第98話 ぶつかり合う思念

ホームに入ったリキからの電話。

それはアストへの宣戦布告であった。

レオスとアストの戦いが始まろうとしている……。


 リキからの電話が切れた後、ゴウマはすぐに夜光達を地下施設の作戦室へと集合させた。

夜光達にリキからの宣戦布告の内容を離すと、驚きあまり全員言葉を失った。


「何考えてんだ! あのデカブツ野郎!」

吐き捨てるように口を開いたのはルドであった。

怒りで頭に血が上ったルドは「見つけ出してぶっ飛ばしてやる!」と立ち上がり、地下施設を出ようとする。

セリナが慌てて止めに入るが、構わずルドは出ようとする。

怒りで我を忘れかけているルドの肩に手を置き、静止させたのはスノーラであった。。

「落ち着け、ルド」

「こんな話を聞いた後で落ち着ける訳がねぇだろ!?」

スノーラの手を振り解こうとするが、スノーラは決して手を離さない。

「何の手がかりもなしにどうやって奴を見つけると言うんだ? 仮に見つけたとしても、今のままでは返り討ちにあうだけだ! 冷静になれ!」

スノーラは冷静に事実を述べたつもりだったが、ルドの耳には怯えているように聞こえてしまった。

「何、怖気づいてんだよ! このままじゃ-----」

再びスノーラの手を振り解こうとした時、「いい加減にしろ! ルド」と怒気のこもったゴウマの叫び声が全員の鼓膜を揺らす。

その瞬間、ルドは借りてきた猫のように静かになった。

声に驚いたのもあるが、普段温厚なゴウアの怒鳴り声に、ショックを受けたようだ。


 ゴウマは「大声を出してすまない」と夜光達に謝罪した後、ルドに向かってこう言う。

「ルド、お前の気持ちはわかる。 だがスノーラの言う通り、まずは冷静になってくれ。 ワシはお前達を死なせたくはないんだ」

ゴウマの悲痛な言葉に、ルドもようやく落ち着きを取り戻しし「・・・わかった」とみんなの元に戻った。



 ルドが席に付くと、ライカがため息をつきながら呟く。

「冷静になるのはいいけど、あのデカブツとまともに戦っても、あたし達が勝てる可能性って低いでしょ?」

このライカの意見に、共感せざるおえないのが、夜光達にとって厳しい所だ。

全員が口を閉ざしてしまった仲、ゴウアは情を捨ててこう言う。

「はっきりと言うのはつらいがその通りだ。 前回の戦いでは、レオスが疲労した上に手心を加えてくれたおかげでどうにか退けることができた・・・だが電話越しに聞いた声で理解した。 間違いなくレオスは本気でお前達と戦う気だ」

それはつまり、レオスは自分達を殺す気だと言うことだ。

以前倒したスコーダーは、暴走状態で精神力を使い過ぎでもともと低かった装甲がさらに弱体化してしまい、どうにか倒すことができた。

だが夜光達はボロボロで、胸を張って勝利したとは言いづらい状態であった。

レオスの場合は6人で一斉に攻撃してもダメージを負わない装甲と一撃でアストを瀕死にさせる攻撃力がある。 しかも今回は暴走や疲労といったハンデはないため、以前よりも厳しい戦いになるのは確実だ。


「あっあの・・・」


ゴウマ達が頭を悩ませる中、セリアがふと手を上げる。

「きっキルカさんがせせ戦闘に参加することはで・・・できないのでしょうか?」

セリアの言葉で、今までふと忘れていたキルカの存在に気づいたアスト達。

「そうだ! うっかり忘れてた! キルカのアストはもう完成している訳でし、オレ達と一緒に戦ってくれたら、もしかしたら勝てるかもしれねぇ!」

キルカの存在で、わずかな希望が見えたルド。

そんなハイテンションなルドとは違い、ゴウマとスノーラは難しい顔であごに手をそえていた。

それに気づいたセリナが「お父さんもスノーラちゃんもそんな顔してどうしたの?」と尋ねると、ゴウマがゆっくりと口を開いた。


「確かにルドの言う通り、キルカが戦力に加われば、多少は実力差が埋まるかもしれん。 だがあの子の”特性上”安易に出撃させて良いものか・・・」

 言葉に詰まるゴウマに同町するように、周囲が押し黙る。

ただ1人、セリナだけは、なんのことかわからず、ポカンとしている。

キルカはナルコレプシーという睡眠障害を持っており、そのせいで突然猛烈な眠気に襲われて眠ってしまう。

日常ではともかく、戦闘中に眠ってしまえば、確実に狙われる。そうなれば、キルカは返ってアストの弱点となってしまう。

「揃いもそろって何を難しい顔をしている?」

ゴウア達が頭を悩ませていると、当の本人であるキルカがハナナときな子と共にメインルームに入ってきた。

「あんたが戦闘中に寝ちゃわないかどうか心配してんのよ」

ライカの言葉に、キルカは「ほう、我を心配しているのか?」といやらしい笑みを浮かべてライカに近寄るが、「それ以上近づいたら殺すわよ?」と当然のように忠告された。


 一方のきな子はメインルーム中央のテーブルに乗り、「その件でみんなに話がある」と夜光達の注目を集めた。


きな子によると、キルカのアストには脳を活性化させる装置が付いており、エモーション中はその装置によってキルカの脳を常に覚醒状態にしている。

そうすれば戦闘中にキルカが睡魔に襲われる心配はなくなる。

ただし、脳を強制的に覚醒させている分、キルカの負担はほかのアストより大きいため、長時間のエモーションはできない。

エモーションを酷使すれば、最悪の場合、脳になんらかの障害が残る可能性もある。


 「きな子様。 いくら戦力アップのためとはいえ、そんな危険な装置を付けてまでキルカを戦闘に参加させたくはありません」

キルカのリスクの大きさに、スノーラがきな子に詰め寄る。

「ウチかてこんなもん付けるのは嫌や。 でもキルカちゃんがかまへんからやってくれって聞かへんねん」

きな子の言葉を聞き、夜光達の目は自然とキルカに向けられる。


「おい、キルカ。 お前なんでそこまでやるんだ?」

夜光の問いに、キルカは先ほどまでライカに向けていたいやらしい笑みを一瞬で消し、キルカは見下すような目を向ける。

「我はアスト。 それ以外に理由はない」

夜光のほかにルドやセリナもキルカに同じ質問を投げつけるが、返答は全て同じであった。


 キルカの真意が気になる所だが、「今はレオスの件を優先しよう」と話を戻した。

 

 「ゴウマ陛下。 キルカが加わったとはいえ、レオスの攻撃力と防御力は我々よりも上です。 何か1つでも策がないと、勝てる見込みはないと思います」


 スノーラの意見に、ゴウマは頷きながらもこう返す。

「そこでみんなに1つ提案したいことがある」

セリナが「何? お父さん」と尋ねると、ゴウマはそばにあった機械を操作し、メインモニターに図面を表示した。

「知っての通り、レオスの装甲はアスト以上に厚い。 多人数で押し切っても、大したダメージは与えられないだろう。 だが、全精神力を込めたイーグルキャノンをレオスに集中砲火すれば、決定的なダメージを与えることができるかもしれん」

ゴウマがそう言ってモニターに映し出したのは、レオスとその装甲の厚さを示す”100%”と表記された数字。

ゴウマのその後の説明によると……。

イーグルキャノン7台で削れるレオスの装甲は約60%。

これが決まれば通常の攻撃でもレオスにダメージを与えることができる。

だが、イーグルキャノンは発射するのに30秒ほど掛かるため、巨体で俊敏な動きができないレオスでも、30秒もあれば射程圏外に逃げることはできる。

だからイーグルキャノンを撃つ前にレオスをその場で動けなくする必要がある。

とはいえ、スノーラが氷漬けにしても余裕で動くことができるレオスを拘束することなどまず不可能。

つまり、レオスを疲労させるかケガを負わせ、その場で身動きできなくする必要がある。

さらに、イーグルキャノンで削れない40%の装甲を、通常攻撃で削らなくてはいけない上、イーグルキャノン発射に必要な精神力を考えると、エクスティブモードを使用することはできない。


 「あの、お父様。 そそそれは、現実的にかっ可能なことでしょうか?」


 セリアがおそるおそる尋ねると、ゴウマは首を横に振ってこう返す。

「いや、提案したワシが言うのもなんだが、現状では半分妄想に近い策だ。 だが今の戦力でレオスに勝つには、これが一番有効な手段だと、ワシは思う」

『・・・』

ゴウマだけでなく夜光達自身も、こんな策などできる訳がないと内心思ってはいる。

だが圧倒的な実力差のあるレオスに勝つのは、妄想を現実に変えるくらいの覚悟が必要だ。

それが理解できているからこそ、誰も”無理だ”とは言えなかった。


 「・・・オレはやる。 不可能だろうが妄想だろうが、あいつと戦うしか道はねぇんだ。 なんとしてもやってやる!」


 覚悟を決めたルドの言葉を聞き、セリナも気合を入れて両手の拳を握る。、

「私もやる! 人殺しなんて絶対やめさせる!」

2人見て、周りはため息をつくものの、その表情には闘魂が宿っていた。 



 その後、夜光達はそのままメインルームに待機し、指定時間まで自主的に訓練をしていた。

不安や恐怖は隠しきれていないが、それでも戦わないという選択肢は選ばなかった。


 そしてついに指定時間10分前となり、夜光達は格納庫に集まった。


 ゴウマから「頼んだぞ」と言う言葉を合図に、夜光達は一斉にエモーションした。

キルカのアストは西遊記で有名な孫悟空がモチーフの流孫(るそん)。

ライカと同じスピード重視で、アサーションはアサーティブタイプで土。

武器はトーテムという棒のような物。



イーグルにまたがった夜光達は、レオスの待つクキの森へと向かった。



 アストがクキの森に到着すると、倒れている木に座るリキを発見した。

まるで瞑想するかのように静かに目を閉じていたが、アストが降り立つと同時に目を開いた。


「やはり来たか。 まあ当然だがな」

ふてぶてしく笑うと、リキはゆっくりと立ち上がる。

そこへ感情を抑えきれなかったルドが、リキにこんな質問を投げ掛ける。

「なんでビスケット院長を殺そうとするんだ!? あの人は罪を償おうとしてるんだぞ!?」

「年寄りの戯れ言なんぞ、聞く耳持たねぇよ。 仮に本心だとしても、奴がハンター共を使ってクキの森を焼き払ったのは事実。 罪なんぞ償っても、それは変わらねぇ。 だったらいっそ、殺しちまった方がスッキリするだろ?」

リキの身勝手な言葉にルドは「何だと!?」と怒りを露にする。


 だがそこへ、スノーラがルドの前に出てこう言う。

「ビスケット院長には、彼と共につらい人生を歩もうとしている孫娘がいる。 お前はその子から、かけがえのない家族を奪うつもりか!?」

「家族なんぞ関係ねぇ。 俺は自然っていう世界の財産を消し炭にした主犯であるジジイを殺したいだけだ」

「家族も立派な財産だ! それを失うことがどれだけつらいことか、お前にはわからないのか!?」

家族という名の宝を、目の前で失ったスノーラ。

家族が死ぬつらさや苦しみがわかるからこそ、自分のように家族を失う者が出てほしくないも、心から願える。

だがリキは冷たい口調で「知るか」とだけ返す。


 「ねぇ、本当に戦わないといけないの? 病院でみんなと仲良くおしゃべりしてたよね? 私、楽しかったよ?」


 リキを止めると決意していたセリナだったが、いざ対面すると、ほんのわずかな時間とはいえ、共にいた記憶が頭に浮き出てしまう。

それに耐えかね、悲しみを込めた質問を投げ掛けてしまったのだ。


「俺も楽しいと思ったぜ? だがな嬢ちゃん。 多少馬が合おうが、俺達が敵同士なことに変わりはねぇ。こればっかりは仕方ねぇよ」


 この時、リキの表情が僅かに緩んだように見えた。

だがその緩みを立ち切るかのように、リキはシャドーブレスレットに手を掛ける。

『リモーション!』

リキはレオスになり、背負っていた金棒を構えた。


 「さあ、そろそろやろうぜ? アスト共! 俺は本気でいくぞ!」


 アストとレオスの戦いが、今始まった!


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