第10話 二枚ともの手紙

 そこには、二人の人間がいた。正確に言えば、二人の女生徒がいた。

 天は、慌てて隠れる。二人は、何やら雰囲気悪く立っていた。

 双方ともに警戒し、敵意をあらわにしている。一目見ただけでも、二人のいら立ちが手に寄るように分かった。


 そして、両方が見たことのある顔だった。

 片方は、昨日、天の周りを騒がせた少女、陸野りくの海智留みちる


 もう片方は、それより以前から知っている。

 ショートカットに、小麦色の肌。陸上部のエースで、生徒会に二人いる書記の片割れ、浜田はまだ真波まなみ


 どうしてこの二人が一緒にいるのだろうか。しかも、剣呑な雰囲気で。

 二人の間に火花が散っているような気がする。そんなレトロな表現がぴったりだ。

 顔を出すべきか、出さざるべきか。今の天には判断ができない。


 百歩譲って、手紙の一枚が海智留みちるによるものだとしても、何故、浜田はまだ真波まなみまでいるのだろう。

 今は、生徒会が会議をしているはず。浜田はそれに出席しているはずだが。

 悩む間にも時間が過ぎていく。このまま待ちぼうけをさせるのは、申し訳ない気がした。


 覚悟を決めて、天は物陰から飛び出した。


「こ、こんにちは」


 我ながら、情けない挨拶だった。それでも二人は表情を変え、


「星野さん!」

「星野センパイ!」


 と、語尾は違えど呼びかけてきた。


「っ!」

「ちっ!」


 そして、また空気が悪くなる。二人の間に、何があったのだろうか。


「え、えっと、手紙をくれたのは……?」


 問いかけると、


「私です!」

「アタシです!」


 答えと同時に、また舌打ちが聞こえてくる。


「二枚、あったんだけど……」

「私がいれました!」

「アタシがいれました!」


 状況はさておき、今回の手紙はいたずらではなかったらしい。

 にらみ合う二人を見ながら、天はどうしたらいいのか分からず、困り果てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る