大阪
ハナは水から顔を出して、コンクリの浮島に手をつくと、勢いよく上に登った。
体から水がジャバジャバ落ちる。
水っぽい陽の光が、ハナの濡れた白いシャツをねっする。ハナは背中が温まるのを感じた。
あごから落ちる水を見ると、足のつま先の横に落下した。びしょ濡れのコンクリ。少しだけ水面より上にある場所。足裏がヒタヒタ感じて、なめらかな表面に吸い付くのが面白い。足踏みすると、ハナはその足のすぐ横に、少しだけ剥がれた何かを見つけた。
しゃがんで見てみると、それは紙だった。
指先でつまんで、丁寧に剥がしてみる。ピリピリと、綺麗に取ることができた。
ハナはそれを顔の前に掲げた。
「6月14日
−大阪にもやはり人はいない。時間の恐ろしさをこれでもかというほど感じる。私は、全てに於いて、行動を誤ったのだ。もう少し、色々な事を早く済ませておくべきだった。
−もしこの手紙を見つけたならば、北京に渡ってほしい。そこには我らがaGGkの本部があり、そこには君達が生き延び、さらには世界をまた一から作るのに役立つ施設の設計図があるだろう。デコンがそれを残してるといいけれども。実際は分からない。
−水は危険だ。我々は水に浸かっていると数日と持たない。用心してくれ。
−最後に、この手紙を私は」
ハナはとびはねた。
そして手を振って、
「ルル!」
と声をかけた。
パシャパシャ。
ルルが水面から顔を出す。
「なに?」
「みてこれ。紙」
「文字が書いてあるね」
「よめる?」
ルルは紙をコンクリに貼り付けて、その前で器用に水を掻いて浮かびながら、紙を眺めた。
「6月14日
−大阪にもやはり人はいない。時間の恐ろしさをこれでもかというほど感じる。私は、全てに於いて、行動を誤ったのだ。もう少し、色々な事を早く済ませておくべきだった。
−もしこの手紙を見つけたならば、北京に渡ってほしい。そこには我らがaGGkの本部があり、そこには君達が生き延び、さらには世界をまた一から作るのに役立つ施設の設計図があるだろう。デコンがそれを残してるといいけれども。実際は分からない。
−水は危険だ。我々は水に浸かっていると数日と持たない。用心してくれ。
−最後に、この手紙を私は」
陽に当たって、ルルの頭はだんだん熱くなる。前髪から水滴がツーツーと額に、鼻に、流れる。くちびるに流れてきた水の粒を、ルルはヒュッと息で吸い込んだ。そして、
「ろくがつ、じゅうよんにち。
……何とか、にもやはり……はいない」
「どういう意味?」
「わからない」
浮島に膝を立てて座って、ハナはルルに上から聞いてみる。ルルから見ると影で真っ暗だ。ルルは鼻の下まで水に沈んで、口からポコポコ泡を作った。
「魚とれた?」
「とれたよ。木にかけた」
ハナは腰を下ろして、足を水につけた。くるぶしから下がひやりと涼しむ。ちょうどその時二人の上に、龍のような大きな風が吹いて、二人の肌を冷やした。
「いこっか」
「さき行って」
ハナは水に飛び込んで、そのまま深く潜ってしまうと、ずんずん遠くへ離れていった。
一度浮島に上がったルルは、首筋についた草を取って、大きくあくびをした。そして彼女も、花のあとを追った。つま先から静かに入水すると、そのまま水を泳いでいった。
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