偶然


今日は休み。

私の唯一無二の推しであるあの子のイベント


何があっても行かなければならない


前日の夜からしっかりと肌のケアをして半身浴までして

朝は早くからバッチリ決めたらルンルン気分で出かけるのだ


嫌な仕事場の人間関係を忘れ

1人の乙女になる日




物販列に並びながら購入シートを見つつどれだけ買おうかワクワクしてる時

ふと顔を上げると列の後ろの方に見覚えのある人が見えた



あれは……?





そこには仕事場にアルバイトで来ている

大学生の子が並んでいる


このイベントはハッキリ言えば女性向け

目につく範囲でも男性は彼しか見当たらない

1度目につくと凄く目立つし正直浮いていた


耳を傾けると周りも好奇の目で見ているようだ

彼は購入シートとスマホを見ながら悩んでいて周りの目は気にしていないようだが



物販購入後に

レジを抜けたところで少し待つと彼が出てきたので話しかけてみた、少しこのイベントにやってきているのが気になったのだ

もしかしたら推しについて話せる同士かもしれないなんて淡い期待を持ちつつ


ねぇ

と、話しかけると彼はとても間抜けな声で


へぇ?

と、言いながら振り向いた

するとこちらを見つめながら目が点になっている彼は


かわいい……

と、一言ぼそっと言ったあと

顔を真っ赤にしながら


いや、あの……

びっくりしたもので!!!!!

まさか声を掛けられるとは思わなかったしましてや貴女に会うなんて驚いちゃって……その……

つい……

と、驚くこそ早口でそして小声で話した彼を見て思わず笑ってしまった


普段は堂々としておりハキハキ喋るThe体育会系の彼がこんなになるなんておかしかったのだ


それを見て彼はまた恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯いている


ごめんなさいね、急に声を掛けてしまって

目立ってたからついね

どうして並んでいたの?

と、笑いながら言うと


いえ、こちらこそ失礼しました

変なことまで言ってしまって

友達に頼まれて並んでたんですよ、どうしても行けないから朝から行ってくれってアルバイトみたいなもんです

と、落ち着いたのか彼は言い訳めいたことを言い始めた


なるほど

今どきはそんなことまで友達に頼んでしまえるのね

まぁ単純に彼が素直なのか扱いやすいのかもしれないけど

そんなことを考えながらつい


彼女に頼まれたの?

なんて聞いてしまった

すると彼は笑いながら


嫌だなぁ

彼女なんているわけないじゃないですか

もし彼女なんていたら誘ってませんよ

と、あっさり言われ

そういえば誘われていたんだったと思い出す

正直、イベントなどですっかり忘れていたしからかわれているくらいにしか思っていなかったので余り気にしてはいなかった

すると先程言われた言葉を思い出し変に考えてしまうと何だか気恥ずかしくなり


誘われた時はどうかと思ったけど

何も言ってこないしからかわれたんだと思ったわ

なんて笑いながら言うと


そんな器用じゃないんで無理っす

ちょっと大学も忙しくてなかなかバイトにも行けなかったですし……

でももう終わりましたし次バイトで会った時にでも話そうと思ってたんですけどね

ちょうど良かった

都合の付く日はありますか?

美味しいもの食べに行きましょ

なんて言われてしまった


まぁ行ってもいいかと思ったりもしたが

どうやら遊びではない様子

はっきり言って歳も離れてるし余り本気でこられても困ってしまうのが正直な所

と考えていると


あーすいません……

今日はイベントの日でしたね

またバイトの時にでも聞きますからゆっくり楽しんでください、自分もこれ届けなきゃ行けないので

失礼しました〜

なんて言いながら彼は帰ろうとした


たしかに今日は楽しみなイベントだし

たまたま見かけたから声をかけただけと

彼女は思考を切り替え


うん、またね

と、とりあえず先延ばしにして

頭から余計なことを切り離し

イベントに備えることにした



今日も最高にして最強のイベントだった

楽しい思い出をリフレインしながら推しで思考をいっぱいにしながら帰る至福の時間を楽しんだ


そんな彼女のイベント後の楽しみといえば

買ったパンフレットを見ながらまた今日のイベントを振り返ることだ

衣装の写真を見ながらあのシーンがかっこ良かっただとかインタビューを読みながらあのシーンはそんなことを考えていたのかと推しをひたすらに考える時間である

楽しいに決まっている



ふと時計を見ると日付が変わっていた

明日仕事だと言うことを思い出し憂鬱になりながらもパンフレットを一瞥しシャワー位は浴びるかとお風呂場へ

仕事の事を頭から追いやりながらシャワーを浴びているとふとイベント前のこと思い出した

ぼそっと言われた言葉に真面目な回答

別に行きたくないわけじゃないから行ってもいいけどめんどくさいのは勘弁よね

変な子じゃないし大丈夫だと思うけど……


ただ……なんて言われたのは何年ぶりだろうか

彼の慌てぶりを思い出すだけで笑ってしまうし、こちらが恥ずかしくなってしまう、そんなことを考えなが

きっと誘われたら行ってしまうのだろう自分の単純さを誤魔化しつつ、今日はイベントでバッチリ決めたのもあって言われたのだと言い訳しながら就寝するのだった

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