第115話 敵は闇鬼

 止め具を破壊するため、橋のたもとに集結する夜光達。


途中、はぐれた夜光は、マスクナと2人で止め具のある塔の中へと入った。


しかし突然、不敵な笑みを浮かべるマスクナが夜光に謎の薬品を注射する。


意識を失った夜光が目覚めた時、彼は自らの剣を仲間達に向けていた。






「みんな!! 逃げろ!!」




 ゴウマがとっさに叫んだ一言で、誠児達はハッと我に返った。


誠児達に向かって突撃する夜光はその勢いで空高くジャンプし、右手に持つ剣を思い切り振り下ろした。


攻撃が命中する寸前、誠児達は三方向に散ってかわすことができた。


だが、かわされた闇双剣が地面をえぐる光景を目の当たりにした誠児達は、夜光が本気で自分達を殺しにかかっているのだと、受け入れがたい事実に直面していた。




「夜光さん! やめてください!!」




 セリアがそう叫ぶも、夜光は冷たく「うるさいガキだ」と呟くと右手に持つ剣を地面に刺し、シェアガンをホルスターから抜き、セリア目掛けて躊躇なく撃った。


その信じられない行動に思わず固まってしまうセリア。




「はっ!!」




 セリアに当たる寸前、エモーションしたキルカが弾をトーテムで弾き落とした。


キルカはそのまま夜光に高速で近づき、思い切り夜光の後頭部を強打した。


夜光はひざを付くものの、すぐに立ち上がり、シェアガンを収めて地面に刺している闇双剣を再び手にした。


攻撃力がさほど高くないキルカでは、装甲の厚い闇鬼に大したダメージを与えることはできなかった。




「キルカちゃん!やめてよ! 相手は夜光だよ!?」




 キルカを静止させようと叫ぶセリナに対し、冷静な声でキルカはこう返す。




「相手が誰であろうと、この命を狙おうとするのなら、自衛に出るのは当然のこと。


ましてや、薄汚い男にやる命など我は持ち合わせていない」




 キルカの言い分は最もだ。


自分の命が狙われている状況なら、身を守るために抵抗する。


それはマイコミメンバー達も同じである。


しかし、その相手が夜光であることが、彼女達の防衛本能を抑制してしまっている。




「夜光! やめろ!!」




 そう叫びながら夜光の腕にしがみつく誠児。


状況が理解できずに混乱する頭を放置し、夜光を止めることだけを考える誠児。


だが、生身でエモーションした夜光を止めることはできない。




「離せ!」




 夜光はしがみつく誠児を思い切り振り解き、「失せろ!」と腹部に蹴りを入れた。




「ごはっ!」




 誠児は腹部を抑えながら倒れ、口から吐血してしまった。


軽い蹴りではあるが、闇鬼となった夜光の蹴りを生身で受ければ、あばら骨どころか内臓がやられてもおかしくないレベルである。


夜光ほどではないが、狂人的な肉体を持つ誠児だからこそ吐血程度で済んでいる。




「夜光・・・」




 腹部の痛みをこらえてもなお、夜光の足にしがみつき、静止を試みる誠児。


その姿を見ても、夜光は全く動じることなく、うっとうしそうに振り解いてしまった。


誠児は無念の思いで、意識を失ってしまった。




「いい加減にしなさいよ! このバカ!!」




 生身で止めようとする誠児の姿を見て、何もしない自分を恥じたライカはエモーションし、怒りの風を放った。




「くっ!」




 命中したものの、夜光はひるむことなくエクスティブモードを起動した。


黒いオーラを纏った闇双剣をまるでダーツのようにライカ目掛けて投げつけた。


だが、スピードでは勝っているライカには命中せず、闇双剣は城壁を突き破って外に飛び出してしまった。




「ハァァァ!!」




 闇双剣をなくし、シェアガンのみのほぼ丸腰となったこの好機をキルカは逃さなかった。


怒涛の勢いで夜光に突進しつつ、エクスティブモードを起動した。


得意の突きで急所を狙い一気に勝負を決めようとする気だ。




「終わりだっ!」




 キルカの突きは見事に夜光の胸を突いた。


しかし、キルカにとって予期せぬ出来事が起きた。




「なっ何!?」




「何が終わりだって?」




 若干後退したが、夜光は踏ん張って衝撃を受け止めた。


そして、キルカを逃がさないように腕を掴むと同時に、その顔目掛けて全力の右ストレートを食わらせた。




「がはっ!!」




 装甲の薄い流孫では、攻撃力が最も高い闇鬼の拳から伝わる衝撃を受け止めることができず、キルカは後方数メートルまで吹っ飛んでしまった。




「テメェ! いい加減にしろ!!」




 殴り飛ばされたキルカを見て、激高したルドがエモーションして夜光に突撃する。


残りのアスト達もルドに続いて、夜光と戦うことを選択し、エモーションした。




 まずスノーラとミヤの遠距離攻撃コンビが、夜光の足元目掛けて矢と弾を放つ。


自分達に注意を向けさせ、ほかへの警戒を緩ませるのが狙いだ。


すると、夜光は突然天に向かって両手を伸ばした。




「このっ!!」




 この隙をつき、ルドは豪快に斧を振り下ろそうとする。


すると、夜光の両手から黒い光が出現したと同時に、外に飛んで行ったはずの闇双剣が夜光の手に現れた。




「たぁぁぁ!!」




 手に戻った闇双剣で、ルドの斧を受け止めた。


夜光と同等の怪力を持つはずのルドだが、その手には、無意識に力がこもっていなかった。




「オラッ!!」




 夜光はルドの砕撃轟を押し返した。


啖呵を切ったものの、やはり夜光と刃を交えることを心のどこかでためらっている。


押し返され、バランスを崩したルドの脇腹目掛けて、夜光は力強く蹴りを入れた。




「あぐっ!!」




 吹っ飛ばされることはなかったものの、隙を突かれた攻撃は応えた。


ひるむルドに追い打ちをかけようとする夜光だが、ミヤとスノーラの援護射撃でそれは断念した。


一見、正確に狙っているようにも見えるが、実際は1発も命中していない。


どちらかと言えば動きの遅い夜光に、当てることなど、2人からすればたやすいことではある。


しかし、夜光に攻撃したくない気持ちが己の実力を落としてしまい、威嚇して後退させることしかできなくなってしまっている。






「夜光!!」




「ダーリン!!」




 次に仕掛けたのはセリナとレイランのシールドコンビ。


2人は夜光の腰にしがみつき、その動きを封じた。




「夜光!やめて! どうしちゃったの!?」




「ダーリン!! ボク達のことがわからないの!?」






 夜光への好意に最も素直な2人には、攻撃どころか武器を向けることもできない。


2人は戦闘を放棄し、言葉による説得を試みるしかなかった。


だが夜光は容赦なく2人を引きはがそうとする。




「離せ! クソガキども!!」




 力づくで引きはがそうとも、決して手を離さない2人に業を煮やし、夜光はエクスティブモードを再び起動し、闇双剣を手放すと同時にセリナとレイランの首を掴み、力のまま持ち上げた。




「・・・や・・・こ・・・」




「だ・・・りん・・・」




 首を絞められてもなお、反撃しようとせず、必死に呼びかけるセリナとレイラン。


アストの中で最も装甲の厚い炎尾と沙斐が、力の強い闇鬼相手とはいえ、首絞め程度で息苦しくなること普段ならありえない。


だが、戦意のないセリナとレイランの弱々しい精神力が、アストの装甲や能力を低下させてしまっている。


姿こそ変わっているが、実質的に生身と大差がなくなっている。






「夜光さん!!」




 悲鳴に近い声で叫んだのはセリアであった。


夜光の前に立ち、護絶を構えてはいるが、体はまるで戦闘を拒絶しているかのようにブルブルと震えている。




「お願いです、夜光さん。 もう、これ以上は・・・」




 涙ながらにそう訴えるも、夜光はうっとおしそうに、首を横に振る。




「やめろやめろって、バカの1つ覚えみたいに、いちいちうるせぇな・・・とっととくたばれ!!」




 夜光は首を掴んでいたセリナとレイランの体を、セリア目掛けて思い切り投げ飛ばした。


セリアは動揺でかわすことができず、投げ飛ばされた2人にぶつかり、その衝撃で後方へと押し出されていく。




「「「きゃぁぁぁ!!」」」




 3人は先ほど夜光が闇双剣で破壊した城壁の大穴から外へと吹っ飛ばされ、そのまま下の川へ転落していった。




「セリア!! セリナ!!」




 愛する娘たちが奈落に近い川へと転落してしまった。


普段冷静さを欠かしたことのないゴウマでも、こればかりは冷静ではいられなかった。




「クシッ!!」




 ゴウマ助けたい一心で、無謀にも自ら川へと飛び込んでしまった。




「レイラン!! ゴウマ陛下!!」




「セリア様!! セリナ様!!」




 ミヤとスノーラーは落ちて行った4人を追って壁の穴へと走り出す。


しかし、それが致命的なミスであった。


夜光は「後を追わせてやるよ」と先ほどと同じく闇双剣をダーツのように投げつけた。


落ちて行った4人の安否で頭がいっぱいであったミヤとスノーラに、攻撃をかわすほどの余裕はなかった。




「あがっ!!」




「があっ!!」




 闇双剣は2人の背中に命中し、そのダメージでエモーションまで強制解除されてしまった。


相手が夜光である故のためらいと、4人が川へ落ちたこと(ゴウマの場合は飛び込みだが)による動揺で、精神力が一気に低下してしまい、アストの装着を維持できなくなってしまった結果であった。




 生身の体となったミヤとスノーラには闇双剣が命中した際の衝撃に耐えきれず、城壁の穴を通って川へ落ちてしまった。


衝撃で意識を失ってしまった2人には悲鳴すら上げることができなかった。






 夜光は穴に近づき、7人が落ちたことを確認するために川を見下ろす。


目測でも城庭から川までは200メートル以上はあると思われる。


少なくとも、ここから落ちれば命はないだろう。






 そこへ、残ったルドとライカとキルカが夜光に武器を向けて再び立ち上がった。


仲間を川に落とされたことで、夜光への怒りが多少芽生えた。


しかし、それでもなお動揺が勝っており、本来の力は出し切れていない。




「あんた。 本当にどうしたって言うの!?」




 ライカがそう問いかけるも、夜光は闇双剣を手中に戻して冷たく返す。




「どうもしない。 俺は”大事な人”のために戦っているだけだ」




 ルドがすかさず「大事な人ってなんだよ!?」と問うが、夜光は「お前達に応える義理はない」と闇双剣を構えるのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る