第67話 父としては
話が終わると、天と
ただ、手は離していない。天は、しっかりと手を繋いで離すつもりもない。
歩調は
ただ、いつもより時間がかかっても、目的地には着いてしまう。名残惜しいと思いながら、天は繋いでいた手をほどいた。
「話を聞いてくださって、ありがとうございました」
「……うん。あまり気の利いたことを言えなくて、ごめん」
「そんなことはないですよ」
まだ涙の引かぬ目で、
「話をすると、やはりスッキリとするものなんですね。一人で抱えていた時よりも、気分が楽になりました」
「それなら、よかった」
「でも、天さんは後悔していませんか? こんな、面倒な話を聞かされて」
すぐに、首を横に振る。
「面倒とか、そんなの感じないよ。むしろ、
「……やっぱり天さんは大バカヤローです」
「またそれ? 酷いなあ」
二人で笑い合う。
「もっとお話をしたいですけど、今日は、ここで」
「うん。また明日、だね」
「はい。ですが、その前に」
「ん?」
天が、どうしたの、と言う前に、
しっかりと腰に手を回され、全体重を預けるかのように。天は戸惑いつつも、きちんと抱き返し、
「
「どうでしょう? 誰にでもやるわけではありませんし」
「それはそうだろうけど」
頬をかきながら、恥ずかしさに耐える。今が夜で良かった。道行く人々に見られていたら、恥ずかしさのあまり倒れていただろう。
「あー、ゴホンゴホン」
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
後ろから聞こえてきた咳払いに驚いて、飛び退いた。
「お、お父さん?」
「あー、おかえり、
「こ、こんばんは……」
「その、なんだ。一応、私も
「す、すみません!」
あちらもあちらで、気まずそうだった。
「いや、うん。確かに双方合意の上ならばとは言ったがね?」
「お、お父さん。その、天さんとはまだ、正式なお付き合いは……」
「む? それは聞き捨てならないな。星野君、私はてっきりもう娘と婚約するものかと……」
「ええっ!?」
まあ確かに、娘さんと抱き合っていれば父親としては複雑だろうが。しかも、まだ恋人関係というわけでもない。
どう答えたものか迷っていると、
「まあ、まだ若い二人だ。色々と事情はあるんだろう。ただ、親としては
「は、はいっ、その通りだと思います!」
「うん、君はやはり好青年だ。できれば夕食でも、と言いたいが、大怪我をしたんだったね。体は大丈夫かい?」
「はいっ、おかげさまで。お見舞いにも来てもらいましたし」
「そうかそうか。また
「よ、喜んで!」
美智留の父は、穏やかに言う。
「
「はい。色々とお話することができました」
「そうか」
深く頷いて、
「星野君、帰り道は気を付けてね」
「ありがとうございますっ」
「はははっ、固くなりすぎだぞ」
ポンと肩を叩かれても、天は緊張したまま動けなかった。
「そ、それじゃ、俺はこれで」
「ああ、ありがとう、星野君」
「天さん、また明日」
親子に見送られて、天は星空の下を歩き出した。
後ろからは、明るい親子の会話が聞こえる。
それに言いようのない安心を感じながら、天は歩を緩めつつ、ゆっくりと立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます