第7話 ロリコン裁判 (=地獄✖告白✖禁じられた幼女+ギャグコメ)

「真村アツシ。32歳。会社員。独身。趣味はサッカー、および漫画、アニメ、ライトノベル。中学時代に女子更衣室覗きの常習犯、高校時代に万引きを5回、大学時代には大麻で小金を稼いでいた」


「……」


「会社員になってから、パチンコに嵌って、金に困り、友人と金銭トラブルを起こす。親の金を使い切り、結局、再び運び屋で稼ぎつつ、ついには会社の金に手をつけてクビ」


「……」


「その後、バイトを転々とする。しばらくして、バイクに乗っている最中、歩道を歩く女子小学生のめくれたスカートの中に目を奪われて、赤信号を無視して交差点に突っ込み、トラックに撥ねられ死亡」


「……」


「以上が、貴様の生涯となる。それでは、これより判決を述べる」


「……」


「貴様はロリコンの罪で地獄最下層行とする」



「……ちょっと待て」



 俺は、そこでさすがに口を挟んだ。死後の世界。やたらと装飾豪華な裁判所。その中央に座する巨大な男。閻魔大王である。


 彼の言い分に、唯々諾々と頷いていたのだけれど、さすがに看過しかねたのだ。



「何だ? 地獄行が不満か?」


「いや、地獄行に不満はない。正直、褒められた人生を送ってきたつもりもないし、多くの人に迷惑をかけてきた。地獄行も当然だろう」


「では、何だ?」


「理由だ」



 閻魔大王が首を傾げるので、俺は告げる。



「ロリコンの罪って何だ!?」



 しかも、最下層行ってどんだけ罪深いんだよ。



「他にもいろいろあるだろ。万引きとか、運び屋とか、横領とか、親不孝とか。その辺をすっ飛ばして、ロリコンの罪って何だよ。そもそも罪でもねぇよ」


「あぁ、それね。はいはい」


「え? 何、その反応?」


「いや、多いから最近。その手の絡み。FAQに書いておいたんだけど」


「FAQ!?」


「三途の川を渡るときに、船頭からレク受けなかったの?」


「あぁ、何か言っていたかもしんないけど、船酔いがひどくて、あんまり聞いてなかった」


「死んでまで船酔いとか、ウケる」



 ウケんな。



「そもそもさ、俺もよく知んないけど、地獄って等活地獄とか阿鼻地獄とか、種類があるって聞いていたけど、その最下層ってどこにあたるわけ?」


「あぁ、その質問も多いんだけど、その制度、最近変わったんだよ」


「えぇ!?」


「最近、信心深い人減っちゃったじゃない? だから、現世に情報が伝わらないんだよ。そのせいで、こっちはいい迷惑」


「はぁ」


「やっぱりうちもホームページ作った方がいいのかな」


「閻魔が?」


「いや、今ならツ〇ッターかな。ほら、キリストもとかブッダも最近ツ〇ッター始めたって言っていたし」



 それたぶん漫画の話だと思う。



「いろいろ地獄があったんだけど、わかりにくいからって、10階層評価に変えたんだ。下に行くほど罪が重い」


「ということは、俺の罪は一番重いと」


「そういうことだ」


「だとすれば余計に納得いかない。ロリコンなんて、そもそも罪でもないだろ」


「まぁ、確かに昔なら、悪くて色情地獄、貴様の場合なら、ちょっとパンツ見たくらいだし、不問なんだけどさ」


「だったら!」


「時代だよね。新制度設計をするときに、世の中の風潮とか、そういうものを取り入れたんだけど、そしたらロリコンは存在自体が悪で、もっとも悪だという結果になっちゃったんだよ」


「だよって、そんなぁ」



 変えればいいってもんじゃないよ。それ絶対に改悪だよ。



「残念だったね」


「ね、って」


「もう少し早く死んでればよかったのに」



 そういう問題じゃねぇよ。


 納得いかない俺は、閻魔大王を睨みつけて反論を試みた。



「そもそも俺、ロリコンじゃねぇし!」


「はぁ」


「確かに俺は、幼女のスカートがめくれたことに気を取られて事故って死んだけど、それは、スカートがめくれたら、とりあえず目で追ってしまうという男の習性みたいなもんで、もしも仮に還暦を迎えた婆であっても、俺は目を奪われていただろう」


「はぁ。でも、浄玻璃鏡を見るかぎり、すごい覗き込んでいるけど」



 生前の姿を見ることができるという浄玻璃鏡が、どう見てもタブレットであることは、この際突っ込まない。



「そんなの証拠にならない!」


「えー。でも他にもあるよ。駅の階段を昇るときは、必ず前を歩く幼女のスカートの中を覗いていたとか」


「それは、前を歩く者が幼女でなくても常に覗いていた!」


「それはそれでどうかと思うけど」


 うっせ。


「他には、違法の児童ポルノ画像を収集していたね。それも、すごいデータ量だ」


「……、資料用だよ。俺、同人誌描いていたし」


「苦しいね」


「じ、児童ポルノ以外にも、たくさんポルノ画像持っていたもんね! 違法なやつもいっぱい!」


「だから、何を威張っているんだい?」



 はぁ、と閻魔大王はため息をついた。



「じゃ、テストしようか」


「テスト?」


「あぁ、『禁じられた幼女』というテストなんだけど」



 何だ、そのいかがわしいテストは。



「そこのカーテンがあがると、中に幼女が立っている。この幼女は特殊能力をもっていて、もしも貴様がロリコンだったら、告白してしまうというものだ」



 そんなものがあるならば、初めからやれと言いたい。



「では、心の準備はいいかい?」


「あぁ」



 問題ない。俺はそもそも本当にロリコンではないし、幼女に興味なんてない。どんな幼女が現れようと、俺の心が動くことなどないだろう。



「じゃ、ご開帳」



 カーテンが上へとあがっていく。中から現れたのは、まさしく幼女。


 背中まで長く垂れる麗しい黒髪は、艶がある一方で、一本一本が細いのだろう、綿のようにふわっとしていてまるで羽のようだ。


 肌は雪のように白く、頬はかるく染め上がり、黒い瞳がうるると濡れている。


 かわいい。


 これはかわいい。


 ロリコンならばイチコロだろう。


 日本の柔和な面立ちであるというのに、服装はゴシックロリータ。フリルの散りばめられたドレスがかわいらしく、足を覆う網タイツと大きく開かれた背中から見える、熱の漏れた素肌には、凄まじい背徳感がある。


 つまり、エロい。


 幼女にエロを足すという禁忌。


 まさしく、禁じられた幼女というにふさわしい。


 だが!


 俺は、耐えられる!


 思わずにやりと笑う。


 これで俺の勝利。俺は煩悩に打ち勝った。地獄行を逃れられる。


 そんな俺を怯えるように幼女は見上げており、そして、ぽとりと呟いた。



「お兄ちゃん」


「好きです。ぺろぺろさせてください」


「はい、アウト~」



 ……。

 …………やっちまった!



「これで地獄最下層行ね、残念でした」


「ずりぃよ!」


「いやいや、明確にアウトだったでしょ」


「だって、コンボだよ? あれだけ詰め込まれたら誰だってオチるよ。男の子だもん」


「まぁ、このテストでロリコン判定されなかったのって、全体の5%くらいだけど」


「それ、もうテストがだめじゃん!」



 俺のごねる声をかき消すように、閻魔大王は槌で音を鳴らし、審議の終了を告げた。



「おとなしく地獄に落ちて、これまでの人生を、特にロリコンを悔い改めることだね」



 すると、床が抜け、俺の身体は地下深くへと落ちていく。


 落ちる最中、俺は最後に叫んだ。



「ふざけんな。ロリコンだって人間なんだぁ!」


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