逃げ出し王子と逃亡魔王は、緩く暮らしたい
枕・ジョン氏
プロローグ
一年前、人間の勇者によって魔王が討伐された。これは人間と魔族との争いが終止符を迎えたということだ。だからと言って、平和な世界が訪れた……というわけではなく、魔族の生き残りは人間たちから迫害を受ける。逃げた先で人間に見つかれば、捕らえられて今までの仕返しを受けるわけだ。
そして現在、この世界に存在するチイサナ王国。名前通り小さな王国だが、この町から勇者が生まれたのだ。それに次期王子の就任が近いということで、多くの人がこの王国を訪れていた。
だが、就任式の前日。王子が姿を消した。魔族の仕業かと思ったが、部屋で見つかった置手紙には「こんな生活は嫌だ」という内容の文章が書かれており、王子の愛馬も消えていたという。
兵士たちは探しに探したが、見つからない。このままではチイサナ王国は大ピンチ……という状況だそうだ。
「チイサナ王国の王子が逃げ出したねぇ……」
酒場で水をもらっていた一人の旅人が耳にした噂がそれだった。旅人はフードを深く被りバンダナを口周りに巻いているため、顔の特徴はよく見えない。だがすらりと背は高く、体格も特別良いわけではないがしっかりしている。
「しかし旅人さん、いいのかい?この先は魔族の生き残りがいるって噂の場所だよ。人だって住んじゃいない。そんなところで生きているかなんて……」
「大丈夫だよマスター。俺はそういうところに行ってみたかったんだ」
「旅人は旅と共に生きて死ぬってかい?……気を付けてな」
旅人は軽く頭を下げ、酒場を後にした。チラリと見えた綺麗な白い馬が軽やかに走っていく足音がだんだんと遠ざかっていったのをマスターは聞いた。
それと、昼間から酒を飲んでいる客が話している内容も。
「おい、さっきの旅人の乗ってた馬。真っ白だったな」
「まるでチイサナ王国の王子が大事にしてたっていう馬みてぇだったな」
「ま、こんな場所に来るわけねぇか!いくら逃げ出したって言っても死にに行くほど馬鹿じゃないだろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます