第43話 水の魔物

夜光達のいる島に影が現れたという、連絡が入った。

そんな中、ミーナを救出しようと単独行動に出てしまったスノーラ。

夜光、誠児、笑騎の3人でスノーラを探すことになり、女神、きな子、マナの3人は夜光とスノーラのマインドブレスレットを探すためにそれぞれ分かれることにした。

ルド、セリア、セリナ、ライカの4人は、その時間稼ぎのために影の元へと急行した。


時間は少しさかのぼり、地上にあるレーツの施設に近づく黒い影があった。

青いアーマーを見に付け、長い槍を持つ影の1人【ウォーク】。

アーマーはサメをモチーフにしている。

施設の前まで来ると、ウォークは足を止める。

「・・・先客がいるようだな」

ウォークが見たのは、足元で気絶している武装男達。

それは、潜入時に女神の怒りによって倒された武装男達であった。

再び歩き始めたウォークは、レーツの施設へと入っていった。


施設内は、誠児達が潜入した時と同じく、電気がほとんど点いていたいないため薄暗く、人の姿はない。

・・・ウォークが辺りを警戒していると、前方から足音が通路に響き渡った。

ウォークの視界に入ってきたその人物は、白衣姿の男であった。

顔はマスクで覆われている上、薄暗いのではっきりとは見えない。

白衣の男とウォークは対面すると、白衣の男はゆっくりと口を開いた。

「・・・予定より少し早いな。 ウォーク」

「外の連中がすでに倒されていてな。 誰の仕業か知らないが、おかげで手間が省けた」

「・・・やはりそうか」

「それより、お前の方はどうなんだ?」

「この建物の下に地下施設がある。 レーツを含めた研究員全員がそこで資料や臓器の移動を行っている。

近々この施設を廃棄して、別の施設へと移るつもりのようだ」

「その前に、僕がこの手でレーツを殺す」

怒りと憎しみを込めるように、右手を力強く握りしめるウォーク。

「地下施設の情報は全て記憶した。 その記憶をお前と共有する」

そう言うと、白衣の男は左袖をめくり、左腕に付けているマインドブレスレットそっくりな機械を操作する。

それは、影の証とも言える【シャドーブレスレット】であった。

操作を終えると、白衣の男はシャドーブレスレットを付けた左腕をウォークに突き付けた。

「わかった」

ウォークもシャドーブレスレットを操作し、その腕を白衣の男に突き付ける。

すると、2人のシャドーブレスレットが光を放ち、白衣の男が調べた地下施設の情報がウォークの頭に次々と入っていった。

これは影同士が使える【メモリーシェア】という能力で、文字通り互いの記憶を共有することができる能力である。

ただし、本人が共有したくない記憶は共有できない。

光が止んで記憶の共有が完了すると、2人は手を降ろした。

すると、白衣の男が忠告のような言葉を述べる。

「ウォーク。 地下施設には傷付いた人魚達が監禁されている。 彼らに危害が及ばぬように、地下での戦闘はなるべく避けろ」

「・・・わかっている。 今の僕のターゲットはあくまでレーツ1人だ。 他の人間や人魚達にケガをさせるつもりはない」

そう言うと、ウォークは白衣の男の横を通り、建物の奥へと向かった。

白衣の男は、振り向き様にウォークにこう伝える。

「ウォーク。 地下にはすでに”やっかいな先客”がいる。 気を付けろ」

ウォークは一旦足を止めて、こう返す。

「それは外の連中を見た時からわかっている・・・だが忠告には感謝する、エアル」

そう言い残すと、ウォークは暗い通路を歩いて行った・・・

そして、残されたエアルは無言のまま建物の外へと出て行った。


エアルの記憶を頼りに、ウォークは通路を進んでいく。

「・・・ここか」

ウォークがたどり着いたのは、地下施設への隠し扉が隠されている壁。

その扉は、潜入時にきな子が暗証番号を変えてしまったため、エアルが調べた番号では開くことができない。

内側からなら、暗証番号なしで開くが、外側からは、きな子が勝手に書き換えた番号を入力するしかない。

しかしその番号がわからない以上、ウォークは扉を破壊するしかなかった。

ウォークは持っていた槍で、音も立てずに扉を切り裂いた。


ウォークはそのまま階段を下りていくと、視界に入ったのは、傷ついた人魚達が閉じ込められていたあの水槽だった。

「何者だ!?」

武装男に見つかったウォーク。

だがウォークは堂々と前に進み、自ら武装男達に囲まれた。

「貴様!! ここで何をしている!?」

ライフルを向けられ、四方八方からの銃撃が可能な状況下に置いても、ウォークは冷静に答える。

「僕はレーツに用があるだけだ。 お前たちに用はない」

レーツの名を口にした途端、武装男達が引き金に掛けている指に力を入れる。

「なぜレーツ様の名を知っている!?」

「・・・答える義理はない」

ウォークのこの態度に、武装男達の怒りも上がる。

「全員撃て!! 撃ち殺せ!!」

その号令と共に、一斉に発砲する武装男達。

だが、いくら撃ってもウォークのアーマーには傷一つ付かない。

その上、ウォークは避けることもせずただじっとしているだけだ。

「くっ!! どうなっている!?」

とうとう全員が弾切れを起こしてしまった。


「・・・どうした? もう終わりか?」

武装男のほとんどが、ウォークの強さに恐怖し、腰を抜かした。

中には、悲鳴を上げて逃げ出す物もいる。

しかしその余裕に、武装男の1人がキレて、身に着けていた手投げ弾を手に取る。

「調子に乗りやがって!! これでその体を粉々にしてやる!!」

それを見たほかの武装男が慌てて止めに入る。

「おいっ、やめろ! こんな地下でそんなもの使ったら、俺ら生き埋めになっちまうぞ!!」

「うるせぇ!!」

キレた男は仲間の静止も聞かずに、手投げ弾をウォークに投げた。

すると、ウォークはすばやく手投げ弾を掴み、掴んだ手から出現させた水の圧力で、手投げ弾を押しつぶした。

「仲間の忠告には素直に従うものだ。 でなければ、取り返しのつかないことになる」

ウォークはそう忠告すると、槍に力を込める。

槍は青い輝きを放ち、ウォークはそれを上に突き付ける。

すると、槍からシャボン玉が出現したと同時に、シャボン玉が弾けて消えてしまう。

シャボン玉が消えた瞬間、その場にいた武装男達は、全員意識を失い倒れてしまった。


ウォークが、足を進めようとしたその時!

「待てっ!!」

そこに颯爽と現れたのは、ルド達だった。

すでにエモーションしており、武器を構えている。

ウォークは特に驚く様子もなく、口を開く。

「・・・お前たちがアストか? 聞いていた人数と違うようだが」

夜光とスノーラのことを悟らせないように、セリナがこう言う。

「2人は風邪で、お休みです!!」

セリナの馬鹿馬鹿しい言い分に、おもわずずっこける3人。

ウォークはそれを聞くと、「・・・お大事に」とだけセリナに伝えた。

もちろん、セリナの言い分を真に受けている訳ではない。


気を取り直し、再び武器を構えるルド達。

「・・・で? 影がこんなところで何をやってるの?」

ライカの問いに、ウォークは素直に答える。

「レーツと言う男を探している・・・まあ、ここで伸びている奴らのボスとでも言えば、理解できるか」

次にルドがこんな質問をぶつけた。

「そのレーツとかいう男を殺すために探しているのか?」

「・・・そうだと言ったらどうする?」

「・・・」

両者の間に緊張が走る中、思むろにセリナが口を開く。

「そんなのダメだよ! 相手が悪者だからって、殺すのは良くないよ!」

セリナの言葉に、ウォークはゆっくりと頷く。

「・・・そうだな。 相手がどんな外道でも、命を奪うというのは許されない罪だ」

ウォークの意外な返答に、少し困惑するルド達。

そこへライカがこんなことを聞く。

「そんな最低限のことを理解している癖に、人殺しを続けているって訳?」

「・・・そうだ」

ウォークの重い口調が気になり、セリアが呟くように言う。

「どっどうしてそこまで・・・」

「そこまで話す義理はない・・・さあ、話はここまでだ。 お前たちと戦う気はないが、レーツを探す邪魔をするというなら仕方ない」

ウォークはルド達に槍を向け、戦闘態勢に入る。

『!!!』

ルド達も全身に力を入れ、戦闘態勢を取る。

両者は間合いを測りながら、互いの様子を見る。

その時、ウォークがふと人魚達の水槽に視線を向ける。

「(ここで戦う訳にもいかない)」

人魚達に危害が及ぶ可能性があるので、ウォークはこんな提案を述べた。

「ここでは少し狭い。 戦うというのなら、僕についてこい」

ウォークはそう言い残すと、通ってきた隠し階段に向かって走り出した。

「あっ!!待てっ!!」

ルドは慌てて、ウォークを追いかけていった。

「あっ! 待ってよ~」

セリナもルドに続いた。

2人を追うように、セリアとライカも走り出した。


ウォークを追ってセリア達がたどり着いたのは、誠児達の上陸地点であった砂浜。

そこで足を止め、セリア達と対立するウォーク。

「ここなら何も気にせずに戦える」

ウォークは海に向かって、槍を突き出した。

すると、槍がまた青い輝きを放ち、海から十数体のウォーク現れた。

「これって、影兵?」

ライカの言う影兵とは、影の共通能力の1つで、自分と全く同じ分身体を作ることができる能力のこと。

ただし、身体能力や精神力などは、本物に比べると極端に低い。

「こんな奴ら一撃で仕留めてやる!!」

意気込んだルドは、分身体に向かって力強く、愛用の斧を振り下ろした。

分身体はあっけなく切り裂かれ、元の海水に戻った・・・かに思えた。

「なっなんだ!?」

飛び散った海水は、まるで磁石のように、集まっていき、元の分身体へと戻った。

驚くルド達に、ウォークはなだめるように言う。

「驚くほどのことじゃない。 水は刃物では斬れない・・・それだけのことだ」

「このっ!!」

諦めずに斧で分身体を斬り倒していくルド。

「はあっ!!」

「やあっ!!」

「えいっ!!」

そこへライカ達も参戦するが、何度攻撃しても分身体はすぐに復活してしまう。

その上、海から次々と分身体が現れてくる。

「これじゃあ、いくら雑魚でもキリがないじゃない!」

ライカがそう吐き捨てると、セリナは慌ててゴウマに連絡する。

『おっお父さん、どうしよう!?』

アストの頭にあるメインモニターに映ったゴウマは、セリナ達にこう告げる。

『セリナ、少し落ち着きなさい。 通常の攻撃が効かないのなら、特殊な攻撃を喰らわせるしかあるまい』

『そりゃそうだけど、特殊な攻撃って具体的になんなんだよ!?』

『えっエクスティブモード時のここ攻撃のことででしょうか?』

『それじゃあ分身体は倒せても、本体はどうするのよ!』

4人が頭を抱えている時に、ゴウマがこう口走った。。

『1つだけ可能性があるかもしれん』

『えっ!? なになに?』

『分身体とはいえ、相手は海水だ。 熱を加えて気体にしてしまえば復活することはないだろう』

熱という言葉を聞いた途端、セリア、ライカ、ルドはその言葉の意味を理解してしまう。

『『『まっまさか・・・』』』

『セリナ。 お前の力を使って分身体を蒸発してしまうのだ』

『『『やっぱりー!!』』』

それは3人にとって、影出現より恐ろしい言葉であった・・・

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