わが妻とともに語らう

 わが妻とともに語らう。

 わたしは妻にたいして謝しても謝しきれぬのである。

 かの女にとって倖せとは、固定された家におることであり、毎夜、寝床をおなじゅうすることであった。

 そのめいかくな倖せの形である家を失してしまったのである。

「さきの殿方のおっしゃってました」

「わたし以外の男に、殿方なんて呼び方をしなくていい。あいつ、でいいのだ」

「ええ。でもあの方がいいことをおっしゃってましたよ」

「なんだ」

「いえ、つぎの町では豆がたいそう安く買えると」

「……いつ話したのだ」

「いいじゃないですか。それよりほかの話なんぞしておりませんから」

 豆を炊いている鍋が泡を吹いたので、かの女はふところから手ぬぐいをとりだすと、鍋のふたの上にほうりだして、恐る恐る手ぬぐいごしに鍋のふたをもちあげ、口をすぼめて息をふきかけて泡をおさえた。

 味気のない料理ですみません。とかの女は豆を掬い、わたしてくれた。

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