第20話 秘密を明かす

 イルルクは自分の違和感が事実だった事に、何とも言えない顔をした。それから死体が見付かった子供もいると聞き、今が自分の秘密を知らせる機会だと思った。

 イルルクはキリも含めた全員を見て、それから密やかに、自分の秘密を打ち明けたのだった。


 ルドリスは驚いていたが、フェルはやはり、どこか納得したような表情を浮かべていた。キリは何も言わなかったから、驚いているのかどうかさえ分からなかった。


 ルドリスは、イルルクがその事について今まで誰にも話さなかった事を褒めた。

 そんな能力がある事が分かれば、今よりももっと色々な人から狙われていただろうからと。

 リュエリオールにまで黙っていた事を謝ると、「誰も信用しないってのは難しいけど大事な事だ」と笑ってくれた。

 イルルクには普通が分からなかったから、もしかすると自分と同じような力を持った人間もいるのかもしれないという思いもあったが、ルドリスやキリが、そんな力の持ち主がいるという話は聞いた事がないと声を揃えて言った為、イルルクの淡い期待は一瞬にして燃え尽きたのだった。


 イルルクはルドリスに、その見付かった死体の記憶を見る事が出来れば、犯人が分かるかもしれないと言った。しかしルドリスは首を振り、死体は既に埋葬されている為に墓を掘り起こさねばならず、それはしたくないと答えた。

 イルルクも勿論、墓を荒らしてまで死体に触れたいとは思っていなかったからすぐに了承した。

 ルドリスは、イルルクとフェルさえ無事であるなら、犯人を見付ける必要はないと言った。イルルクたちは元々この街に長く滞在するつもりはなかったからだ。

 無闇に目立った行動を取るべきではない。そう言ったルドリスだったが、次の一言にイルルクとフェルは驚きを隠せなかった。


「明日、この街のトップと夕食を共にする」

「はぁ?! あんた今、目立つ行動はしないって言ったばっかじゃねぇかよ」

「いや、それはそうなんだが、かといって波風立てる訳にもいかねぇんだよ」

「この街のトップって、ドルビルって子のお父さんかな」

「ああ、確かにそんな名前の息子がいるって言ってたな」

「げぇ、最悪」

「なんだ、喧嘩でもしたか」

「向こうから因縁付けてきたから適当にあしらって逃げた」

「おお、フェルも成長したなあ……」

「るっせーな、どいつもこいつも!」



 次の日、イルルクたちは服を新たに買いに行く事になった。

 毎回同じ服を着ていては怪しまれるからだとルドリスは言った。

 イルルクたちと別れた後、どうやらルドリスは賭け事に勝ち続け、それなりの金額を稼いだらしかった。そしてその様子を見ていたドルビルの父、この街最大の富豪、ホーランド伯に夕ご飯に招待されたのだと。


「結局一番目立ってんのルドリスじゃん」

「言うな……分かってる……」


 ホーランド伯と名乗ってはいるものの、実際に爵位を持っていると云う訳ではないらしかった。

 彼について詳しい話を知っている者はおらず、噂では成り上がりの平民らしいが、会う人会う人にホーランド伯だと名乗っている内に、誰もが彼をそう呼ぶようになったのだとか。

 この街を一歩出れば、もしかすると彼はただの男になるのかもしれない。それでも彼がこの街で一番の富豪であり続ける限り、彼は紛れもなくホーランド伯なのだった。


 イルルクは、今まで身に付けていたいた物と同じ形だが色味の違うブラウスと、履いているズボンの色に合わせたベストを買った。フェルは薄い桃色をしたドレス。ルドリスは派手な刺繍の織り込まれたジャケットと、それに合わせたズボンを買った。

 安い買い物ではなかった筈だが、躊躇う素振りも見せずに代金を払うルドリスを見ていると、実質的な街の支配者に呼び出しを受ける程に荒稼ぎをしたルドリスが容易に想像出来た。


 三人は一度宿に戻って着替えた後、どんな話を振られてもお互いに矛盾した事を言わないように少し打ち合わせをし、ホーランド伯の家へと向かった。


 ホーランド伯の家は歓楽街の中央、イラランケの名を大きく掲げた建物。

 イラランケの街で一番人気のある社交場の上にあった。

 その建物は四階建てで、一階を社交場に、二階より上をホーランド一家の住まいとしているらしかった。

 イルルクたちは執事に案内され、四階の食堂へ通された。

 食堂には大きな窓があり、煌びやかなイラランケの街が一望出来るようになっていた。窓には水の魔術で出来ているらしい透明な壁が張られていて、ホーランド伯は魔術の素晴らしさ、そして魔術師に大枚を叩ける自身の資産について自慢げに語った。

 ホーランド伯とその奥方がイルルクたちに挨拶をし、それからイラランケの街を見下ろしながら色々な自慢話を聞いている間、イルルクが見た事もないような食べ物がテーブルに並び始めるのだった。

 しかし、結局イルルクがその料理を口にする事はなかった。


 食事が始まる時刻になっても姿を現さないドルビルを探しに行った執事が、物置で物言わぬ姿に成り果てたドルビルを発見したからである。


 ドルビルは胸にナイフが突き立てられた状態で、絶命していた。

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