はらわた

 下劣。

 比丸のくどくど語るところを聞いて、僕の感想はその一言に尽きた。実をいうと、これだけの話を聞き出すのに四日もかかり、些かうんざりしていたという事実もある。なにしろ比丸は事あるごとに泣き、伏し、激情の波が静まるまで待たねばならなかったのだ。その間、僕は中座することも許されず、ただ待つしかなかった。

 比丸の昔話は全て、比丸と下野の相部屋で語られた。夜になると下野の案内で僕だけが隣の部屋に案内され、そこに泊まるよう促された。言うまでもなく万代老人の指示だ。食事は毎度決まった時間に野球ボールが支給された。そして朝になるとまた女臭い部屋で昔話を聞かされる。要するに軟禁状態での日参だった。

 下野は毎日風呂に入っていると言っていたが、僕は行かせてもらえなかった。不公平だ。比丸も入った事がないという。不潔だ。

 そうした不満の中でようやく昔話の全貌が掴めてきたところだが、聞き捨てならないのは結びの言葉である。

「お前たちは我が子」

 冗談じゃない。

「ならば、僕と下野さん、それどころかここにいる全てのたまっころが、あなたを祖とする血縁というわけですか」

「そうなるな」

「なりますねぇ」

 どういうわけか、下野は僕が比丸の昔話を聞いている間、いつも部屋の隅の自分のスペースで一緒に話を聞いている。中学生には聞くに堪えない話だろうに、むしろこういった話は、女の子の方が関心が強いのだろうか? バスケットボールを抱きながら飽きもせずに耳を傾けている。

「僕の父母のどちらかも、たまっころという事になりますか」

「あるいは、両方かもしれぬ。妖の血は覚醒せぬ限りただの人と変わらぬからな。人知れず世に蔓延り、まれに覚醒が発覚し始末される者があったとしても、それはほんの一角に過ぎぬのだ」

 千年以上も昔の血が現代においても連綿と受け継がれているなど、とんだ優性だ。いくら妖怪に化けたからと言って、そんなことがあり得るのだろうか? 頭が痛くなる。だがあり得ている。人類の起源も元をたどれば一人の女性に行きつくと言われているのだから、この誇大な話も事実と受け入れるしかない……。

「しかし……しかし……いくら歴史の裏に隠そうとしても、これだけごろごろとたまっころが存在していたら、とても隠しきれるものではない。もっと早くに大きな問題として知られているはずでは?」

「それよ」

 比丸は鞠をひとむしゃり、唾を呑んで微笑んだ。

「我が血を継いだ者は数多に増えながら、覚醒にまで至ったものはごく少なかったのだ。その発覚は数年に一人、時には十年以上も新たに見つかることさえなかったらしい」

「しかし、ここには何人も……」

「異様よな」

 腹の立つ笑い方をして、比丸はあっけらかんと言い放った。

「万代はよう頑張った。長く異国へ逃れていた私を連れ戻し、子孫たちの覚醒を促すのに一役買ってみせたのだからな」

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