第66話 わけ
「私は、養子なんです」
ぼつぼつと、
「小さい頃に、両親を亡くしたらしくて。今の父は、本当の父の友人だそうです」
天は何も言わず、黙って聞く。
「姉妹もいたとか。私は妹で、姉が一人。どんな仲だったのかは分かりませんけど、とにかく私には本当の両親がいたそうです」
「全部、自分で調べました。父にも言わず。なんとなく、父は私に遠慮していました。それが不思議だったんです」
「……」
「天さんに出会ったのは、全てを知った時でした。本当の両親はもう亡く、姉妹でさえ私を置いていった。それが、無性に悲しかったんです」
「……」
「父には、天さんを家にお連れした日の晩に、全てを話しました。父は、ただただ申し訳なさそうでした」
言われて、天は少し茶目っ気のある
「我ながら、バカだったと思っています。父は、義理とはいえ、私をきちんと、優しく育ててくれました。なのに、その恩に背くようなことをして……」
「結果的に、私は死にませんでした。天さんのおかげで、死ねませんでした。でも、あの時はどうしようもなくて」
「そう、だったんだ」
「はい。……それに、今の父にも、とても申し訳なくて。私のせいで、父は自分の人生を我慢しているのではないかと思って」
「……我慢?」
「父も、恋愛とか、結婚とか、人生を自分なりに過ごせたはずなのに。……私がいなければ」
「それは……」
違う、と言いたかった。しかし、天には無責任な答えはできない。
以前、話をした
しかし、
「私は、あの時に死ぬべきだったんです。それで、全部解決したはずなんです。私がいなければ、天さんだって、あんな大怪我をしなくて済んだはずです」
悲しそうに微笑む
「俺は、
「でも……」
「
「それは……はい」
「でも、今は、俺のうぬぼれかもしれないけど、一緒に話して楽しいと思ってくれてる。映画に行った時も、真波ちゃんと出かけた時も。それに……」
と、続けるのは、ベッドの上で泣いていた
「どうでもいい奴のために、泣いてくれる人なんていないよね? 寝ないで、心配してくれてさ」
微笑みながら流された涙は、とても暖かかった。
「
「天さんだって、私の命の恩人です。……それだけかもしれませんよ?」
「意地悪なこと言うなあ」
苦笑し、天はまた思いだす。
「だって、
落ち込むくらい、天にとっては日常茶飯事だったというのに。ただ事件を聞いたから、スマホに返事がなかったからと、普通は駆け付けてくれるものだろうか。
それに、天は
笑みを向けると、
それをハンカチでそっと拭いつつ、天は
「俺にとって、
「また、飛び込むと思いましたか?」
「……正直に言えばね。でも、
「……分かりません」
「そこは否定してよ……」
でも、と
「今のこの気持ちが続くなら、大丈夫だと思います」
「この、って?」
「言わせるんですか? 天さんも意地悪です」
「言ってくれたら、きっと
「やっぱり意地悪です」
「大切な人が隣にいてくれるなら、私はこれからも、前を向いていけると思います」
その言葉を聞いて、天はそっと
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