第8話 華咲かず
「戻りました」
そろそろ逃げようかと思っていたところで、
空色のワンピースに、若草色の上着。状況が状況でなければ、素直に可愛いと思える姿だ。
天とて、女性が気になったりはする。今の
「それで、お話はどこまで進みましたか? 挙式はいつ頃にしましょう? 国内ですか? 海外ですか?」
「今は少子化ということもありますから、子供は三人くらいがいいでしょうか?」
待ってくれ、という前に、陸野父が
「そこまでだ、
「……お父さん?」
「星野君を、これ以上困らせるな。結婚も何も、話にならんよ」
「ですが、星野さんは、私のことを……!」
「星野君は一般的な道徳心からお前を助けたんだ。そもそも、自殺を考えたお前が悪いだろう」
「私は、死ねなかったんです! ですから星野さんに責任を……!」
「人様の前で、親を困らせるな。第一、今回の話、親としてお前のことを気遣ってやれなかった私にこそ責任がある」
「そんな、ことは……」
天としては、そんな
「このことについては、後でしっかりと話そう。今は、とにかく星野君に迷惑をかけないことだ。いいね」
「……」
「
「……はい、わかり、ました」
静かに言われて、
「星野君、今日はありがとう。娘の命の恩人に会えて、私も嬉しかった」
「いえ、そんな大したもんじゃ、ないですよ」
「謙遜するな。君は立派だ」
いつの間にか、陸野父は天の肩に手を置いて微笑んでくれていた。
「長く引き留めて悪かったね。家まではどれくらいだい? 時間がかかりそうならタクシーでも呼ぼうか?」
「大丈夫です。そんなに離れてませんから」
「そうか。気を付けて帰ってくれ」
「ありがとうございます」
陸野父に見送られて、天は陸野家を出た。
なんとなく気まずい終わり方をしたような気がしていまう。とはいえ、曖昧にはできない話だ。仕方ないと、自分を納得させる。
いつものパン屋に寄って、こしあんぱんを買って行く。
今日はパンがつぶれるようなこともなく、無事に家に着いた。
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