性が吹っ飛びそうだ!
ああ!!嗚呼!!ああ!!僕と!!
甘美な夜を過ごそう?
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