第55話 二人の仕事

 思い立ったが吉日、というわけではないが、天と真波は放課後、早速仕事に取り掛かった。

 念のためにUSBメモリを持ってきたが、データは無事に、パソコンの中にあった。天はそれを印刷しつつ、新しく議事録内容を入力していく。


「真波ちゃん、今から五枚印刷するね」

「了解っす!」


 役割分担を行い、それぞれの作業に没頭する。

 入力する議事録は、もう残り少ない。今日と明日で全て片付けられる。

 これが全て片付いたら、斉藤に会長の仕事について聞こうと思っている。やれることが残っているなら、やってみたい。

 有能とまではいかなくても、もうお飾りの生徒会長ではいられない。周りがどう思おうと、今更と言われようが、天はやってみるつもりだ。


「よしっと」


 今日の分のめどがついた。


「真波ちゃん。次に出てくる八枚が、今日で最後だよ」

「はいっ。って、早いっすね。天センパイ、なんかやる気あるみたいだし」

「あはは、まあ、一週間も寝てたからかもね。暇で仕方なかったんだ。なんか、やることがあると落ち着くよ」

「あ、なんかわかります。暇してた後だと、結構集中出来たりしますよね」

「そうそう、そんな感じ」


 印刷が終わり、今日仕上がった分を生徒会室へ運ぶ。中には、やはり斉藤がいた。


「お疲れ様、斉藤君」


 天が声をかけると、斉藤はいつもの冷静な表情に少しばかりの驚きをのぞかせた。


「ああ、お疲れ様、会長、浜田君。今日はもう終わりかい?」

「まだ残ってるけど、明日には終わらせちゃうよ。終わったら、会長の仕事もやるから」

「そうか、それはありがたい。僕だけで終わらない。会長にも目を通してもらいたい書類がある」

「分かった。それは、今からの方がいいかな?」


 時計を見ると、まだ下校時刻まで一時間近くある。少し手伝うくらいならば余裕のある時間だろう。

 斉藤は難しそうに顔を変え、そして、


「ああ、ではお願いしよう。早く終わるに越したことはない」

「了解」


 真波と一緒に、書類を片付ける。その時、真波が小声で話しかけてきた。


「……大丈夫すか? 天センパイ」

「え? 何が?」

「副会長と一緒で大丈夫かなって。アタシも残りましょうか?」

「大丈夫だよ、たぶん」

「そうですか……? 何かあったら、すぐに連絡くださいね」

「うん」

「じゃあ、アタシは部活に顔だけ出してきます」

「いってらっしゃい」


 心配そうな真波を見送って、天は会長の席に座った。


「早速だが、去年の体育祭の件から見て欲しい。僕の方での確認は終わったが、会長にも意見を貰いたい」

「分かった。……って、言っても、斉藤君が確認したなら、もう大丈夫そうだけど」

「そんなことはない」


 天は、渡された書類を眺める。体育祭の進行と、問題点について。すでに斉藤のチェックが赤いペンで入っており、確認するのが楽になっていた。

 解決策、対応策なども、メモで書かれている。天にはやることがないようだ。

 秋の始業式、文化祭、冬の終業式なども、ほぼ出来上がっている。これは清書するだけでいい気がする。


「問題がなければ、僕の方で仕上げる」

「俺も手伝うよ」

「大丈夫だ。パソコンで入力するだけだ。会長は体のこともある。僕ができることは、やっておこう」

「いいの?」

「任せて欲しい」


 斉藤は冷静に、しかし天を気遣ってきた。ほんの一か月前までは、こんな様子、想像もできなかった。


「年明けの分は、明日に回そう。それで、書類はどうだろうか、会長?」

「俺には何もできそうにないよ」


 苦笑いすると、斉藤は少しばかり口元を緩めた。


「そうか。ありがとう」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。……今まで、俺はサボってばっかりだったし」


 冗談などではない。今は、素直に斉藤の仕事ぶりを尊敬できる。これではおそらく、天がいようといまいと関係がなかっただろう。

 すると、斉藤は顔を厳しく引き締めた。何か言われるだろうと覚悟して待っていると、斉藤は言った


「いや、今回の件で、僕は自分の至らなさを痛感した」

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