第64話 明るく、前向きに
日曜日をのんびりと過ごしたからか、体調はさらに良くなってきた。
学校へ向かう足取りも軽い。校門前で待つ二人にも、
「おはようございます。調子が良さそうですね、天さん」
「おはようございます。元気そうでなによりっす」
笑顔で迎えられて、天も頬を緩める。
「おはよう、二人共。一昨日はありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「楽しかったっすよ!」
嬉しい返事に元気を貰って、教室へ向かった。
天が入ると、まだ周囲からは視線が飛んでくる。しかし、それももう不快とは思わない。
視線とは言っても、侮蔑や嘲笑ではなく、好奇と戸惑いだ。
天を取り巻く環境は、大きく変わった。クラスメイトも、どう反応したらいいのか分からないのだろう。
天としてはもう気にして欲しいわけでもないが、クラスメイトは今まで積もっていた感情を持て余しているらしい。
さらには、
「会長」
「斉藤君、どうしたの?」
と、不倶戴天の敵同士と思われていた斉藤とも、自然に会話できるようになった。
「今日の仕事なんだが、資料はもうコンピューター室に運んである。もう残り少ない。二人でやれば、今週中には終わるだろう」
「了解。じゃあ、放課後はすぐにコンピューター室に行くよ」
「ああ、そうしてくれ。では、またあとで」
「うん、また」
斉藤と話すたびに、拗ねていた自分を情けなく思う。その半面で、頼りになる友を得たありがたさも感じる。
高校生活など早く終わればいい、そう思い込んでいたのに。環境が変わるだけで、変えようと努力すれば、こんなに明るくなるとは。
もうお約束となった昼食も、天の中では印象が変わって来た。
最初は、辛い高校生活の中での清涼剤だった。それが今では、
「ですから、次の休みは私が先に、と」
「お前な、少しはアタシに遠慮しろ!」
「遠慮しています。浜田さんは部活があると思いまして」
「安心しろ、まだガッツリ練習を組んじゃいないんだ」
「……そうですか」
「残念がるな!」
まあまあ、と場を収めるのにも慣れてきた。友人である二人との、気楽なひとときになった。
「ったく……。じゃあ、もう生徒会の仕事も終わりなんすかね?」
「うん、もうほとんどかからないと思うよ」
二人の言い争いの種、今週末の予定には、何も響かないと思う。
「なんだか、すんなりですね。正直、もっとてんやわんやすると思ってましたよ」
「俺もだよ。まあ、それも俺が問題だっただけなんだけど」
「そんなことないですよ。むしろ、天センパイがいたから早く終わったって感じです」
「はは、ありがとう、真波ちゃん」
自分にとって、虫がいい話だと思いもする。しかし。
「天さん、何度も言いますが、無理はなさらないでくださいね?」
「大丈夫だよ、ちゃんと体のことは考えてるから」
「まだ完治したわけではありません。油断はしないでください」
「了解、
この二人には、どれだけ感謝してもし足りない。
天を変えてくれたのは、間違いなく、この二人だ。
「放課後って言っても、下校ギリギリまではやらないつもりだよ。斉藤君のおかげで、かなり余裕があるから」
「まあ、そこはさすが副会長っすね」
「俺が来られなかった間に、かなり進めてくれてたからね……。ありがたいよ」
今度、何かしらの形で礼をする必要があるだろう。先日、斉藤にパン屋を教えた時、メロンパンを気に入ってくれていた。今度、差し入れようか。
そう考えていると、いつの間にか時間が過ぎていたらしく、予鈴が鳴った。
「おっと。それじゃ、天センパイ、失礼します!」
「私も教室に戻ります」
「うん、二人共、またね」
対照的な二人と別れ、天ものんびりと教室へ戻った。
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