しまもと散歩(初回)
「うっわあああ!こんなん読んでコーフンしとるん?きゃははははっ!」
「……どういう内容なんかわかったやろ。早よ返せや……」
文句を垂れながら、内心、バレたのが悦楽バッファローで良かった、と思った。悦楽シリーズにはいくつかの姉妹誌があるのだが、その中では、悦楽バッファローは最もノーマルなエロ本なのだ。他はちょっとマニアックな誌面になっていたりする。
あまり話したことがなかったとはいえ、毎日のように顔を合わせるクラスメイトなのだから、ドン引きされて距離を置かれるよりは、ギャグにしてくれた方がまだ気が楽だ。
一通り読み終えて満足したらしく、島本は俺のカバンの中に悦楽バッファローを突っ込んだ。おい、エロ本はもうちょっと丁重に扱え。
結局、特に行くところもないので、駅前から続くただの住宅地を歩き、もうすぐテストがあるからダルいとか、数学の横田はたぶんヅラだとか、水溜りボンドの逮捕ドッキリ動画はよく出来ているから視た方がいいとか、なんだかそんなことを話した。というか、俺はだいたいテキトーに聞いていただけで、ほとんど島本が一方的に話していたのだが。
住宅地に沿った路地の終点は、大きめの川だった。掲示板を見たら、俺の家の近くにある川と同じ名前だった。ここは俺の住んでいる市の隣の隣の市だ。「川って長いんだな」と言ってみた後で、なんかアホっぽいセリフだな、と思った。
夕方の河川敷には、犬の散歩をしているおじさんと、柔らかそうなボールでサッカーらしき遊びをしている子供が数人と、ベンチで何かしら話している主婦が数人いた。
どちらかというと、ここはおじさんとおばさんと子供のいるべき場所であって、花の高校生がいるべき場所ではないという気がした。
「……陰キャやなあ、俺ら」
独り言のつもりでそう呟いた。
「ウチも陰キャやで」と言いながら、島本は「LINE教えて」とスマホを差し出してきた。
「ええけど、……なんで?」
「来週も、散歩に付き合ってもらうから」
「はあ?いや、再来週テストやん。来週はテス勉せな」
「じゃあ、散歩した先でテス勉したらええやろ。じゃ。よろしく!」
「……いや、あの……」
「えろほんのひみつ……」
「うううっ……」
めんどくさいことになってしまった。
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