第101話 反撃の狼煙
エクスティブモードとなり、アストを追い込むレオス。
ついには夜光の首を絞め、窒息させようとする。
そしてホームでは、仲間の危機に反応した2つのマインドブレスレットが、主として選んだミヤとレイランの元へ飛来した。
家族として生きていくチャンスをくれた夜光の危機に、2人は助けに向かうことを決意した。
クキの森でレオスと戦闘していたアスト達は、猛威とも言える攻撃によるダメージと圧倒的な力の差による恐怖によって、立ち上がることすらままならなかった。
だがアスト達は、そんな状態にあってもなお、必死に立ち上がろうとしていた。
その原動力となっているのは、レオスの剛腕によって首を絞められ、今にも窒息死しそうな夜光の存在であった。
破損したマスクから見える素顔から、夜光の苦しさが痛いほど伝わってくる。
必至にレオスの腕から逃れようとするも、戦闘によるダメージが大きすぎて、それは叶わない。
「兄ちゃん。 早く逃げねえとマジで死ぬぜ?」
レオスは嘲笑うかのように夜光を挑発しつつ、首を絞めている腕に力を入れていく。
「うっ!」
苦しさが増し、夜光の表情がさらに険しくなった。
ダメージと疲労で、力が思うように入らず、闇双剣は足元にあるものの、首を絞められているため、手が届かない。
「良い気になってんじゃねぇ!!」
夜光はとっさに、右足に装備しているシェアガンを引き抜き、レオスの目元目掛けて発射した。
「・・・まぶしいじゃねぇかよ」
だがレオスにはダメージを負わすことも、ひるませることもできなかった。
「クソッ!」
夜光の最後の希望が打ち砕かれ、ここまでかと諦めかけたその時であった。
「うおっ!」
突如レオスの頭部に光輝く矢が命中した。
シェアガンの衝撃とは比べ物にならないその反動によって、レオスは思わず夜光から手を離してしまった。
「だっ誰だ!?」
頭を抑えながらレオスは矢が飛んできた方向に目を向けた。
夜光達も後に続いて、同じ方向に目をやる。
そこは見晴らしの良い少し高い丘で、その上には2つの人影があった。
鎧姿をしていたが、夜光達は一目見てそれがアストだとわかった。
そして次の瞬間、アスト達のマスクに通信が入った。
夜光はマスクが破損しているため、マインドブレスレットに直接通信が入る。
『みんな、大丈夫?』
通信画面に映ったのは、なんとレイランであった。
さらにそこから画面が変わり、ミヤの顔が映し出された。
「お前らなんでここに・・・それにその恰好は・・・」
『説明はあとでするわ。 今は目の前の敵に集中しなさい!』
夜光の言葉を遮り、ミヤはまるで騎士団長な命令口調でアストに通達する。
『時橋夜光。 あなたはとにかくそこから離れなさい!早く!』
「おっおぉ」
ミヤの言われるがまま、夜光はすぐさまレオスから距離と取る。
一見性格が悪そうにも聞こえるが、ミヤはかつてクキの森のエルフ部隊でリーダーをしていた最強のエルフ。
戦場での戦いで、ついその癖が出てしまったようだ。
レイランが装着しているのは沙斐(さい)という河童型のアスト。
水の力を持ち、トルチェという盾を装備している。
足にあるトルチェブーツという具足が武器で、トルチェで身を守りながら、トルチェブーツで相手を蹴る戦法を取る。
そして、ミヤが装着しているのは、猪兜(ちょと)という豚型の鎧。
雷の力を持ち、ミョルニルという弓矢を武器にしている。
「増援か、上等だ!」
レオスは近くに埋まっていた岩を持ち上げ、ミヤとレイランに向けて投げつけた。
岩には精神力を込めているため、ミサイル並みのスピードで2人に一直線に飛んで行く。
そこへレイランが、右手に装備している盾を構え、ミヤの前に立つ。
「くっ!」
レイランは岩を正面から受け止め、その隙に、後ろで待機していたミヤがミョルニルで矢を放った。
矢は岩に命中し、一瞬で粉々になった。
レイランのトルチェは、セリナのシールドと違って、広範囲を守ることはできないが、その分物理攻撃に対する防御力が高い。
ミヤの矢も、ライカやスノーラのように連射することはできないが、1発の攻撃力が夜光とルド並に高い。
「今度はこっちの番だよ!」
レイランとミヤはエクスティブモードを発動した。
すると、レイランは右手に持つトルチェに水が輪のように集まり、ミヤは左手に持つ弓に電気が火花を散らして走る。
そして、レイランは水の輪を投げ、ミヤは弓に宿る電気を矢に込めて放った。
「なっなんだ!?」
レイランが投げた水の輪はレオスに命中すると、体中に巻き付いてレオスを拘束した。
これだけだとレオスの怪力ですぐに抜け出されてしまう可能性があるが、その後、ミヤが放った矢がレオスに当たると、水とシンクロするかのように体中に電気がほとばしる。
水の拘束と電気による麻痺によって、レオスは身動きが取れなくなった。
しかし、レオスが動けない理由はもう1つある。
「いっ意識が・・・くっ! こんな時に!」
エクスティブモードによる疲労がレオスを襲ったのだ。
アスト以上の精神力を発揮し、持続時間も長いレオスだが、これまでアストから受けたダメージを蓄積してきたため、予想より早く限界を迎えてしまったのだ。
「今です! 全員イーグルに乗り込んでください!」
レオスが動けないこの好機を逃すまいと、スノーラが全員に通信を送る。
夜光達は最後の力を振り絞ってイーグルに乗り込んだ。
丘の上にいるミヤとレイランも、ここまで乗ってきたイーグルに再び乗り込み、夜光達の元に集まった。
すぐさま夜光達はイーグルキャノンの砲口をレオスに向け、精神力を充填する。
「くっ! やべぇ」
レオスと言えど、イーグルキャノンを9発同時に喰らえば、大ダメージは免れない。
直撃を避けようと必死にもがくレオス。
すると、少しずつだが水の拘束は力を失い始め、麻痺も徐々になくなっていく。
もしイーグルキャノンを外してしまえば、夜光達は完全に力尽き、レオスに殺されるだろう。
イーグルキャノンへの充填と拘束を力で解こうとするレオス。
両者共、一瞬の気のゆるみも許さぬ状況であった。
「うおぉぉぉ!!」
ついにレオスは、水の拘束を解くことができた。
だが次の瞬間!
『!!!』
9機のイーグルから最大出力のイーグルキャノンがレオス目掛けて発射された。
レオスは避ける動作すらできず、イーグルキャノンの直撃をまともに喰らってしまった。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
辺りに響く轟音と雄たけび、レオスは何とか耐えようと、金棒を盾のように前に出し、少しでも直撃を和らげようと試みた。
だがイーグルキャノンに耐えきれなくなった金棒は、粉々に砕け、レオスはそのまま9つの光に包み込まれ、すさまじい爆音と共に姿が見えなくなった。
イーグルキャノンを撃ち終えると同時に、夜光達は地上に降り、転がるように地面に倒れた。
倒れた瞬間、夜光以外のアスト達は精神力の使い過ぎで、エモーションが解除されてしまった。
特に、初戦でアストに慣れていなかったレイランは、意識を失ってしまった。
ミヤは自分の体に鞭打ち、這いつくばってレイランのそばに寄った。
「ミヤ・・・」
意識は失っているものの、命に別状はないようなので、表情に少しだけ安堵が浮かび上がった。
「何っ!」
安堵の空気が漂う中、夜光達の目に疑う光景が映った。
「あっ・・・うっ・・・」
それは爆煙からゆっくりとこちらに歩いてくるレオスの姿であった。
装甲はボロボロで、鎧がはがれた部分からは、血も流れている。
ほとんど瀕死の状態であるにも関わらず、レオスはその闘争本能で夜光達の前に立ちふさがる。
「まずい。 こっちはもう限界だと言うのに・・・」
焦ったスノーラは、愛用している銃をレオスに向けようとするが、ダメージと疲労で銃口がぶれてしまう。
ほかのみんなもどうにか起き上がろうとするが、もはや立ち上がる気力さえ出てこない。
「・・・ったく。 しぶてぇ野郎だ・・・」
そう言って立ち上がったのは、まだエモーションが解除されていない夜光であった。
夜光は闇双剣を杖のようにして立ち上がり、そのままゆっくりとレオスに向かって歩き出す。
闇双剣を2本持ちたいところだが、今にも倒れそうな夜光に剣を2本も持ち歩く力は残っていなかった。
夜光とレオスはゆっくりと近づき、ついに対峙した。
「弱ぇ割にはなかなかタフな兄ちゃんだ」
余裕そうに挑発するレオスだが、それが強がりだということはわかっている夜光は、余裕の笑みを浮かべてこう返した。
「モテる男はタフさが売りなんだよ」
「ククク・・・違ぇねぇぜ」
レオスは構え、右手の拳を固めた。
夜光も杖代わりに使っていた闇双剣を地面から引き抜いて構える。
精神力はとうに尽きているため、2人の勝敗は筋力と気力で決まる。
「「・・・」」
夜光とレオスは互いににらみ合い、1歩1歩自分と相手の間合いに入る。
歩くたびに2人はフラフラして倒れそうになる。
お互い限界の1歩手前まで来ているので、攻撃できるのは1回だけ。
攻撃を避けたり、受け止めたりするような余計な力を使えば、その時点で負けだ。
夜光とレオスの頭には、一撃入れること以外なかった。
そして、攻撃が当たる距離まで詰めた瞬間!
「うぉらぁぁぁ!!」
「でやぁぁぁ!!」
夜光の剣とレオスの拳が火花を散らした。
夜光は顔を殴られ、レオスは腹部に斬撃を喰らった。
攻撃後、2人はそのまま動くことなくじっとしていた。
見守っていたアスト達の不安も最大になりかけたその時!
「・・・くっ!」
倒れたのはレオスであった。
その直後、リモーションが解除され、動かなくなってしまった。
「・・・うっ!」
レオスが倒れたのを見た夜光は、糸の切れた人形のように、エモーションが解除され、倒れてしまった。
「夜光さん!」
セリアを先頭にして、アスト達(キルカとミヤとレイランを除く)は夜光の元に向かう。
ダメージと疲労で歩くことができないため、四つん這いでの移動になってしまうが、そんなことは気にしていられない。
夜光の元に来たセリアは、夜光を介抱し、「夜光さん!」と呼び掛ける。
続いて集まったマイコミメンバー達も夜光に呼び掛ける。
「・・・耳元でうるせぇぞ、お前ら」
うっとうしそうな声で呼び掛けに応じる夜光。
意識は少し薄れているものの、無事ではあったため、マイコミメンバー達は安堵した。
夜光の無事を確認したスノーラとルドが、リキに近づく。
リキは全身傷だらけで、ほとんど瀕死の状態であった。
戦う力はもう残ってはいないが、まだ息がある。
その時、リキがふとこんな言葉を口にする。
「負けちまったか、この俺様が・・・」
言葉とは裏腹に、表情は穏やかで口調も全く悔しがっていないようだ。
そんなリキにルドがこんな言葉を投げ掛ける。
「そうか? オレにはほとんど相討ちにしか思えないぜ?」
そう言うが、実際はほとんど夜光達の負けで、ミヤとレイランが加勢してくれたおかげで相討ちに持ち込めたのだ。
それはルドも含め、アスト全員が思っていることだ。
「勝負ってのは、最後まで立っている奴が勝つんだ。 そして兄ちゃんは俺が倒れるまで立っていた。 だから勝負は俺の負けだ」
勝負に言い訳をすることなく負けを認めるリキに、ルドは自分とどこか似通ったものを感じた。
「なんでお前みたいに自然を愛し、真っ向勝負だけを求めるような男が、影になってしまったんだ?」
ルドは思わずリキに対して思っていたことを口にしてしまう。
「俺に生きる目的を与えてくれた自然に感謝したかった」
リキの言葉に、スノーラは哀れみを込めた声でこう言う。
「その感謝が殺人か? それで殺人が正当化されると思ったのか?」
「いや・・・俺はただ、自然って言う宝を守りたかった。
だが守る方法が悪党以外に見つからなかった・・・それだけのことだ」
リキはどこか悲し気な表情を浮かべていた。
それは悪党になるために、心の奥に封印した、騎士団としての誇りがリキの表情を変えているのかもしれない。
「さてと・・・」
リキは上半身を起こし、夜光達に向かってこう言い放つ。
「さあ、何をしてんだ? 動けねぇ敵が目の前にいるんだ。 さっさとトドメを差しな!」
その時のリキの表情は、夜光達にもはっきりと読み取れた。
安堵という名の表情を......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます