第62話 責任とは
昼食時になったで、店を探した。今日は、運良く入れる店があったので、そこに決めた。
店とはいっても、チェーンのファミリーレストランだ。だが、三人でゆったりと座れる席があったので、何も文句はない。
天は、プレゼントされた服を傍らに置きつつ、メニューを眺めた。目新しいものはないが、そこに不思議と安心する。
こじゃれた店に入っても、何がいいのかさっぱり分からない。そういう意味では、前回のファストフード店は大差ないか。
「私はボンゴレにします」
「アタシはステーキかな」
「迷うことなくお肉とは。さすがアスリートですね」
「……言葉以外に意味を感じるのはアタシの気のせいか?」
天はハンバーグセットに決めた。呼び出しボタンを押して注文を告げると、三人とも気が楽になった。
少し歩いた程度だというのに、天は疲れを感じていた。我ながら体力のなさを嘆きたくなるものの、嫌な疲れではない。
この後も、適当な店をのぞいて回るつもりだ。その分の余裕はある。
「天センパイ、無理はしないでくださいね。いつでも休めますんで」
「はい、浜田さんの言う通りです。せっかくのおでかけですが、体調を崩すのはよくありません。無理だと感じる前に、きちんと教えてください」
二人の気遣いに、ありがとう、と返し、
「大丈夫。せっかく楽しんでるのに、水を差すようなことはしないから」
言うと、二人は顔を見合わせた。そして、
「楽しんでくれてるんすね」
「それはなによりです」
優しい笑みで、天の言葉を受け入れてくれた。
天は、素直に楽しいと思う。真波の靴選びも、自分への服選びも、午後から回る店の数々も。
天としては時間の許す限り遊びまわりたいが、二人の言うようにまだ体は万全ではない。辛いと感じる前に、休憩をいれよう。
食事中も、会話に花が咲いた。クラスでこんなことがあった、最近はこんな噂がある、授業の内容がどうした。
こんな話題で楽しむ日が来るなんて、天は思いもしなかった。
これも、目の前の二人のおかげだと思う。最近は、学校にあった、居心地の悪さが消えていくのも感じている。
多少、前向きになれているのだろうか。うつむいて怯えた日々は忘れられないが、楽しいという感情に上書きされてきている。
復帰した、と言っていいのかは分からないが、生徒会の仕事も順調だ。斉藤とのわだかまりも消えたのも大きい。
ただ、と思う。
一つだけまだ分からないことがある。
目の前で言い争いをする片方。
まだ、天は
殺さなかった責任を取るにはどうしたらいいのだろうか。
答えは出ない。
ハンバーグの中にいるチーズを突きながら、天は少しだけ複雑な感情を抱いた。
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