りーなと宗一の夢冒険

remono

第一章 出会いの物語

夢の話

 振動と共に鈍く、そして重い足音が迫ってくる。

 

 ドーン、ダーン、ドーン、ダーン!


 海外のアニメ映画に出てくる西洋のプリンセスのような衣装を身にまとった、荒野に一人立つ私に向かって足音は迫ってくる。


 そして姿を見せたのは三メートルほどもある私を一呑みにしそうなほどの怪物だ。

 実際丸呑みにするつもりだろう。だって、私はイケニエ。怪物を鎮めるためのイケニエ。


 怖い。嫌だ。本当はこんなところで死にたくない。けれどもみんなのために――私はイケニエになることを選んだ。怪物はどんどん足音を立てながら私に迫っていき――。


 ヒュン!


 飛んできた来た矢にその目を射貫かれて、大きく姿勢を崩した。


「姫ーっ!」


 私のことをそう呼ぶ男の人は、まだ自分と同じくらいの年頃の美少年――イケメンだ。馬に乗って今さっき矢を飛ばした弓を背中にしまい、腰に帯びた長剣をその手に取る。そしてひるみもせずに怪物に向かっていった。


 片目を潰された怪物は暴れながら片手で目を覆うと、目標を私からイケメンに変える。美少年は片目になった怪物の目が見えない方へと馬を走らせ、怪物に近づき剣を振るう。けれどもそれは怪物の体で弾かれてしまう。


 怪物は大きな拳を振るって馬に乗ったイケメンを捕らえようとする。けれどそれは隙だらけ。けれど剣は怪物の体に効かない。どうするの? そう思っているとイケメンは馬の上に立ち、剣を構えて怪物に向かって飛び上がった。


 でもそれは片眼を覆っていた怪物の手の射程内。怪物は目を守っていた手を振るうとイケメンをはじき飛ばした。


「きゃあ!」

 

 思わず叫んでしまう。イケメンは一撃で地面に叩きつけられた。まだ生きてはいるようだけど大丈夫だろうか。そしてイケメンが持っていた剣が――くるくる回転して私の目の前の地面に刺さった。


「……」


 私はおそるおそるその剣を手に取る。怪物がイケメンに迫る。助けないと。なぜなら彼は私を助けようとしてくれた唯一の人だから。……助けないと。

 私は剣を水平に構えると怪物に向かって走って行った。そのままの勢いで切りつける。


 カキン!


 けれどもやっぱりこの剣では怪物の体に傷を与えられなかった。怪物は首を曲げ、残った単眼が私の方を見る。


「額だ! 額の文様を狙え!」


 イケメンが声を出す。よかった、生きてたんだ。ほっとすると同時に怪物の両手が私の体を拘束し、掴み上げる。そのまま頭の上まで持ち上げると大きな口を開ける。ああ、やっぱり丸呑みにするつもりだ。私が諦めた瞬間。矢がまだ開いた方の目に突き立った。イケメンが放った一撃だ。


 怪物は痛みに暴れ、体が自由になった。落ちそうになるところを逆に怪物の体を掴み、私は怪物の腕の上に乗る。すごい揺れる。ぐらぐらする。

 けれど、今しかチャンスはない! 私は飛び上がり怪物の額の文様に向けて剣を刺す。


 グサリ!


 イケメンの言うとおり額が弱点だったようだ。怪物の額に吸い込まれていくように剣が刺さっていく。そしてどう、と怪物は倒れ――動かなくなった。


 驚いたことに、私はこの手で怪物を倒してしまったのだ!


 イケメンは私に駆け寄り、怪物を倒した余韻でふらついた私を慌てて抱きしめる。体が滑り、イケメンは膝をつき、ちょうどお姫様だっこの形になった。


「姫、お見事でした」


「ありがとう……助けに来てくれて……」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 そしてそのままくちびるとくちびるが自然と近づき……。



 なんてことの無い中学一年生、片倉りーなはそこで目を覚ました。


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