第12話 メトロノームの演奏会 (=本✖メトロノーム✖過酷な可能性+童話)

 ある晴れた日、メトロノームがカチカチとリズムを刻んでいると、一冊の本がパタパタと飛んできました。


「やぁ、本くん」

「やぁ、メトロノームくん、今日もきっちりとしたリズムだね」

「それが僕の役割だからね」


 メトロノームがカチカチとリズムを刻むことで、時計は、針を正しく回すことができますし、ピアノやバイオリンは、きれいに音を奏でることができます。


「本くんは、どうしたの? いつもこの時間は、猿さんのところで読まれているじゃないか?」


 本の中には様々な世界が詰まっており、それを文字を通して、みんなに伝えて、楽しませることができます。


 メトロノームは、そんな本のことを尊敬していました。


 しかし、今日の本は元気がありません。


「実は、猿さん達が喧嘩をするから逃げてきたんだ」

「それはたいへんだったね。どうして喧嘩になったのさ?」

「僕は一匹ずつにしか読まれることができないんだ。それで誰が先に読むかで喧嘩になったんだ。危うく破られちゃうところだったよ」


 本は、悲しそうにページをぱらつかせた。


「僕もみんなに読んでもらいたいんだけど」

「そうだね。みんなに一度に物語を伝えられたらいいんだけど」

「そんなの無理だよ」

「うーん、どうだろう」


 そのとき、メトロノームは、ふと思いつきました。


「歌にしたらどうかな。歌なら、みんなが一度に聞くことができるよ」

「それはいいね!」


 メトロノームの提案に本は喜びました。


「じゃ、メトロノームくん、歌っておくれよ」

「それは無理だよ。僕はメトロノーム。リズムを刻むことしかできないもの」

「えぇ、じゃ、どうするの?」


 メトロノームは少し考えてから、ピアノに頼むことにしました。


 ピアノはいつものように、丘の上でぽろんぽろんと泉の波紋のような音色を奏でていました。


「ピアノさん、ピアノさん」

「あら、メトロノームくん、どうしたんですか?」


 メトロノームが事情を説明すると、ピアノさんはぽろんと鳴らして承諾してくれた。


「でも、私は歌を作って奏でることはできても、歌うことはできませんよ」

「えぇ、そうなの? どうしよう、メトロノームくん」


 メトロノームは少し考えてから、小鳥達に頼むことにしました。


 小鳥達は、森の中で、きゅーころろと楽しそうに鳴いていた。


「小鳥さん、小鳥さん」

「やぁ」

「やぁ」

「メトロノーム」

「メトロノーム」

「こんにちは」

「こんにちは」

「どうしたの?」

「どうしたの?」


 メトロノームが事情を説明すると、小鳥達は、ぴーちくぱーちく騒ぎ立ててから、いいよと引き受けてくれました。


 これで、なんとか歌を披露することができるようになりました。


 メトロノームは、猿たちに披露するために、演奏会を開きました。当日には、噂が広まったのか、兎やライオンや象もやってきました。


 本くんは少し不安げでした。


「喜んでもらえるかな?」

「大丈夫だよ。本くんの話なんだもの」


 しばらくして、演奏が始まりました。ピアノが奏で、本の物語を、小鳥達が歌いました。


 けれども、ひどい音です。聞くに堪えない騒音で、動物達は耳を塞ぎました。これでは、物語をみんなに聞かせることができません。


 どうしよう、とメトロノームは困っていると、本が言いました。


「メトロノームくん、指揮をしてよ」

「僕がかい?」

「そうさ。下手になってしまうのは、みんながバラバラに歌っているからだ。君が指揮をしてくれれば、きっとうまくいく」


 本の言うことを信じて、メトロノームはリズムを刻みました。


 ピアノと小鳥達は、メトロノームのリズムに合わせて音を奏で、歌を歌いました。


 粒の揃った音は、まるで綿のように舞い上がり、それはそれはきれいな音楽となりました。


 たんぽぽの花が風とタンゴを踊り、カエルが風船みたいに膨らんで、ぽんぽんと跳ねまわる。


 演奏会はみんなを喜ばせて、大成功に終わりました。 


 それから、メトロノーム達は、いろんな歌を演奏して、みんなで楽しく暮らしたそうです。

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